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ソシャゲダンジョン  作者: 止流うず
第一章 ―狂信する魔性―
1/99

001


 ――汝、友と手を取り迷宮を踏破するべし。


 意識のどこかでそんな幻聴を聞いたような気がした。


「痛ッ……あー」

 意識が覚醒する。身体がビシビシとして痛い。岩場で寝てるからなんだろうが、もうちっと寝やすくならんものか。

 三ヶ月経っても慣れない現状に不満を抱きながらも、身体に掛けていた学ランを片手にむくりと起きあがる。

「『ステータス』」

 呟くのは魔法の言葉だ。誰かが発見した『ステータス』という命令(コマンド)

 それを用いてここに来てから日課となっている朝の確認をする。


『名称:新井(あらい)忠次(ちゅうじ)

 レアリティ:『R』

 ジョブ:戦士

 レベル:16/40

 HP:2000/2000

 ATK:1000

 リーダースキル:『戦士の誉れ』

 効果:戦士のHPを上昇(小)させる

 スキル1:『勇猛』《クール:6ターン》

 効果:パーティー全体の攻撃力上昇(小)

 スキル2:『なし』

 効果:なし

 スキル3:『なし』

 効果:なし

 必殺技:『大斬撃』《消費マナ3》《クール:3ターン》

 効果:通常攻撃の2倍の威力で敵1体に攻撃する』


「ちッ、変化はねぇかァ」

 はぁ、と変化がないことにため息を吐く。

 寝て起きればステータスの数値が増えている、なんてことはない。俺が強くなるにはきちんと工程(レベルアップ)をこなすしかない。

 もっとも心底から願っているのは、このクソみてぇなステータス表示が消えてなくなることだが。

 変わらぬ岩場。『ステータス』なんて命令(コマンド)が通じてしまう現実。

 相も変わらず目が覚めても現状は変わらない。


 ――俺がこの悪夢から覚めることはない。


「あぁぁ。クソったれめ。憂鬱だ」

 周囲を見る。ここは天井まで岩に覆われた岩場だ。そこそこに広い。それこそ何百人単位で人が横になれる程度には。

 そして、ここに来た当初よりは少なくなったが、地面には俺と同じく岩場に直接寝ている人間の姿があちこちに見える。

 彼ら彼女らは少年少女だ。それは同じ学校に通っていた学生たちで。俺と同じ境遇の人間たちだ。

 その多くが男女混合の4人の小集団。

 男子は男子、女子は女子で固まっていたのは最初の辺りで、この悪夢的状況が進んでいくにつれてそんなこともなくなっていった。余裕がなくなったともいうべきか。

 そして、よくよく観察して見れば岩場の出入り口近くには4人組が多く、出入り口から離れていくにつれ集団は3人や2人になっていく。最終的に壁際にまでいけば1人がたくさんだ。集団に見えて集団ではない。ただの有象無象の集まり。

 4人。4人が重要だ。俺も早く4人に加わらないといけない。

「クソが……。パーティー。探さねぇとな……」

 呟き、昨日のことを思い出して憂鬱な気分になる。俺も昨日まであれら4人組に加わっていたのだ。

 『始まりの洞窟』の突破。そのためにここで仲良くなった連中と。

 だが、それも昨日までのことだ。

「やりようはあるが……あいつらじゃダメだ……」

 やる気がねぇ、のはわかる。ここで燻っているのはそういう連中だ。俺だってやる気はそこまでない。

 俺も同じだ。同じ問題を抱えてる。

(それでも、あいつらよりはマシだ)

 『ステータス』のレベル部分を見て自分に言い聞かせる。

 『16/40』。まだ俺は成長できる。伸びしろが残っている。だから、マシ(・・)である。

(おいおい、何がマシなんだ?)

 自分の思考から目を逸らす。マシだと思いたいだけなのかもしれないなんて考えない。考えたくない。

 そうだ、自分の限界が近いことはわかっていても、せめてこの始まりの洞窟を突破したい。だからこそ、こんな岩場で寝ていられるかよ。

(『N』はダメだ。せめて『HN』以上のレアリティの高い連中とパーティーを組まねぇと)

 そのために俺はあいつらと決別したのだ。

 昨日の夕方。気弱な視線で縋るように俺を見ていた連中を思い出す。記憶を振り払うように俺はぐっと拳を握った。

 あの視線。畜生。嫌だな。嫌な目だったな。

(なぁ、俺もあんな目をしてたのか?)

