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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
24/99

024



 名称:トナカイ忠次

 レアリティ:『HN』

 ジョブ:嫉妬男子

 レベル:1/30

 HP:400/400

 ATK:0

 リーダースキル:『なし』

 効果:なし

 スキル1:『妬みの呪音』《常時》

 効果:通常攻撃がATK0の全体ATK低下(小)(3ターン)呪術になる。

 スキル2:『聖夜の贈り物』《常時》

 効果:エリア『朱雀の養鶏場』のモンスタードロップを+1する。

 スキル3:『なし』

 効果:なし

 必殺技:『なし』

 効果:なし



 名称:聖夜の祝福・華

 レアリティ:『LR』

 ジョブ:ミニスカサンタ

 レベル:1/100

 HP:1120/1120

 ATK:620

 リーダースキル:聖夜のゴールドラッシュ

 効果:モンスターからの獲得ゴールドを2倍する。

 スキル1:『重愛連打(そうしそうあい)』《常時》

 効果:通常攻撃を敵前列地属性攻撃にする。

 スキル2:『ホワイトクリスマス♪』《常時》

 効果:状態異常にならない。

 スキル3:『特別なクリスマスプレゼント』《常時》

 効果:あらゆるエリアでのモンスタードロップを+3する。

 必殺技:『星よりも重い愛(グラヴィトン・ラブ)』《消費マナ:4》《クール:3ターン》

 効果:敵全体に地属性攻撃でATK3倍の攻撃を行う。


                ◇◆◇◆◇


 変化はあったがやることは変わらなかった。

 剣の代わりに装備できるようになった合成装備である『ボロボロ1人カラオケマイク』を手に俺はトナカイ姿のまま華と共に『朱雀の養鶏場』をランニングをする。

 隣の華も姿が変わっていた。

 ジョブチェンジしたのだ。『LR』『ミニスカサンタ』『聖夜の祝福・華』へと。

 なぜこいつのレアリティは変わらないのか。ミニスカサンタは職業なのか。聖夜の祝福ってなんだよとか、なんともツッコミどころしかない変化だが、なってしまっているものはしょうがない。

 なにより俺より強い。格段に。それは否定することのできない事実だ。

「それ、手首痛くならないのか?」

 華は装備であるところの『穴あきクリスマスプレゼント袋』を片手で担ぎつつ走っていた。そいつは華が走るたびにゆさゆさと上下に揺れ、結構な重さっぽいボロボロの大きな袋からポロポロとプレゼントらしき箱がこぼれていく。

 こぼれた箱は地面に転がると数秒ほどで姿を消していく。現実感がない。だが凝っている演出だ。俺のマイクなどただボロボロなだけだというのに。『システム』に優遇されている。そう感じる。

 俺の胸中の疑念に気づいているのかいないのか、華は少しの躊躇もなく「いいえ」と問いに答えを返してきた。

 華が少し話しましょうと言ってきたのでお互い立ち止まり、息を吐く。

 雪の積もる小道だ。息が白くなる。

「大して重さもありませんから辛くないですよ。それよりも、どうですか? ジョブチェンジをしてから何度か周回をしましたが、心身に変化はありますか?」

「心身の変化、ね。いや、たいした変化はないな。今まで通りだ」

 ジョブチェンジ。大層なコマンドに思えるがステータスはともかく肉体の変化は特にない。せいぜいがトナカイきぐるみを着て走るのがきついぐらいか。

 華にしても同じようで、露出の多い水着みたいなサンタ服を着てはいるが、その肉体の性能は変わったようには見えない。

 制服の時もそうだが、こいつ走ると胸が揺れるんだよな。目に毒だ。

 ちなみに寒くはないらしい。ミニスカサンタ服は、暖かい謎の力場みたいなものが身体の周りにあるんだとか。

(ま、むさ苦しい男子どもと一緒じゃなくてよかった、とだけ思っておきゃいいが)

 華の肉体はかなり魅力的だったが、相変わらず手を出せば深みにハマるだろうなという気配がビンビンでやべぇってなもんだから、手を出せないというよりは手を出したくはない。

 話を戻そう。

「変化っつーか、『勇猛』がスキルから消えてる影響か『付与(ハートセット)獅子の心(ブレイブ・レオ)』が使えなくなってるな。戦士だった時のスキルが関わってねぇ『号令(デッドカウント)隷下突撃(イェーガーストライク)』は変わらず使えるが」

