025
日課のランニングである。
しんしんと雪の降る小道。
そこで俺と華は出現した『朱雀の雛鳥』と『小朱雀』を相手にしていた。
「『まとめて死ね!!』」
トナカイ衣装の俺がマイク片手に敵に向かって叫びを上げる。『妬みの呪音』。俺の中にある嫉妬の感情を呪的に増幅し、敵の身体能力を低下させるスキル攻撃だ。
敵5体中3体に攻撃力低下の弱体付与がかかる。装備のマイクを進化させればデバフ成功率が上がるらしいが、そもそも発動率自体が高くない技だ。かからないことの方が多い。
「『華、殺せ!!』」
『号令:隷下突撃』。俺の命令によって、華の攻撃力を上昇させる特殊ステータススキル。『付与:獅子の心』はかかっていない。理由はわかっている。
俺は、『妬みの呪音』を使いこなせていない。
華がプレゼント袋に風の魔法をまとわせてぶん、と薙ぎ払う。華の魔法使いの時のスキル『神ノ風』の劣化模倣だ。
本来、プレゼント袋での攻撃は打撃攻撃になるのだが、華は『風魔法を極めし者』を使用して『攻撃』コマンドを改変しているらしい。
こうすることで本物の『神ノ風』に攻撃力は劣ってしまうものの1ターン目で敵全体を殲滅することが可能だった。
なお、下がった分の威力は隷下突撃でATKをプラスすることで補っている。
もっともミニスカサンタ華の必殺技『星よりも重い愛』を使えば1ターン目でも風魔法を使うことなく敵を殲滅することも可能なのだが、華の必殺技はモーションが長いので時間短縮のために風魔法を使っている。
(言葉にすりゃ簡単だが、この女、さらっととんでもないことしてるよな……)
戦闘が終了しドロップアイテムがジャラジャラと入ってきた。華と俺のスキルの効果により一体あたりのドロップ量が+4されている。
(とにかくドロップアイテムの効率は良い。レベルアップも武器の進化も容易いだろう)
だが、と俺はマイクを見る。やばい。まずい。意識して『妬みの呪音』を使っていて思うが、ゲロを吐きそうなほどの危機感があった。
(傲慢は俺の性質だから気にはならなかったが、嫉妬ってのはやばくねぇか?)
傲慢。それは俺のもともとの気質だ。
踏みにじることも隷属させることも俺の気性から来る本能だ。行うことに抵抗はなく、どの程度まで踏みにじれば他者を潰さずに済むかの塩梅もわかっている。
だから『号令:隷下突撃』を発現させるほどに『傲慢』を身体に染み込ませても問題はなかった。
――だが嫉妬はまずい。
嫉妬とは他者の優れたる点を見つけること――そんなおためごかしはどうでもいい。
嫉妬とは他者の優れたる点を見つけ、自らと比較し、焦がれるように欲すること――そうじゃねぇだろう。
嫉妬とは、他者の優れたる点を見つけ、自らと比較し、相手が優越していることに不満を持ち、故に、相手の破滅を願うこと。
妬みの呪音の習熟からの特殊ステータスを発現させる条件。それは恐らく、この俺が持つ嫉妬。それを身体になじませ、普段は自制している嫉妬という感情を、自然に発することができるようにすること。
嫉妬はなさけなくなんかない? 華は言う。馬鹿な話だ。その言葉にすがりついて嫉妬に身を浸す俺は、客観的に見りゃどうあがいても惨めに見える。
他者を羨む。焦がれるように、破滅を願うぐらいに、他者を羨み続ける。
ゲロを吐きそうになる感情だ。これに浸り、俺は朱雀の雛鳥どもの攻撃力を低下させた。
だが、モンスターならば、まだいい。
嫉妬。この感情を身体が覚えたことで俺は……。
――華を、羨ましがってしまっている。
その才能を、その美貌を、そのレアリティを、その身体能力を、その頭脳を、意思を、何もかもを。
心がねじ切れそうだ。踏み潰したくなる。傷つけたくなる。言葉で、暴力で、華を貶め、自らを充足させたくなる。
嫉妬の根源は自身の不足だ。足りない物を自ら埋めるのではなく、他者に原因を求め、その他者を破滅させることで満たそうとする。
