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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
19/99

019


 『リーダースキル:クイーンスタイル』

 効果:敵のレアリティが自身よりも低い場合、そのリーダースキルを無効にする。


 『リーダースキル:キングスタイル』

 効果:自身よりレアリティの低い味方の最大HPとATKを1.5倍する。


「これは便利ですね」

 朱雀王金冠を頭に被った華が変化したステータスのリーダースキルを確認している。

 華自身のリーダースキルもかなり有用なものだが、ここの敵は『奇襲』を多用してくる。シャドウサンタ戦はともかく雑魚戦においては華のクイーンスタイルこそが戦闘回数を効率よく稼ぐのにちょうどよいものなのだろう。

 何しろこちらのターンから始まれば華の攻撃で全てが終わるのだから。

「俺の方は、あまり意味がないな」

 キングスタイルは自身よりレアリティの低い人間に対して使えるリーダースキルだ。そして、その効果は自分自身には及ばないし、華は俺よりレアリティが高い。

 金冠の攻撃力上昇こそ魅力的だが、俺にとってはそれだけの装備だった。

 華はそんな俺の言葉に少し首を傾げ、何事か考えていたようだったが結局少し黙ったきりでそれはともかくと言う。

「途中だったランニングを済ませましょうか。忠次様、鍛錬ですからね。やることは多いですよ」

「あいよ。で、結局何周するんだ?」

 まずは朱雀王を倒してから、ということで聞いていなかった周回数をそろそろ聞くことにする。

 戦闘でよくわからなかったが1周あたりの距離はそこまでなかったように思えるが……。

「そうですね。とりあえず今日は30周しましょうか」

「……さんじゅう……さんじゅうッ!?」

 こ、こいつは何を言ってるんだ!?

 ふ、普通戦闘は2、3周が基本だ。多くても5周が限界。そう、戦闘行為は精神疲労が酷い。過剰な回数の戦闘行動はたとえその日を乗り越えられても翌日や翌々日の精神に影響する。

「無茶だ。華、お前は知らないだろうが、戦闘っていうのは」

 真剣に止めようと口を開けば、忠次様、と真面目くさった顔の華に見つめられる。ステータスを見るためにこちらから近寄っていたために華の顔はものすごく近い。

 美しく整った造作。化粧などしていないのに、口紅でも塗ったがごとく艶めいた唇。男ならば魅了されずにはいられない女がそこにいて、俺をじっと見つめてくる。

 黙らされる。

 指を一本立てて俺の唇に当てた華は俺の反論をそっと封じた。

「戦いじゃありませんよ? ご飯の調達と、ランニングです」

「は?」

「わたしたちがするのは孔雀王との戦いに向けた準備であって、戦いではありません」

 だって、と華は言う。

「戦いというのは勝敗定かならぬものを決めるためのものであって、どうあってもわたしたちが勝つと決まっているものはただの作業ですよ?」

 その言葉。その視線。その威風。

 頭の金冠も含めてまさしく、この女こそが王者であるという証明。

 傲慢を取り戻したはずなのに、精神的に屈しそうになった事実から目を逸らして俺は咳払いした。

「そ、それにしたって30周は多くはないか?」

「先ほど走った感覚から1周あたりが150メートルほどですので、たったの4,5キロぐらいです」

 人間の時速は平均5キロと言われてますからだいたい1時間ぐらいですね。なんて華は言う。

「ただ、これはランニングですので、この後も忠次様には他の運動をしてもらいますが」

「は? え? これで終わりじゃねーの?」

「ランニングは体力づくりの一環ですし、それだけだと他の筋肉が成長しませんよ」

「お、おう」

 俺は凡人だ。なんでもやると息巻いても、実際になんでもやれるわけではない。

 だけれど、凡人を脱却するためにはやれることはやっていかないといけない。

 これもまた、やれることの1つなのだろうか?

 そんな俺の前で華がさぁ、と俺に向かって『朱雀の養鶏場』への侵入口を指差した。

「走って、止まって、走って、止まって。です。戦闘中は休めますから、ね」

 それはシャトルランみたいなもんじゃねーのかな。なんて思いながら俺は仕方ねぇなと走り出すのだった。


                ◇◆◇◆◇


「必殺技『風神乱舞』」

 華の必殺技によってシャドウサンタがHPバーごと砕け散って消滅する。ファンファーレが鳴り響き、俺は膝に手をやりながら息を吐いた。戦闘ではなくランニングで息が切れただけだ。

