015
大朱雀の巨大な肉体による突撃をシャドウ御衣木さんが受け止めた。杖や何かで防いだとかそういうことでなく、文字通り身体で受け止めていた。
影のような肉体、そのどてっぱらに炎に包まれた巨鳥の巨大な嘴が突き刺さっている。見るだけで気分の悪くなる光景だ。
ただ当然といえば当然で、シャドウ御衣木さんは全く痛みを感じたようには見えない。
戦闘用の簡略されたステータス画面を見れば、シャドウ御衣木さんの体力はかなり減っていた。リーダースキルでダメージを減少しても1000近くのダメージを食らっているのだ。
俺たちは本日2回目の『朱雀の養鶏場』のエリア攻略を行っていた。
ここは通常戦闘の4戦目。敵は変わらず小朱雀が4体。それに大朱雀が1体だ。
奇襲を持つリーダースキルから始まった敵5体の攻撃の全てを受け止めたシャドウ御衣木さんは平然と杖を構えている。
同じく前衛に立っている俺に対して攻撃がないのは珍しいが、そういうこともたまにはあるのだろう。
こちらのターンが始まる。コマンド順は俺→華→シャドウ御衣木さんに設定してあるので、俺の行動からだ。
「ぉおおおおおおおおおおお!! 『勇猛』!!」
まずはスキルの発動。以前はなんとなく惰性でやっていたスキル発動を、やるぞ! やるぞ! やるぞぉ! そういう気分でスキルを発動させる。
これで何か変わるのかはわからないが、変わろうと思って、強い意思でやらない限り何かが変わることはない。
始まりが華の言葉であったとしても、やると決めたのは俺の決断で、俺の意思だ。だからきちんとやる。
そして攻撃。ちなみにわざわざ俺が前衛に立っているのは、前衛でないと『剣』カテゴリの武器は『攻撃』ができないからだ。
さて、正直、この後の華の攻撃があれば俺の『攻撃』は全く意味のない行動ではあるのだが、これも華いわく『試行』だそうだ。
きちんと攻撃の意思を持って攻撃をする。相手に痛撃を与えることを狙って攻撃を行う。
重要なことらしい。なので動くことを意識して、待機位置から走って、剣を大朱雀に叩きつける。意識しなくとも身体はオートで動くが、こうして意識するとオートじゃなくなる。気を抜けばオートで身体は動かされてしまうが、気合を入れて攻撃を行う。
これは最初の1戦からやり続けていることだった。
「おらぁ!!」
俺自身のATKと朱雀剣のATKの合計数値が大朱雀のHPを大きく削る。
俺の身体がオートで元の位置に戻ろうとするので、どてどてと不格好だが走って戻る。実のところオートで戻ってしまえば戦士や盗賊の前衛はスタイリッシュにスタっと戻れるし、疲れないのだが、やると決めたらやらねばならない。そういう真面目さがなんか、強くなるために必要なんじゃねぇかなぁ?
ここばかりは疑問だった。
というか俺、あのずばって斬ってシュタって戻るオート特有の超人感が好きだったんだけど。
そんなことを考えていても時間は進む。俺の行動が終わり、華の行動だ。
祈るように手を組んだ華が「スキル『三対神徳:信仰』」と呟いた。今まで聖女と言えば御衣木さんのイメージだったが、こうして祈る姿を見ると華もまた何か貴い存在のように見えてしまう。
(俺の中で華の人格面の評価ってだだ下がってるよな)
俺や華、シャドウ御衣木さんの身体を空から降り注いできた光の膜が包み込む。1ターン限定の『無敵』のステータス付与だ。
戦闘自体は1ターンで終わるが華もスキルを強化したいようで、こうして攻撃の前に自身の持つスキルを使っていた。
「神ノ風」
そして華が朱雀魔杖を大きく振るうと敵陣の中に発生した風の刃が敵を切り刻んでいくのだった。
大朱雀も小朱雀も何もかも関係なく、全てのモンスターのHPが0になる。
ファンファーレが鳴り響き、戦闘の終了を告げた。
ドロップアイテムやゴールドの表示されたウィンドウを前にくるくると華は魔杖を振り回すとびしっとそれっぽいポーズを取る。
「戦闘が終わった時に、勝利のポーズでも作りましょうか」
「……なぜ?」
「かっこいい忠次様が見たいからです」
ポーズを決めたまま華がこくりと首を傾げた。
制服姿だろうがなんだろうが華がやれば感嘆してしまうようなものでも、俺がやっては様にはならない。あの魔杖くるくるだって、座古や茂部沢がやれば失笑を誘うようなものになるだろう。
「却下だ。却下」
え~、と不満そうな華を前に、俺は剣をひゅっと振るとアイテムボックスの中にいれる。血振りに意味はない。ここのモンスターを斬っても血などつかないが、なんとなく戦いが終わった、と心のスイッチを切るのに便利だったからだ。
なにしろ戦闘が終わったらランニングだ。戦闘! って気持ちで走るのはなんかやりにくい。
そんな俺の前で華は目を輝かせて俺を見ていた。
「なに見てんだよ? これからボスだろ? 早く行こうぜ」
「はい!」
気合たっぷりだな。そんなボスが楽しみかよ。
◇◆◇◆◇
名称:新井忠次
レアリティ:『R』
ジョブ:戦士
