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勇者エドワードがベタに魔王を倒すまで  作者: 山川 景
第2章 死者出ずる村
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その二 寝付けぬ夜

 エドワードの問いかけに対し、コウタの口から、恐ろしいワードが飛び出てきた。


 ゾンビ、だって?


 エドワードは思わず、暗くなった窓の外を見やる。まだコウタの家から一歩も出ていないため、村の全容は全く分からない。


「んだ。ほんの一ヶ月ほど前からなんだが、この村は夜な夜なゾンビが徘徊する危険な村になっちまったんだべ。きっかけは分からねぇが、ある日突然、どう見たって『亡者』ってナリの奴らが、夜の村の中をうろつくようになった」


 被害は?


「もちろんある。最初は、何人も村人が襲われちまった。だが奴ら、どういうわけか屋内までは入ってこれねぇんだ。それが分かってからは、みんな変に立ち向かおうとはせずに、夜になったら家の中から出ねぇようになった。おかげで最近は、人に被害は出てねぇけんども――」


 そこでふーっと息を吐き出し間を置いたコウタは、頬杖をついて顔をしかめながら、続きを話す。


「奴ら、田畑の作物踏み荒らしていくんだ。しかも厄介なことに、奴らの身体にゃ毒があってなぁ、作物を全部ダメにしちまう。だからおいらもハイラント森に出向いて、なけなしの食糧を調達しようとして、ああなってた訳だっぺ」


 なるほどな。お前も大変な状況下にいたんだな。


「そうなんだべー。まぁ、こうなっちまった原因の検討は、いくつかついてるんだけんども、なかなかなぁ。おいらも、エドワードみてぇに腕っ節の強ぇ奴だったら、とっくに何とかしてたんだけっどな。前みてぇな平和な村に、戻らねぇかなぁ」


 遠い目をして、コウタも窓の外を見つめる。


 そういうことなら、協力しよう。俺も魔王に返り討ちにされてこんなザマになるような男だが、受けた恩には全力で応える。


「あ、いやいや、そーいうつもりで言ったんじゃないべさ! この村のモンでもないエドワードを巻き込む訳にゃいかねぇ! 夜に外を出歩くなってこと以外、今の話は忘れてくれ!」


 そんな訳にはいかない。お前だって、関係ないのにローゴンの塔に一緒に来てくれたじゃないか。繋がりとは、そういうもんだろ?


「いや、でも……ダメだ! とにかく、今日はもう寝るべ! 夜更かしは身体に悪ぃからな!」


 コウタはそう言って立ち上がると、エドワードを無理やり元の寝室へと追いやってしまった。



 ――ゾンビか。


 眠ることのできなかったエドワードは、窓のそばに腰掛け、また外の景色をぼーっと見ていた。

 そこから何となく得られた情報は、この村の規模は、そこまで小さくもないということ。戸建てにしては立派な木造住宅が数件見える。どれも住み心地は良さそうで、悪い暮らしはしていないのだろう、ゾンビの話を除けば、だが。


 ゾンビと呼ばれるものは、実際には見たことがない。人づてにそのような魔物がいるという話は聞いたことがあるが、まさかハイラント王国からほど近いであろうこんな場所に、それがいるなんて考えもしなかった。

 エドワードが今まで目にしてきた魔物は、言ってみれば、少し凶暴な動物、大きな虫といった範疇に留まる程度のものだ。ミノタウルス、ゾンビ――ましてや魔王なんかは、自分からは縁遠い、作り話の中の生き物だという感覚さえあった。だが、今はそれらをこの目で見て、対峙さえしてしまっている。これからも、それが続いていく予感がある。


 まさか、こんなことになるなんて、な。


 そうやって、物思いにふけっていると――ふとエドワードは、自分の視界に、おかしなものが映り込んでいることに気づいた。


 あれは――待て、まずい。


 エドワードは目を見開く。見間違いではない。

 窓の外、出てはいけないはずの村の屋外に、人影が一つ。そして――それにわらわらと迫る、穏やかには見えないシルエットが、四つほど。


 誰かが、ゾンビに襲われている?


 その考えに至ったエドワードは、無意識のうちに、弾かれるようにして部屋から飛び出ていった。

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