022
「装備不可だとぉ……」
ようやくレア度の高い素材がいくらか集まってきたのでドロップしたレシピから『封印されし聖なる剣』というものを『装備合成』で作成してみたものの、聖なる剣を顕現させた俺は変わらない『ステータス』の装備欄を見て低く呻いた。
剣だろ? こいつは剣のはずだ。クリスマスっぽい装飾の施されたピッカピカに光っている剣。どう見ても戦士職が装備できる剣である。
だが装備できない。
どうしてか『封印されし聖なる剣』は俺には装備不可なアイテムに指定されていた。
「クソッ、剣カテゴリは戦士装備の筈だぞ」
アイテムデータを呼び出して穴が空くほどにウィンドウを注視する。
名称:封印されし聖なる剣
レアリティ:『HN』 レベル:1/30
HP:+30 ATK:+50
スキル:冬属性(小)
効果:攻撃属性を30%冬属性に変更する。
説明:聖なる夜を謳歌するイケてる男子のための剣。
なんだこりゃ! イケてねぇと装備しちゃいけないってのかよ。
「クソがッ、なんだこれは。クソ、貴重な素材を使ったんだぞ!!」
アイテム説明欄に馬鹿にされたような気がした俺は地面に電飾まみれの剣を叩きつける。
これなら朱雀剣を進化させるために素材を使った方がよかった。
聖なる剣という表記から孔雀王打倒のために必要な武器なのかと勘違いした俺が馬鹿だった!
そもそも装備できないなんて……ッ。何がイケてる男子のための、だ! イケてる奴しか装備できねーなら俺が作る意味が最初からねーじゃねぇか!! いや、違う違う俺がイケてねぇってわけじゃねぇって――……クソがッ!!
「忠次様落ち着いてください」
「あ゛あ゛んッ! うるッせぇッよ!!」
激怒する俺をフォローするように華が声を掛けてくるが、俺ががなりたてれば、華は仕方ないとばかりに地面に落ちた聖剣を拾い、砂を払ってからアイテムステータスを表示させ、それを注視した。
ステータスの使い方に精通すれば他人のアイテムであろうとアイテムの情報を見ることぐらいはできるようになる。
もっとも所有権を移すには所持者が明確な譲渡の意思を見せなければならないが。
「この聖なる剣とやらは恐らく、戦士ジョブ用の装備ではなかったのでしょう。聖剣――語感からして『勇者』専用の装備では?」
「『勇者』だぁ? クソッ、ジューゴ用ってことかよ」
華と同じ『LR』レアリティ。かつ、全校生徒中たった1人しか存在しなかった『勇者』という特別なジョブ。
クソみたいな幼馴染専用の装備がこんなところにか?
「世界まであいつにお優しいってことかよッ」
悪態をつきながら胡散臭げに華が持つ聖なる剣を見る。
――だがどうにも、電飾剣は聖剣には見えない。
この電飾まみれのクリスマスソードはもっと俗っぽい気がする。イケてる男子のための聖なる剣であっても、勇者が使うような聖剣ではないような気がする。
気がする。気がする。気がする。そうではない。確信として、違うという意識がある。
そもそもがここがイベントエリアで、こいつが誰でもドロップできるレシピから作られるイベント装備で、素材が特別なボスのドロップでもなんでもなくただイベントで出現するモンスターからドロップする通常素材ならば、だ。
俺は何か勘違いをしているのかもしれない。
察しの良い華が気づけないのは、その気付きがゲーム的なものだからだ。
経験や洞察で現状、あらゆることを推察してきた華。
しかし、そんな華でも気づけないものは当然としてある。ゲームに詳しくない華の知識や発想にないもの。化け物の理解の外にあるもの。娯楽。
そもそもが少しおかしいのだ。
俺のジョブは戦士だが、ドロップアイテムとして装備できない杖や弓などを手に入れている。
装備メニューにもそれらのアイテムは表示されている。たとえ装備不可だったとしても、選択肢としてはそこにあるのだ。
「装備できない武器を取得できるってことは。ジョブを変える方法が、あるってことか……? 聖なる剣は戦士用の装備でないだけで俺にも装備できる可能性がある?」
華に聞かせるために推論をつぶやいてみる。
無論、このエリアに来られなかった装備可能な奴に譲渡できるよう、俺にも作れるようにしてある、というだけの可能性はあるのだが……。
朱雀王金冠の件がある。
現状無理があるだけで何か条件があるのかもしれない。
(そうだ。なんでもかんでも不可能だ無理だと思って諦めるのはもうやらねぇ。なんか方法があるんだよこれは……)
キレる時間は終わりだ。次はよく考える番だ。
そう、単純に意識の問題なのかもしれない。
もしかしたら装備不可の武器を装備する方法があるのかもしれない。
今までは無理でもこれから可能になるのかもしれない。
しれない。しれない。しれない。苦笑する。諦める理由はたくさんあった。
だが、無理無駄無謀と論じる前に、華のように、何かを試してみるべきだろう。