それが俺の、俺の嫉妬だ。
無論、自ら努力しその穴を埋めるといった方法や、他者の美点を見つけることのできるなどといった諸々がなくもない嫉妬だが。
――それではいけないのだ。
それは嫉妬だが嫉妬ではない。焦がれるような感情を。相手を焼き尽くさずにいられないこの感情を。俺は制御しないことで制御しなければならない。
それが特殊ステータスを発現させることであり、妬みの呪音を自らのものにするために必要なこと。
嫉妬の良い所探しなんてやってはいけない。嫉妬は嫉妬であり、そこに善い使い方も悪い使い方も存在しない。
ただ、俺は深く深く、執念深く相手を嫉妬するだけだ。
(そして、もし、特殊ステータスが発現してしまえば……)
後戻りはできないだろう。
俺の性格は変わる。
今の俺は『傲慢』を取り戻したことで常に『傲慢』になっている。
ならば『嫉妬』したならば――。
「華」
「はい」
立ち止まっていた俺をじっと見ていた華を呼び寄せれば、華は嬉しそうに駆けてくる。
『傲慢』も『嫉妬』も人間の本性で、強烈な感情で、魂に根付く罪業だ。気軽にオンオフが利くようなものではない。というより一度身体に染み付けば、それに振り回され、破滅するまでが人間だ。
「華。お前は、憎たらしいほどまでに……完璧だな」
「はい。ありがとうございます」
俺がそういえば、華はにっこりと本心からの笑みを俺に向けてくる。
そこに、腹の底から吹き上がってくるものがある。
怒りだ。他者の性能に嫉妬することで湧き上がってきた怒りだ。今まで、うっすらとジューゴに感じていた怒りだ。嫉妬を明確に意識し、使いこなそうとし、身体に染み込ませたおかげで自覚できたぐつぐつと煮えたぎった感情だ。
――腹の底から思う。神園華の性能が羨ましい。
俺より優れた奴らが全て全て羨ましい。欲しい。その力が。その能力が。その才能が。
だから、俺にはないそれを持つ連中を、華を、踏みにじりたい。屈服させたい。俺のものにしたい。
強欲なる傲慢。貪欲なる嫉妬。俺の腹のうちに渦巻くそれに、俺は身を任せる。
「華」
「あっ」
華を自分から抱き寄せ、強く抱きしめる。折れても構わないというぐらいに力強く。強く。強く。
華が強く俺を抱きしめ返してくる。そこに性的な感情はない。人間的な愛情もない。
ただただその存在に俺は強く嫉妬する。こいつが羨ましい。こいつの力が欲しい。こいつを屈服させて俺のものにしたい。
――だから、俺は、もう、いいのだ。
七罪の特殊ステータスを発生させるとか、俺はもう、そういうことは考えなかった。
(自分の情けなさを恥じるならば、使えるものはなんでも使う。ゲロ吐きそうでも、そうしなけりゃならねぇ。なぁ、そうだろうよ俺よぅ)
だから、嫉妬を受け入れよう。この情けねぇ力を、俺は制御しねぇ。ただ、傲慢で方向付けだけをする。
華の抱きしめ返してくる手に、恐ろしいほどの執着を感じても。華の目に、粘りつくような怖気を感じても。
――それ以上に、この化け物を、俺は、俺の足元に跪かせたかったのだから。
『新井忠次は特殊ステータス『妬心怪鬼』を取得しました』
『新井忠次はエピソード3『七罪』を取得しました』
◇◆◇◆◇
かみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさま!!
ああ! かみさま!!
かみさま!! かみさま!!
『神園華は特殊ステータス『狂信』を取得しました』
◇◆◇◆◇
『妬心怪鬼』:ターゲッティングした対象のスキル成功率を低下させる。
『エピソード3:七罪』
効果:『大罪属性』に強い適性を持つ。
貴方の人間性は欠落している。
――『付与:獅子の心』の情報が更新されました。
『付与:傲慢たる獅子の心』:パーティー全体に『大罪耐性(中)』を付与する。【発動条件:命令による発動】