 『付与:獅子の心』は効果がそもそも勇猛使用時という奴だから仕方がねーが、特殊ステータスで得た技能が使い方がわからなくなったかのように使えなくなっている。

 俺の言葉に華がじぃっと俺を見る。

「それはほんとうに、ですか?」

「本当もクソもそういう『仕様』なんじゃねーのか? さすがに以前のスキルに関わるものが使えるのはおかしいだろ?」

 肩を竦めた俺に華はいいえ、と首を振る。

「『戦士』である忠次様も『嫉妬男子』である忠次様もどちらも同じ忠次様なのですから、忠次様が後天的に習得した技能の使い方がわからなくなるなどありえません。何か他に原因があるのでは?」

 原因ねぇ。言われて初めて考える。

 原因。原因、かぁ。

 モチベーションが下がっているから、ってのもあるが、根本的に、このジョブが『勇猛』と相性が悪いからってのがあるような気がするぜ。

 『勇猛』ってのは結局のところ味方全体の戦意を上昇させて勇気を奮い立たせるプラスのパワーの塊だ。

 で、『嫉妬男子』のスキルである『妬みの呪音』ってのは自分の中の嫉妬心みてーなもんを手に持ってるマイクで増幅させて敵にぶつけるマイナスパワーの塊なわけだ。

 俺だったらジューゴの野郎に感じてた感情を増幅させてってところで、そんな状態で味方の戦意を上昇なんて器用な真似ができるわけがねぇってところなんだが。

「そうか。嫉妬なんつーもんを扱うからか。スキルを使う瞬間に、惨めで情けなくなってくる。後ろめたさのようなもんがある。……そりゃ勇猛の効果なんぞ出せるわけがねぇな」

「なさけなくなんてないです」

「華」

 隣には華がいる。驚くほど近い距離に。また、だ。また俺のパーソナルスペースが侵食されている。

「忠次様。それが忠次様なのですから、何を情けないと思うのですか」

「ってもな……嫉妬だぞ? 嫉妬。そいつをぶつけて戦うとか、情けねぇだろ。どう考えても」

 こいつを極めれば何か得られるかもっていうのとスキルの効果でドロップアイテムが増えるからこの腐れたトナカイ衣装を着込んじゃいるが、本心じゃさっさと『戦士』に戻りてぇんだよ俺は。

「それがどうしました。忠次様は全然情けなくなんかありません」

 迷いのない華の瞳。

「どんな姿だろうと、かわらず、貴方はわたしのかみさまです」

 かみさま(・・・・)。正気を疑うか冗談の一種ともとれる言葉だ。だが華は特殊ステータス『新井忠次(かみ)への信仰』を発現している。

 疑う必要のない。迷いのない華の本心だった。

 額を押さえる。ふわふわとした糞重いトナカイ衣装。隣にはミニスカサンタ。馬鹿みてぇな場所で、馬鹿みてぇなコスプレ。

 深い溜め息が漏れた。

「情けなくなんてない、か」

「はい」

「嫉妬は、かっこ悪くねぇのか」

「全く」

「これも俺の一面。だからこれも使いこなせば俺の力になるってか」

「当然です」

 隣の華を見る。こいつは変わりがない。何一つぶれていない。まっすぐな狂信だけを俺にぶつけてくる。

 俺の中の傲慢が疼く。隷属させているはずの華にこれだけ言われて腹が立たねぇのか、と。俺は魂まで腑抜けてんのかと。

 手にもっていたマイクを強く握る。

 そうだ。やれることがあるならやる。当然のことだろう。手詰まりだった俺の性能をあげるチャンスがまだまだあったのだ。

 レアリティの低さにも、ジョブのクソさ加減にも全然絶望なんかしている暇なんてない。

「やるぜ。華」

 俺は立ち上がった。華が「はい」と何一つ変わらぬ表情で俺を見てくる。俺が落ち込もうが立ち上がろうが変わらぬ信頼の目。

 その信頼が重いと思うこともある。

 だけれど俺は思うのだ。

(癪だが、ここまでまっすぐなら逆に心地良い)

 これを気恥ずかしい。鬱陶しいと思っていたからこそ、俺のレアリティは『R』だったんだろうと。俺のレアリティは『HN』だったんだろうと。


 そうして俺たちは走り出す。休んでいる暇はなかった。



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