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勇者エドワードがベタに魔王を倒すまで  作者: 山川 景
第2章 死者出ずる村
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その四 魔法というもの

 そう言えば、毒消し草が一つだけ残ってた。


 月明かりに照らされた、目の前の二体のゾンビを睨みながら、エドワードはそんな事を考える。

 ゴーゴン討伐へ向けて出立する際に、携帯していたポーチ。その中に、使わなかった毒消し草を一つ残していたのだ。ポーチは、コウタの家にある。家に戻ればゾンビの毒の解毒はできるだろう。


 だがその前に、ちゃんと礼を返さないと、だな。


 エドワードは腰を落として構え、迎撃体制を取る。二体のゾンビは、捻りもなくそんなエドワードに突っ込んできた。

 攻撃を避け、反撃を加えるも、やはり決定打には至らない。何事もなくゾンビ達は攻撃を再開してくる。


 これじゃあ、ダメだ。


 つい先ほど、コウタの家で確認したばかりだ。これからも、自分はこういう事態に身を投じていくのだろうという予感がある。ならばこんなところで、武器がないとは言え、ゾンビ二体程度に手こずるようでは、話にならない。


 何か、方法は――。


 攻防を繰り広げながら、かすり傷を増やしながら、エドワードは必死にもがき、考える。

 空中に立つ、魔王の姿が浮かぶ。アレの喉元に届きうる牙を、爪を、何かを――!


「おいおい、無理してんじゃねぇよ。命あっての物種だぞ?」


 ガイアンのあざけるような笑いが、背後から聞こえてくる。

 それを無視し、迫るゾンビの胸元に拳を打ち付けようとした、その瞬間――エドワードの拳が一瞬、白い光を放った。蛍が周囲に飛び交い、消え去ったかのような、僅かな間の儚い光だ。


「ん――?」


 それを視認したガイアンは、疑問により眉をしかめる。

 エドワードの拳が、ゾンビに到達した瞬間――ゾンビの胸元が、白い閃光と共に、大きく弾け飛んだ。まるで、さっきまでとは比べものにならない威力の攻撃を受けたかのように。


 な、何だ!?


 エドワード本人が、目の前で起こったことに動揺していた。死に物狂いではあったが、繰り出したのはただの右ストレートのつもりだったのだから。

 胸元に大きな風穴が開いたゾンビは、重力に引かれてゆっくりと崩れ落ちた。もう起き上がってくる気配はない。

 自分の手のひらを見ても、何もおかしいところはない。エドワードは何が起こったのか、何を起こしたのか、理解できないでいた。


「魔法だな」


 エドワードの横をすり抜ける途中、ガイアンがそう言った。彼は、呆然とするエドワードに襲いかかろうとしたもう一体のゾンビの、その頭を肘打ちで粉砕してしまった。


 ――! すまん!


「まぁ、あんたがもう一度魔法を使えば、こいつも瞬殺だったろうが」


 頭を無くして倒れていくゾンビを見やりながら、ガイアンは呟いた。


 ……何だって? さっき俺がやったのが、魔法なのか?


「どう見たってそうだったろうが。使ったのは、今が初めてかよ。つーかその顔じゃあ、魔法が何かも分かってねぇのか?」


 いや、聞いたこと程度ならあるが……。


 ハイラント王国で育って十六年、エドワードは魔法を使う「人間」を見たことがなかった。だが、火や雷、力の流れを操る魔法というものが存在しているというのは知っている。それについては半信半疑であったが、あの魔王が使っていたバリアのようなものや、その後飛んできた雷は、おそらく魔法に類するものだったのだろう。自分の身体で、既に体験してしまっている訳だ。

 何より、エドワード自身が使ってしまったというのであれば、疑う余地がない。


「魔法を使えるのは、全人口の約一割程度。たまたま、あんたにはその適性があったってことだな」


 言われてみれば、「何か」が身体の中を駆け巡り、拳から抜け出ていく感覚があった。あれが、魔法を放つということなのだろうか。


「よく分かんねぇやつだなあんたは。俺を助けに来といてゾンビに襲われるわ、初めて魔法を使ってそれを返り討ちにするわ。まるで昨日今日でやっとお外に出てきた、なんちゃって冒険者みてぇだ」


 それは、当たってるな。


「はぁ? マジでそうなのかよ。まぁ、あんたが何者なのかはどうだっていい。今のこの村は、あんたにゃあ危険が過ぎるだろうよ。早いとこ出ていくことをお勧めするぜ。ちゃんと解毒してからな」


 ガイアンはそう言うと、すれ違いざまにエドワードの肩に大きな手を置いて、そのまま村の奥へと歩いて行ってしまった。


 ……ごほっ。


 小さく咳き込んだエドワードの口から、血が出てきた。ゾンビの毒が回ってきているのだろう。


 ちっ。何にせよダサいな。――ガイアン、か。外にはあんな強い人間もいるのか。


 エドワードは、毒消し草が待つコウタの家へと、駆け足で引き返していった。またゾンビに襲われぬように。



 翌日。

 朝起きて、パジャマのコウタの口から聞いたのは、とんでもない言葉だった。


「エドワード、この村のゾンビ事件、神父さんが言うには、首謀者がいるみたいなんだっぺ」


 昨晩の一件を伝えると、コウタは血相を変えてこう切り出してきた。

 とんでもなかったのは、その続きからだ。


「ゾンビを呼び起こし、操る、ネクロマンサー。どうやらそいつがこの村に紛れ込んで、悪さしてるせいで、こんなことになってるみてぇだ。……でな。ネクロマンサーなんじゃねぇかって疑いを、一番かけられてるのが――お前ぇが昨日会ったっていう、ガイアンなんだべ」


 何だって?


 顔をしかめるエドワードの腕を、コウタの妹のエマがガシガシとかじってきていた。ゾンビごっこのつもりらしい。

 そんな可愛い遊びをしているエマに、今のエドワードは苦笑いしか返すことができないでいた。

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