 心の中で俺を置いていった連中に問いかける。

 置いていかないでくれ。俺をここに残さないでくれ。そんな目だ。

 そう、優秀な連中はことごとく俺たちを置いて進んでいってしまった。

 この『始まりの洞窟』に残っているのは全てがどん詰まっている奴ばかりだ。

 レベル。ステータス。スキル。この場にいるものたちに共通してないもの。優生と劣等をわける格差。

 『レアリティ』。

 ステータスに厳然と存在するそれを見て俺は小さく呟く。

「どうにかしねぇと、な」


                ◇◆◇◆◇


 【負け犬】始まりの洞窟攻略スレその1021【せめてゴーレム倒したい】


 50 名前:名無しの生徒さん

 未だに洞窟抜けられねぇっす ノーマルレアリティのレベル限界到達 絶望w


 51 名前:名無しの生徒さん

 同上 当方僧侶だがノーマルの限界値のレベル20じゃカスみたいな量しか回復できない 仲間の戦士に文句言われる 殺したい


 52 名前:名無しの生徒さん

 ああ、地球に帰りてぇ……


 53 名前:名無しの生徒さん

 質問なんだけど洞窟の装備品ってマジで見習い以上でないの? 見習い短剣とか見習い短弓じゃボス倒せないんだけど


 54 名前:名無しの生徒さん

 >>53

 短剣と短弓ってことは低レア盗賊か? まぁここで燻ってるってことは使えるスキルはもってねぇんだろうな

 諦めろ。俺たちと一緒にここで腐っていこうぜ


 55 名前:名無しの生徒さん

 ここって慣れると案外住みやすいよな 岩って冷たくてひんやりしてるし


 56 名前:名無しの生徒さん

 デイリーやっときゃ食料にも困らないし 慣れてきたんで野外で寝ても平気になってきた


 57 名前:名無しの生徒さん

 攻略はLRとかSSRに任せて俺たちはここでのんびりしてよーぜ どーせ誰かがラスダンクリアすりゃ解放されんだからよ


 58 名前:名無しの生徒さん

 >>57 その情報 未だにソースわかんねぇんだけど 誰が言ってたんだ?


                ◇◆◇◆◇


 『ステータス』から『ガチャ』を選び、更にその中から『フレンドポイントガチャ』を選び、一日一回の無料分を回す。

「日課終了ー相変わらず出てくるアイテム糞だけど」

 出てきたNレアリティアイテムの『薬草』を『アイテムボックス』にぶち込み、俺はフレンドポイントを見て軽く首を傾げた。

「相変わらず誰か俺を使ってくれてるのな」

 ステータス画面には様々な機能があり、その中には武器や薬草などの便利道具の手に入る『フレンドポイントガチャ』というものがある。

 回すのに1回100ポイントが必要で、運が良ければ低確率だが『R』レアリティ以上のアイテムも手に入るガチャだ(もっとも日用品ばかりで使えるアイテムは少ないが)。

 俺が言っている「俺を使ってくれてる」というのは、俺と『フレンド』になっている誰かが毎日俺を使ってくれているという意味だ。

 『フレンド』はエリアの攻略に関わる重要ごとなのだが、まぁその辺りは一旦置いておく。

 とにかくポイントが増えている。これが結構嬉しいことだった。

 増えてるポイントは毎日20ポイント。誰かが一日一回俺の幻影(シャドウ)をフレンドとして召喚してくれているらしい。(ちなみに同じ人物を何度使っても一日に増えるのは一回20ポイントだけである)

 ここに飛ばされてきた当初に誰彼構わずフレンド交換しまくったリストを眺めて呟く。

「あの頃はよかったなァ」

 そう、高レアリティの人間も最初は戸惑っていたのか誰とでもフレンド登録を交わしてくれたのだ。しかし、日数が進むごとにだんだんとフレンド登録を解除され(登録できる人数に限界があるのだ。そのため、先に進むために強いフレンドが必要なら弱いフレンドは必要がなくなる。フレンドポイント稼ぎのためにわざと弱い奴を残す奴もいるらしいが)、今残っている高ランクはLRが1人だけだ。

