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勇者エドワードがベタに魔王を倒すまで  作者: 山川 景
第1章 ローゴン討伐
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その一 激しい人員不足

 西大陸の中央に位置する、周囲を平野に囲まれた小さな王国、ハイラント。


 この辺りでは近ごろ、いつにも増して魔物の活動が盛んになっていた。これに見兼ねたハイラントの国王は、付近の魔物のボス、「ローゴン」を叩く作戦を決行した。

 結果は、惨敗。魔物の勢力は、思っていたより強大だった。敗走した王国騎士団はその七割の数を失い、青ざめた国王は、無謀とも言える策に打って出た――。



 この日。青年エドワードは、城の玉座の間にいた。国王からの、直々の命令をたまわるためだ。

 国王の前だというのに、エドワードは白シャツに茶色の半パンという、いかにも庶民風な格好でいる。


「知っての通り、王国騎士団は返り討ちに合い、この国の兵力はもう残り僅かだ」


 国王のその言葉には、悲壮感が漂っていた。豪勢な金色の洋服と赤いマントが、逆に国王の落ち込みを引き立てているように見える。

 エドワードはこくりと頷きながら、「はい」と相槌を打った。


「ときに、エドワードよ。聞けばお前は、城下町でも評判の、腕っぷしの持ち主だそうだな」


 よく分からない話の流れに、エドワードは今度は「はぁ」と、曖昧あいまいな相槌を返す。


「お前には勇者の素養があるとまで言う者もいる。そこでだ。お前の実力を買い、魔物のボス、ローゴン討伐の任務を与えようと思う」


 「え!?」と声を漏らしたエドワードの眼が、驚愕と動揺で見開かれる。


「おっと、そうだな驚くのは当然。だが、少し聞いてくれ」


 何か言おうとしていたエドワードを手で制し、国王は続けた。


「私たちの現状も理解してくれ。自衛の為にも、もうこれ以上は騎士団は動かせない。もう頼れる存在がいないのだ。それに、騎士団のように物々しく大人数が動くより、小回りの効く優秀な一人が動いた方が警戒もされず、ローゴン討伐の可能性は上がるかもしれない」


 一理あるのかもしれない、が――当然、エドワードには納得できない。


「そう困った顔をするな。お前は王国騎士団志望と聞いた。この任務を成し遂げた暁には、私が直々に、騎士団の出世コースへと入れてやろう。……頼む。お前に期待しておるのだ。このまま魔物をのさばらせておけば、いつ国民に危害が及ぶか分からん。この国の平和を、守ってくれ」



 結局、国王に押し切られ、ローゴン討伐の任務を引き受けてしまい、エドワードは城を出た。真面目で実直な性格が、裏目に出たとも言えるかもしれない。


『やれやれ、国王様も何をお考えになっているのやら。王国騎士団が敗けた相手に、アレが敵う訳あるまい』

『全くだ。ヤケになっても、何も解決しないというのに』


 聞いてしまった城の警備兵のひそひそ話を思い出し、エドワードは足取り重く帰宅する。

 エドワードは一人暮らしで、雑貨屋を開いて生計を立てている。普段から外の魔物と戦って、その戦利品を店で売っているのだ。腕っぷしが強いという評判は、この生活習慣のお陰だろう。

 二階の生活スペースまで行くと、エドワードはベッドに寝そべって考え込んだ。


 警備兵の言う通り、自分にローゴン討伐が敵うとは思えない。しかし、国王直々の命令を、もう引き受けてしまったのだ。後には戻れない。


『今日はもう昼過ぎ。出発は明日の朝にするといい』


 国王はそう言っていた。つまり、明日の朝にはとっとと行ってこい、ということ。

 もう選択肢はない。悩んでも、しょうがない。その考えに至ったエドワードは、ローゴン討伐任務の為の準備に取り掛かり始めた。



 翌日。

 エドワードの雑貨屋の前には、「臨時休業」と書かれた看板が置いてあった。

 エドワード本人はといえば、出立前に国王に挨拶に出向いていた。


「しかし、そんな格好と獲物で本当に大丈夫か?」


 国王の言葉に、エドワードは首を縦に振った。

 彼が身に付けているもので武器、防具と言えるのは、左手に持った小さな木製の盾と、左腰の長剣のみ。盾は手作り、剣はたまたま平野で拾ったもので、お世辞にもいい装備とは言えない。

 国王は騎士団の装備一式を勧めたが、使い慣れたものが良いと、エドワードが断った。


「ま、お前さんが納得いくものを使うのが一番良かろう。もう出発するか?」


 エドワードはこくりと頷く。


「では私はここで、ローゴンを討ち取ったと言う報告を心待ちにしておく。武運を祈っている、勇者エドワードよ」


 国王の激励に、エドワードはひざまずいて頭を下げた。



 通り慣れたいつもの門を、今日はいつもとは少し違う気持ちでくぐっていく。

 まだ朝早く、小鳥のさえずりが聞こえる中。エドワードは覚悟を決めて、魔物の行き交う外の平野へと足を踏み出していった。

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