「ジョブの変更……それは、もしかしてげぇむ的な話でしょうか」
先の呟きから詳しく説明せずとも俺の思考を辿ったのか華から問いが飛んでくる。前後さえわからない俺の呟きだけできちんと話についてきている。
察しがよくて助かる。久しぶりに俺が説明する番だなと思いながら俺は恐らく、と言いながら先の呟きについてもう少し詳しく語ってみる。
そうして華から「そうですね。忠次様のおっしゃる通りとにかく試してみるべきでしょう」と賛成を得、残ったレシピを順に眺めた。
「マイクの方も作ってみるか。それとトナカイ服とサンタ服の方も」
「はい、忠次様。わたしもそれが良いと思います」
疑問があるなら全て作ってみてから考えればいい。レシピは複数あるのだ。聖なる剣だけでは足りない何がしかの答えが得られるかもしれない。
力のない自分をどうにかしたいなら嘆いたり不満をぶちまける前に動くべし、だ。
「うっし。ランニングの周回数を増やすぞ。華」
とにかく素材だ。素材を集めよう。
◇◆◇◆◇
名称:トナカイコスチュームレシピ
レアリティ:『なし』
効果:武具合成に『トナカイコスチューム』を追加する。
説明:素材を集めて冬の生誕祭の準備をしよう。
◇◆◇◆◇
華から受け取ったジュースを片手に合成画面の結果を眺めた俺は心に受けた衝撃に少しばかり立ちくらみを起こしかける。
ちなみにジュースはクリスマスツリー破壊報酬の『朱雀大樹の果実』をフレポガチャで出てきたジューサーでジュースにしたものだ。フレポは『プレゼントボックス』のランダム開封アイテムでアホほど手に入るからな。コップもフレポガチャでゲットできた。最近は日用品はなんとか揃えられてきている。現状、ここに来た時ほどの不便はもうない。
閑話休題、だ。
「できた。できたが……」
なんだこれはと俺は小さく呟いた。こんなもの……こんなものが、あるのか? あっていいのか?
動揺する俺の手からコップが落ち、それが地面に落ちる前に華がひょいっと受け止める。おい俺の飲み残しをさっと飲むのはやめろお前。
名称:トナカイコスチューム
レアリティ:『EX』
効果:ジョブ変更
説明:ジョブを『リア獣』または『嫉妬男子』に変更する。
名称:サンタコスチューム
レアリティ:『EX』
効果:ジョブ変更
説明:ジョブを『サンタ』または『ミニスカサンタ』に変更する。
名称:ボロボロ1人カラオケマイク
レアリティ:『HN』 レベル:1/30
HP:+80 ATK:+0
スキル:1人男子パーティー(笑)(小)
効果:デバフの付与率を10%上昇させる。
説明:聖夜の夜に1人でカラオケ楽しいかい?
名称:穴あきクリスマスプレゼント袋
レアリティ:『HN』 レベル:1/30
HP:+50 ATK:+30
スキル:冬属性(小)
効果:攻撃属性を30%冬属性に変更する。
説明:聖なる夜を駆ける働き者のためのアイテム。
「ジョブ、変更……だと」
即座にステータスを呼び出す。存在する。確かに存在する。『ジョブ変更』というメニューが。
選択し、開き、呻いた。
「『嫉妬男子』……。そういう、ことか」
クソみたいなアイテムの表記。そうか。ここでも、か。ここでも分類されるのか。
戦士魔法使い僧侶盗賊の基本4職の分類。それがここにも存在している。俺はトナカイコスチュームもサンタコスチュームも両方作った。それで変更できるジョブが『嫉妬男子』のみ。『リア獣』や『サンタ』おそらくは女性専用職らしい『ミニスカサンタ』にも適性はない。
表示されているジョブは2つだ。現在のジョブである『戦士』と新しく追加された『嫉妬男子』。
推測だが嫉妬男子の適正武器は『ボロボロ1人カラオケマイク』だろう。聖なる剣はリア獣。プレゼント袋は2種のサンタ用。
「……ふぅぅぅぅぅぅ……」
怒りはある。だが息を吐く。嫉妬男子。嫉妬男子と来たか。
確かに俺はそうだ。嫉妬している。ジューゴに心底から嫉妬している。戦士よりもしっくりくるぐらいにな。
「忠次様。ジョブはどうしますか?」
俺の感情など全て把握しているらしい華の問いかけに、俺は頷いた。
「たぶんだが、元のジョブにも戻れるみたいだしな。変更するよ。するさ。するしかねぇよ」
俺のレアリティは『R』だ。ステータスとしてはもう詰んでいて、あがき続けるしか道はない。
嫉妬男子とはシステムさえも小馬鹿にしてきてクソむかつくが新しい力は新しい力だ。選り好みしている余裕なんて俺には欠片も存在しねぇ。
だから俺はジョブを変更した。
――そして地面に崩れ落ちた。
「忠次様!! な、何が!?」
慌てて駆け寄ってくる華。崩れ落ちた俺の全身はふかふかのトナカイコスチュームに包まれている。ぬくい。あったかい。心地よい。
だが問題はそんなところじゃねぇ!
名称:トナカイ忠次
レアリティ:『HN』
ジョブ:嫉妬男子
「お、俺の、レアリティが……下がって……やがる……!!」
クソがッ!