御衣木みそぎさん。かなり進んでるんだろうなァ」

 御衣木さん。御衣木(みそぎ)(しおり)さん。俺の友人の幼馴染の美少女だ。日本人離れしたスタイルと顔面係数の持ち主で学園のマドンナと言っても過言ではないお人である。俺が知り合いなのも、奇跡的な偶然の産物であった。

 フレンドリストに表示されている顔写真(アバター)を見ながら、御衣木さんはかわいいなぁと呟く。フレンドリストを開いて御衣木さんの顔写真を見るのがこのクソみたいな環境での唯一の癒やしだった。

 御衣木さんのレベルを見れば60レベルに到達していた。俺が16レベルだというのにこの差。やはり最前線は効率が違うのだろう。

 とはいえ、完璧な御衣木さんにお願いしたいことは一応存在する。これ1つで今の俺の問題がすっぱり完全に解決するのだが……。

「御衣木さんが戦士か魔法使いだったらいいんだけどなぁ。あー、無理かぁぁ」

 ジョブを転職できたなんて話は聞いたことが無い。できたらいいのに。というか、できれば多くの問題が解決する。

 ジョブには様々な特色があり、御衣木さんのジョブはパーティーを回復させられる唯一無二の存在『僧侶』だが、欠点があるのだ。

 『ジョブ:僧侶』はモンスターにダメージを与えられない。攻撃ができない。仲間の回復だけが彼らにできることなのだ。

 LRのフレンドがいるのに俺が始まりの洞窟なんてとこに踏みとどまっているのもそれが理由だった。

(フレンド。そう、フレンドだ)

 高レベルの戦士がフレンドにいれば、どんなパーティーでも『始まりの洞窟』のボスを攻略できる、らしいのだ。

 正攻法で突破した連中もいたらしいが、俺より低レアリティで洞窟をクリアした連中の多くは、高レアリティのフレンドが育つまでフレンドを切られてなかった運の良い奴らだ。

 だが、そういう幸運に与れなかった人間はかなり多い。この洞窟には、そういう不幸な有象無象がごろごろしている。

 あー、と岩場の天井を見上げる。岩だ。この場は謎のヒカリゴケで結構明るいが、洞窟なのだ。散々見慣れた光景だ。

 考えすぎている。さっさと行動しなけりゃならんのに。

「……デイリーすっか」

 合成画面を開き、昨日の探索で拾った装備を合成していく。合成にはモンスターを倒して手に入るゴールドが必要だが、カス装備の合成にはそれほど使わない。溜まっていくばかりのゴールド。洞窟が突破できれば湯水のように使えるようになるのだろうか?

 合成ベースとなる装備アイテムを選択し、強化に使う素材アイテムを選択する。それを5回ほど繰り返し、デイリーミッションの表示されている画面を見る。

 『フレンドガチャを1回回せ』『武器合成を5回せよ』『モンスターを10体倒せ』

 毎日午前4時(システムメニューに時間なんかは表示されている)に更新されるこれらミッションをクリアすれば、この岩しかない場所でもミッション報酬として水と食料が合計3食分もらえるのだ。

「とりま飯にすっかな」

 宙空に浮かぶミッション完了画面から受取ボタンをポチっと押した俺は、空中に出現したパンと水の入ったペットボトルをキャッチするのだった。


                ◇◆◇◆◇


 某月某日。とある高校の生徒全学年約400名が授業中に突然全員消失した、という大事件が日本全土のお茶の間を騒がせた。

「うわぁ」「なんだこれ」「真っ暗だぞ」「どこだここ?」「ステータスオープン!」「鑑定!!」「おい誰だ俺の足踏んだの」「携帯圏外だぞここ」「何が起こってんだよ畜生」

 もっともその時の俺たち――消えた400名の生徒たち――はそんな元の世界のことも知らず謎の洞窟の中に突然放り出され、右往左往するしかなかったのだが。

 やがて誰かが『ステータス』という奇妙な単語を叫べば『自分のステータス』が見れることに気づき、『ステータス』から使える『パーティー』機能で『最大4人のパーティー』を作って『始まりの洞窟』を踏破すればその先に進めることに気づいた(ステータスさえ足りていれば1人でもクリアできるらしいが、パーティー結成にはデメリットがないので4人でのクリアが推奨される)。

 ここには飲み水どころか動植物すらいないが『デイリーミッション』さえクリアすれば日々の3食の食料が貰え、また『フレンドガチャ』という機能を使えば役に立つ道具のほか、ごくたまにだが嗜好品の類も手に入ることも。