 華の変更されたリーダースキル『クイーンスタイル』のおかげで相手の奇襲は無効化している。

 なので俺は勇猛を使い、剣を振るっただけだ。戦った、とは言えないだろう。

 そしてシャドウサンタたちとの再戦は滞りなく終了した。

 精神的な疲労は微かなものだった。

 既に戦闘の組み立てができているのだ。そのとおりにやれば100戦やっても100戦勝つ。そういう戦いだ。華の言うとおり、これはただの作業でしかない。

 洞窟への帰還と孔雀王戦への招待を『NO』にしていると華が巨大なクリスマスツリーを見ながら頬に手をあてているのが見える。

 この女でもイベントごとには情緒を感じるのだろうか? そんなことを考えながら話しかける。

「でけーよな。その木」

「そうですね」

 空には巨大な月が浮かんでいるし、しんしんと雪が降っている。

 恋人同士が訪れればきっとロマンチックだっただろうと思いながらドロップアイテムを確認していれば。

「帰還まで1分。なるほど? そういうこと、かしら?」

 独り言を呟いた華が杖を大きく掲げた。

 華? と問えば奴は少し試しますと杖を振り下ろす。

「『神ノ風』」

 華が攻撃すると同時に出現するクリスマスツリーのHPバー。呆然とする俺の前で、華の攻撃を受ける度に目に見えてクリスマスツリーのHPがガリガリと削れていく。

 驚く俺の前で華は、ああやっぱりと笑みを浮かべた。

「これもこわせるんですね」

 いやいやいや、こわせるんですね。じゃねーよ。こぇーよ。


 木からは『朱雀大樹』と『朱雀大樹の果実』を3つ手に入れることができた。


                ◇◆◇◆◇


 名称:朱雀大樹

 レアリティ:『SR』

 説明:炎に強く、丈夫で艶のある大樹、の丸太。


 名称:朱雀大樹の果実

 レアリティ:『R』

 効果:最大HP+50《8時間》空腹度回復

 説明:赤々と実った果実。甘く、滋養強壮の効果がある。


                ◇◆◇◆◇


 荒く息を吐く俺の前で華が「ほら、やろうと思えば忠次様なら楽にできますよ」なんて両手をあわせながら言っている。

 30周。合計150戦だというのにこの女にはそれを誇るような気配は全くない。ただランニングを済ませた、そのことだけを注視してさて次は、なんて言い出している。

「まぁ待て。ドロップアイテムを確認しようぜ?」

「わたしが昼食の準備をしている間に素振りでもしていただこうと思いましたが、先にそちらをしましょうか?」

 そのような諸事は夜の授業中にこちらで確認しますのにと華が言っているがそうじゃねーよ。ちったぁ休ませろ。

「で、えー。倒したのが『朱雀の雛鳥』が330体。『小朱雀』が240体」

「『大朱雀』が90体。『シャドウサンタ』『朱雀王』が共に30体ずつですね」

 かなり倒しまくりだな。と俺は感心する。ついでに言えば俺のレベルは途中で落とした魂を使ってあげたので40まで上がった。

 Rレアリティの限界値(カンスト)だ。あとはもう通常の方法で俺のステータスが上がることはない。

 装備で補強するか、食事で一時的に上昇させるか。あとは華を信じてトレーニングをするか、だ。

 ちなみに華は56レベルまで上昇していた。素のATKは6100。装備込みなら、朱雀王さえ先手さえとれば一撃で殺せるほどの凶悪な生物。

「アイテムは、お互いに抜けはあるが、合わせればこんなものか」

「レシピは途中から落ちなくなったのでたぶん全て揃ったと思いますけど」


『朱雀の雛鳥の魂』『小朱雀の魂』『大朱雀の魂』『朱雀王の魂』

『朱雀剣』『朱雀弓』『朱雀短剣』『朱雀魔杖』『朱雀錫杖』

『朱雀小羽根』『朱雀大羽根』『朱雀翼』『朱雀大翼』

『朱雀肉』『朱雀希少肉』『朱雀骨』『朱雀大骨』『朱雀卵』『朱雀希少卵』

『朱雀嘴』『朱雀大嘴』『朱雀冠』『朱雀銀冠』

『朱雀王肉』『朱雀王卵』『朱雀王希少肉』『朱雀王希少卵』

『朱雀王鋭嘴』『朱雀王金冠』『朱雀王大骨』『朱雀王大羽根』『朱雀王大翼』

『朱雀の砥石』『朱雀の稀少砥石』

『シャドウサンタソウル』『レシピ:サンタコスチューム』『レシピ:トナカイコスチューム』

『レシピ:穴あきクリスマスプレゼント袋』『レシピ:ボロボロ1人カラオケマイク』

『レシピ:封印されし聖なる剣』『レシピ:777(スリーセブン)ターキー』

『プレゼントボックス』

 それぞれのドロップアイテムの数はさすがに省略する。そして、これに加えて。

『朱雀草』『希少な朱雀草』『朱雀大樹の果実』『朱雀大樹の稀少果実』『朱雀大樹』

 といった道中の草や最奥のクリスマスツリーを破壊して手に入ったものもある。

 始まりの洞窟のゴブリンが魂と武器しか落とさなかったことから考えれば凄まじいアイテム量に目眩がしそうなぐらいだ。

 同時に、これら食材アイテムが『始まりの洞窟』の時に手に入っていれば俺たちはあれほど苦しむことはなかっただろうということも。

 パンの味に飽きて洞窟の壁を舐めだした奴とかいたからな……。

「レシピに関してはターキー以外は装備品か」

「しかも作ってみるまで性能はわからないみたいですね」

「有用なものだといいんだがな」

 作ろうにも素材が足りないので作れやしないが。

 呟きながら光明が開けたもののやることが多すぎるなとも思った。

 人手が欲しい。

 しかし洞窟に残っているメンツでここまで来れる人間はいない。断言できる。あのクズどもの中に1人でボスまで行くような気の狂った奴はいない。

 存在しないのだ。

 そんなことを考えている俺の前でさてドロップ品は数え終わりました、と華が俺を見ながら言う。

「忠次様には今から素振りをしていただきますね」

 少し休んで疲れもとれている。

 わかったよ、と俺は剣を顕現させながら立ち上がった。



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装備を作れるゲームあるある、ハイペースで進めると通常素材が足りない。
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