027
『これにて幕だ。絶望せよ。――魔球・億眼絶死』
「おまッ!? 喋るのかよ」
100ターンが経過した瞬間に孔雀王ルシファーが放ったその技により、俺と華とシャドウ栞の肉体は耐性貫通99999の最大ダメージを食らって消滅した。
そこには『大罪耐性』も『無敵』も『不死鳥』も効果を発揮するような隙はなく、ただただ全てを無為にする『必殺』だけが存在したのだった。
◇◆◇◆◇
名称:四聖極剣スザク
レアリティ:『LR』 レベル:100/100
HP:+1200 ATK:+800
スキル:不死鳥・戦
効果:攻撃を100%聖炎属性に変更し、また死亡した際に一度だけ復活する。
説明:全ての封印が解けた劫火なる剣の本当の姿。使い手に永遠の命を与えると言われている。
名称:四聖極杖スザク
レアリティ:『LR』 レベル:100/100
HP:+400 ATK:+1600
スキル:不死鳥・魔
効果:通常攻撃の属性に聖炎属性を追加し、聖炎属性で与えるダメージを100%アップする。
説明:全ての封印が解けた劫火なる杖の本当の姿。数多の魂によって鍛えられた魔杖は使い手に聖なる炎を操る力を与える。
名称:朱雀王金冠
レアリティ:『SSR』 レベル:80/80
HP:+0 ATK:+600
スキル:『キングスタイル』or『クイーンスタイル』
効果:リーダースキルを男性なら『キングスタイル』。女性なら『クイーンスタイル』に変更する。
説明:偉大なる朱雀の王を象徴する金の冠。装備することで王の力を手に入れることができる。
◇◆◇◆◇
この『ゲーム』とやらは戦闘に関する属性の扱いが少し面倒だ。
もっとも華が強大すぎるおかげで今まで考えずに済んでいたのだが、『孔雀王ルシファー』との決戦に際しては、装備やジョブを見直す必要に迫られたために、華と顔を突き合わせて考えることになっていた。
「情報がねぇと決められねぇ部分があるな。なぁ、もう少し検証した方がいいんじゃねぇか?」
「いえ、あまり負けすぎると良くない気がいたしますので、検証は先の1回にしておきましょう」
「負けすぎる……と? いくらでも死ねるのにか?」
勿論、あれこれと想像で語るわけにはいかず、この話しあいをするため、直前に一度、孔雀王ルシファーに挑んだのだ。無論、鍛え上げたステータスなら勝てるかもという希望があったので手加減抜きの全力でだが。
ただまぁ、捨て戦闘だったのは否定しない。全力だったが試行錯誤はしていた。
それが、相手のリーダースキルを無効化するために華に『朱雀王金冠』を装備させ、『クイーンスタイル』で挑み(もっとも孔雀王のレアリティが華より低いということもなく華では無効化できなかったが)、加えて俺のジョブを『嫉妬男子』で後衛かつ前衛はミニスカサンタ華にして相手の攻撃力を下げて相手が死ぬまで耐久するという方法だったが。
「孔雀王ルシファーに関してですが……。あれは以前挑んだときより禍々しく見えました。負けた際に何か罰則があるのかもしれません」
「そうか? 俺はダラダラ過ごしてたせいの時間経過ってオチだと思うがな」
俺がそう言えば華は苦笑いをしながら「そういう可能性もありますね」と言いながら言葉を続けていく。
「そうですね。あれは、その、他のモンスターとは明らかに違って見えました。無為無策に何度も突撃するべきではないと、わたしは思うのですが」
「うーむ。まぁ、違うと言えば違うが」
言われればそうかもしれない、が。さすがにあれがフィールドを破壊しながらこちらに向かって進軍してくるとかはないだろう。システムが変わってしまう。
ただ、相手に知能が全くないと考えるのも早計だろうが。
そもそも、知能があろうがなかろうがここの戦闘はターン制なのだ。何かする余地があるとも思えない。
とはいえ、だ。
華の勘の鋭さは神憑り的だ。無視する理由は薄かった。
何かがある、とだけ考えておこう。
「で、だ。それでも決められるもんは決めちまおう。属性はどうする? 魔法使いの方がダメージは出る。が、場合によってはミニスカサンタの方で行くことになるぞ」
先の戦闘は敗北したが、得られた情報は多い。
まず、先の戦闘で耐久戦が通用する可能性は破綻した。
検証のために挑んだ孔雀王戦だが100ターンを超えた瞬間に、相手が必殺技を使って強制的にこちらが死亡し戦闘が終了してしまったのだ。