レベル:24/40
HP:2800/2800
ATK:1400
リーダースキル:『戦士の誉れ』
効果:戦士のHPを上昇(小)させる
スキル1:『勇猛』《クール:6ターン》
効果:パーティー全体の攻撃力上昇(小)
スキル2:『なし』
効果:なし
スキル3:『なし』
効果:なし
必殺技:『大斬撃』《消費マナ3》《クール:3ターン》
効果:通常攻撃の2倍の威力で敵1体に攻撃する
装備武器:朱雀剣(HP+96 ATK+160)
追加スキル:火属性(小)
名称:神園華
レアリティ:『LR』
ジョブ:魔法使い
レベル:20/100
HP:2000/2000
ATK:2500
リーダースキル:『風神の守護』
効果:パーティー全体が受けるダメージを3割減少させる。
スキル1:『神ノ風』《常時》
効果:通常攻撃がATK2.5倍の全体風魔法攻撃になる。
スキル2:『三対神徳:信仰』《クール:6ターン》
効果:パーティー全体に1ターン『無敵』を付与する。
スキル3:『マナの奔流』《常時》
効果:ターン経過で補充されるマナを+2する。
必殺技:『風神乱舞』《消費マナ5》《クール:5ターン》
効果:敵1体に風属性魔法でATK3倍の値で5回攻撃する
装備武器:朱雀魔杖(HP+90 ATK+150)
追加スキル:火属性強化(小)
◇◆◇◆◇
ここに来る前の俺のレベルからすると、たった一日でレベルがこんなにあがるのは、異常といっていいほどの速度だった。
半端じゃない効率だ。
いや、違うか。きっと『始まりの洞窟』とやらが長居するような場所じゃないのだ。
きちんと考えて動けば、きっともっと早くに脱出できていた。それは、こうして考えて行動するようになったからわかったことだ。
「で、ボスだけど。今度こそいけるか?」
「はい。相手の動き方は把握しています。事前にお話ししたように設定は変えましたか?」
道中じゃ必要がなかったのでシャドウ御衣木さんはコマンドの最後に置いていた。
だけれど、今回はこの人を行動順の一番最初に回す。
「相手のリーダースキル対策に関しては、これでいいな?」
「はい。コマンド順を変更したことで対応できます」
ボスエリア。相手のリーダーは『朱雀王』だ。リーダー効果は『奇襲』と『炎上』。
奇襲で相手のターンからの行動開始となり、そのうえでこちらのパーティー全員に『燃焼』のバッドステータスを与えてくる。
『燃焼』。こいつは俺たちの身体を全身火だるまにする最低のバッドステータスだ。生きながら炎に燃やされながら行動しなくちゃならなくなる。
状態異常としても優秀で、効果としては、HPを毎ターン500削り、かつ行動不能にする恐ろしい状態異常である。
これだけだとフレンド含めて3人しかいないこちらが詰んでいるように見えるが『燃焼』の行動不能は『攻撃』や『防御』ができないだけなので、アイテムやスキルは一応だが使える。
もっともこの状況で使えるようなアイテムは全く持っていない。だが、シャドウ御衣木さんを最初に行動させることでスキル『三対神徳:慈愛』によるバッドステータスの解除が行えるのだ。
前回の負けを思い出して、今からのボス戦への戦意を高める。
前回は、手も足もでなかった。
『燃焼』に加えて『朱雀王』による全体攻撃が問題だったからだ。
HPの低かった華が朱雀王の攻撃と『燃焼』によるダメージでこちらのターンに回った瞬間に一番最初に死んだのだ。
もちろん御衣木さんのパーティースキルによるターン開始回復もあるが、LRレアリティであろうとも魔法使いである華自身の最大HPが低すぎ、全く回復ができていなかった。
そうなれば当然、俺たちに敵を倒す手段はなく、俺が殺され、シャドウ御衣木さんが殺されで戦闘は終了。死に戻りと相成った。
なので今回はきっちり対策をしてきた。
シャドウ御衣木さんがいるので『燃焼』対策は万全だ。
華が最初に落ちる問題も、レベルの上昇と武器によるHPの増強でなんとかした。
「勝つぞ」
ボスのいる空間を前にして俺はしっかりと宣言する。
「はい」
華が小さく頷き、俺たちはその、巨大なクリスマスツリーの見える空間へと入る。
―『ボス:シャドウサンタ』『ボス:朱雀王』との戦闘を開始します―
ポーン、とアナウンスが俺たちのステータスウィンドウに表示された。
そして劫火を纏って上空高くから垂直に落ちてくるマッチョの鳥人間『朱雀王』。
さらに空の彼方より、黒いトナカイに牽かれた黒いソリから爆弾を地上に落としつつ影のようなサンタがやってくる。
あとは普通の戦闘と同じように突然『大朱雀』が2体出現して敵の出現がこれで終わりだ。
俺は、背後へと回る華を守るように剣を構えた。
シャドウ御衣木さんが猛攻撃で死ぬことを防ぐために俺も気合を入れて前衛をするのだ。
「さぁ、やろうぜ」
今回の戦い。俺の役目は徹頭徹尾決まっている。
アタッカーたる華を殺させないために肉の壁になる。それだけだ。




