その十四 瞬殺
焦土の上空に立つ、魔王の背後の空間が、「裂けて」いった。その先にあったのは、真っ黒の異空間。魔王達の帰る場所だろうか。
魔王は、片手をその空間へ入れようとした瞬間――強烈な敵意を感じ、背後を振り返った。その目に捉えたのは、既にぼろぼろの身体をした、一人の人間。
エドワードが、倒壊した城跡を駆け上り、魔王の目の前まで跳躍して迫っていたのだ。
――ばちっ!
空中で振るったエドワードの折れた長剣は、魔王が片手をかざしただけで、止められた。見えないバリアが、魔王の前に出現したかのように。ばちばちと閃光を放ちながら、拒まれ、弾かれる。
お前ぇ!!
――魔王へ向けて叫ぶエドワードは、飛び散る閃光越しに、彼と目があった。
「ゴミが」
闇をまとった鋭い視線で、言葉通りゴミのようにエドワードを見下しながら、魔王はそう言った。
魔王がかざした手の手首を捻ると、エドワードの身体に、信じられないほどの衝撃が。骨が、脳が、いや全身が軋む。十数メートル下の焦土へと、為すすべもなく叩きつけられる。
身体中が痛い――エドワードはポーチから最後の薬草を取り出し、口に含む。そして唸り声を上げながら、瓦礫と化したハイラント城を再度、駆け上る。
「ハクオウ」
魔王がそう呟くと、「はーい」という中性的な声と共に、後ろの異空間から、誰かの腕が伸びてきた。
「しつこいと、嫌われるよ」
声と共に、腕に青白い閃光が纏われたかと思うと、雷鳴を伴って、手のひらから一筋の「雷」が撃ち放たれた。――瓦礫を駆け上るエドワードへ向けて。
光速で飛んできたその一撃を避ける手段は、エドワードにはなかった。一瞬で目の前は、稲光と雷光に侵食され――ごぉんと重い音を立てて、雷はエドワードへ直撃してしまった。
ちきしょう。
遠くへと消えていく意識の切れ目で、エドワードは上空に佇む魔王の姿を目に焼き付けていた。
*
「奴は?」
魔王が、隣で羽ばたく少女の魔物に訊く。
「例の、ローゴンを倒した人間の青年です。しかしやはり、取るに足りなかったようですね」
魔物はにたりと邪悪に笑む。
魔王は雷が着弾した箇所に目を向けたが、一瞬で逸らし、異空間の闇の中へと溶けるように消えていった。魔物も、それに続く。
残されたのは、跡形もなく焦土と変貌してしまった、無残なハイラント王国だった。
*
――意識の端で、誰かの声が聞こえてくる。僅かな振動と共に。
誰かに、担がれている?
「もうすぐ、おいらの村さ着くっぺ! しっかりしろエドワード! 絶ってぇ死なせねぇべよ!」