死ななかったが、攻めきることはできなかった。
孔雀王戦には時間制限がある。そして俺たちは2人という通常のパーティーからすればあり得ないほどの少人数でそれを突破しなければならない。
なので、耐久戦略が破綻した以上、次は火力戦で挑むことになる、のだが。
「つか、今回は俺も攻撃に参加するしな……。やっぱ自動的に魔法使いになるんじゃねーのか?」
先の検証戦。耐久戦である以上、俺は攻撃力を下げるだけでなく、フレポから出たランクの高い回復アイテムで回復行動に参加していた(なおアイテムの回復で手番は潰れる)。
だが今回、俺の回復行動なしで戦うなら魔法使いの華のリーダースキルによるダメージ減衰は必須だと俺は考えている。
でなければ栞が死ぬ。『防御』によるダメージ半減が使える俺と華はともかく全体攻撃を使ってくる孔雀王相手の場合、栞は回復しつづけなければいけないからだ。
華は難しい顔をして考え込んでいた。
長考とは華にしては珍しい。
だが属性の扱いは面倒だ。これで戦闘が破綻する危険性もあるのだ。悩むのは当然といえば当然だろう。
(属性。属性なぁ)
このクソみてぇな『システム』の中でもとくにクソだと俺が思っている要素だった。
そう、例えばだ。
火属性(小)のスキルのある朱雀剣で俺が攻撃をすると、その攻撃のうち3割のダメージが火属性に変換される。30%火属性70%無属性といったところか。
これで火耐性のある朱雀の雛鳥を攻撃すると無属性の70%は普通に通るが、30%の火属性攻撃は半減されて15%しかダメージが通らない。
これが火属性吸収を持つ朱雀王や無効化を持つ大朱雀に攻撃すれば無属性以外は通らない。
朱雀シリーズの装備が最終的に火属性吸収では対応できない聖炎属性を獲得するとはいえ、火属性であるこれらの武具で戦っていたならば、ものすごく苦労したことは確かだろう。
今までこの朱雀の養鶏場でなんとかなっていたのは華の攻撃が風属性の全体攻撃だったからでしかないのだ。その程度には属性問題というのはめんどくさいものだった。
華は未だ悩んでいる様子ではあったが、迷いつつも結論を出したようだった。
「そう、ですね。忠次様のおっしゃる通りに聖炎属性で挑みましょう。ダメージを抑えるためにもわたしのリーダースキルが必要なのもそうですが、実際、魔杖のスキルは無視できないほどに強力です」
そうだな。聖炎属性強化の杖があるなら、風属性全体攻撃に追加で聖炎属性による攻撃が重ねられ、攻撃要員が1人増えるぐらいのダメージ量になる。本来4人のパーティーで挑むような相手に2人で挑むのだ。
検証をやってねぇので聖炎属性は賭けでしかないが、それで挑むしかないだろう。
(もっとも華の勘を信じるなら。負けてもいい、で挑むのはやばそうなんだが……)
次は捨て戦闘ではない。本気の本気で挑まなければならない。
負けてもいい、はもうない。
(そう、これ以上は負けねぇ。ああ、負ければ負けるほど負けてもいいって気分になっちまうからな……。そうだ。そうなりゃ俺の傲慢は失われ、ただのゴミに俺は成り下がる)
ちなみに余談だが、ミニスカサンタの武器が与える冬属性には凍結の状態異常を与える効果に加えて即死効果がある。あるが、孔雀王はボスだ。状態異常が通じるとは思わない方がいいだろう。実際、即死する様子も、凍結する様子もなかったしな。
「俺も今度は戦士だ。リーダーは華だ。当然だが『クイーンスタイル』に変わっちまうから金冠は使うな。金冠装備でATKが上げられないのはもったいねぇが、ダメージを抑えねぇと何もできずに死ぬからな」
「はい。――忠次様」
なんだ、と華を見れば、突然突っ込んできた華によって、俺は強く抱きしめられた。
(こい、つ。なに、やってんだ……?)
でかい胸に溺れる。声が出せなくなる。しかし、微かな震えが華から感じられる。
華に大罪耐性はない。耐性のない人間があれに挑むのはどれだけの恐怖を覚えるのか俺にはわからない。
それでも……それでも、だ。
華の肩を叩きながら俺は告げる。
「華。やるぞ。今度こそだ。必ずぶっ殺すぞ」
「……はい。忠次様」
俺は孔雀王を滅ぼすのだ。俺のために。俺のためだけに。
ただ奴を殺してぇという傲慢すぎる願いだけで。