 携帯は当然のごとく圏外だったが『ステータス』より選べる『掲示板』機能を用いることで、情報の収集が始まり、少しずつこの空間の『攻略』は進んでいくのであった。


                ◇◆◇◆◇


 一般的に『戦士』は体力が高く壁となって敵の攻撃を受け、『魔法使い』は貧弱だが攻撃力と範囲火力に優れ、『盗賊』は『探索』に必要な特殊能力を持ち、『僧侶』は回復や蘇生ができる。そういう扱いだ。

 ただし魔法使いと僧侶、使える(・・・)盗賊の数は少ない。

 戦士クラスは掃いて捨てるほどいる、というわけではないがそれなりにいる。もともと結構な人数のジョブが戦士であったからだ。

 なので最初の頃は戦士だけでパーティーを組む連中もいたが、パーティー戦術が浸透し始めた今ではパーティーに戦士は一人ぐらいいればいいかな? みたいな扱いのことも多く、結構あぶれ気味ではある。

 そういうパーティーを組めない連中や攻略を諦めた連中は岩場の隅に固まってなにかしらしているらしい。まぁ小人閑居してなんとやらだ。どうでもいいことばかりだろう。

「どっか人数の少ないパーティーに組み込んでもらうのが一番なんだがな」

 最高なのは『R』以上の魔法使いか僧侶のいるパーティーだ。そこに元からいる戦士を追い出せれば一番いい。

「そいつのスキルかレアリティが俺より劣っていりゃ一番だが……」

 多少人格や繋がりが濃かろうとステータスの性能がそれらを駆逐する。

(現状、この『始まりの洞窟』ではレアリティ『R』も少ねぇ。片っ端から未攻略パーティーに当たればどうとでもなるはずだが……)

 レアリティ。ステータスに表示されているこのアルファベットはLR>SSR>SR>R>HN>Nと右から左に性能が高くなる。Nはノーマル。一番低いレアリティだ。一番高いLRはレジェンドレア、だと思う。実のところ誰かが言い出したものを使っているだけでどっちも正式名称はよく知らないのだが。

 名前はどうでもいい。問題はその性能だ。

 レアリティ。こいつが高ければ高いほどレベルの最大値が高くなる。『才能限界』という奴だ。ちなみに『R』の限界は40レベル。『N』は20だ。『LR』は100。

 このよくわかんねぇ世界ではこいつの影響がかなりでかい。

 レベルの上昇で上がるステータスの値はどのレアリティでも変わらず、ジョブによってその上昇幅は変わるのだが、レベルの最大値が高いということはつまりそれだけステータスが上がるということだ。それだけでエリアのクリア難易度は変わってくる。

 そしてスキルだ。こいつはクールタイムがそこそこ長いが、戦闘で重要な役割を持つ能力である。

 レアリティの高さはそこにも関係してくる。スキルの最大枠は3つなんだが、レアリティで所持しているスキルの数と性能は変わる。

 『R』レアリティである俺でも所持スキルは1つだし、『N』レアリティの奴なんかは全くスキルを持っていない。低レア連中は『必殺技』がない奴も多いしな。いわゆる詰みって奴だ。

 で、これが実際にどれだけの違いを出すのかって言やぁ『N』ランクでパーティーを組んでも『始まりの洞窟』すら突破できないが、鍛えた『SR』は一人で『始まりの洞窟』をクリアできちまうのだ(まぁ数値の話であって実際にやったという話は聞かないが)。


 ――レアリティは神だ。


 レアリティが高けりゃどこでもやっていけるが、レアリティが低けりゃ地を這うしかない。

 なんでパーティー集めも気合をいれなきゃ前回の二の舞い、なんだが……。

「とりあえず、出遅れねぇうちにパーティー回ってみるか」

 周囲を見れば起き出した連中がぞろぞろと『始まりの洞窟』に向かい始めていた。

 前回のパーティーからは衝動的に出ちまったが、よくよく考えてみれば次の移籍先をギリギリまで探してから出ればよかったかな、なんて考えて。

(今の楽な状態の方が、ずっとあいつらと居続けるストレスよりマシか?)

 我慢して俺のレベルが最大値までいけばもしかしたら始まりの洞窟はクリアできたのかもしれないが……。やはりあの連中とずっと組み続けることに俺は耐えられなかったのだ。



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