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勇者エドワードがベタに魔王を倒すまで  作者: 山川 景
第1章 ローゴン討伐
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その五 魔物の根城

 簡素ながらも、どこか非日常的な威圧感を漂わせる古い石造りの塔。そこは近辺の魔物の根城であり、それらのボスであるローゴンが待ち構えている場所だ。

 エドワードとコウタがその塔の前に辿り着いたのは、太陽がちょうど最高点に達した頃。おおよそ、計算通りの進行率だ。


「これかぁ。遠目で見だことはあったけんども、近ぐで見ると格別にデッケェなぁ」


 首をほぼ九十度可動させて塔のてっぺんを見ようとしているコウタを置いて、エドワードはさっさと塔の内部へと足を踏み入れていった。石の門をくぐり、音を殺して細心の注意を払い歩みを進める。


「あ、待って!」


 そんなエドワードの努力も虚しく、コウタはばたばたと派手にエドワードの後を追い、彼に叱咤される羽目となった。



 塔の中は冷たい風が吹き抜け、肌寒い。

 てっきり魔物がひしめいているのかと勘ぐっていたその内部は、閑散としていた。一階部分は一つの大空間となっていたが、木材や木箱が無造作に散らかされているのみで、ネズミ一匹見当たらない。


「何もいねぇっぺー」


 肩透かしを食らったコウタがそう呟いた。

 塔の内壁に沿うように造られた螺旋階段の先を、エドワードは見つめる。不在でないならば、ローゴンは塔の最上階にでもいるのだろうか。と、そう推察する。


 上の階に登ろうとエドワードが足を動かした瞬間、二人の目の前にぼとりと何かが落下してきた。


「何だべ、びっくりしたぁ、スライムかぁ」


 落下してきたのは一体のスライムだった。

 撃退しようと、エドワードが剣を握る手に力を込めた、そのとき。ぼと、ぼとっと、後方からも音がした。振り返ると、そこにも二体、スライムが落下してきた。


 まさか。


 嫌な予感がしたエドワードは、一階大空間の天井部分を見上げる。先ほど螺旋階段の先を見たときは意識していなかったが、目を凝らしよく天井を見てみると、そこには数多のスライムがへばり付いていた。見るもおぞましい光景だ。同じようにコウタも気付いたのか、「ぎゃあ」と特段野太い声をあげている。


 コウタ伏せろ!


 前から一体、後ろから二体のスライムが、同時に飛びかかってきた。コウタが注文通り身を屈め始めたのを横目で確認するや、エドワードは長剣で回転斬りを放った。三体のスライムは、それで斬り裂かれる。

 だが、続けざまにぼとぼとと容赦なくスライムが落下してくる。天井にいる数を見た感覚でこれはキリがないと判断したエドワードは、コウタを引っ張って螺旋階段へと走行していった。それをも阻むようにスライムが落下してくるが、エドワードは片手で長剣を振るい次々に退けていく。


 やがて二人が何とか螺旋階段に乗り上げると、スライムはそれ以上追ってこなくなった。落下してくるものもなくなったが、そのときにはすでに一階の床面は、ほとんどがスライムで覆い尽くされていた。割と間一髪だったようである。


「スライムがこんなに怖かったのは初めてだべ――」


 コウタのその言葉に同意しながら、エドワードは螺旋階段を先行して登っていった。



 程なくして二階へと到着したエドワードは、床面の高さにそっと頭だけを出して、様子を伺う。

 予想に反して、またもネズミ一匹見当たらない大空間。天井を見ても、へばりつくスライムの姿もない。


「どうだぁエドワード」


 何もいないように見えるが、とコウタに返事を返しつつ、エドワードは二階へと上がる。だがよく目を凝らすと、反対側の壁面近くに誰かが、こちらに背を向けてうずくまっているのが見えた。

 同じく二階へ上がってきたコウタと、無言で目を合わせるエドワード。三階へ上がる螺旋階段はその誰かの側にあるので、エドワードは長剣を構えながら、恐る恐るそちらへ近づいていった。

 ――うずくまっているのは、人間の少女だった。近くだと、泣きじゃくっている声が聞こえる。


 おい。


 エドワードが無骨に声をかけると、少女はびくりと身体を震わせ反射的に振り返った。少女の赤毛のツインテールと、白いワンピースのフリルのすそが揺れる。


 大丈夫だ、俺達は魔物じゃない。君の敵でもない。


 エドワードは極力優しい口調に努めながらそう言った。少女のそばかすだらけの顔は涙と鼻水でくしゃくしゃで、とても怯えている様子だった。だが、エドワードを見て、言葉を聞いて、その表情からは徐々に警戒の色が消えていく。


「助けに、来てくれたの?」

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