その十三 変わり果てた故郷
ずんっ、と、大きな地震がした。走るエドワードが、思わずよろめいてしまう程の規模のものだ。
嫌な予感が、加速する。エドワードは眼前に見えてきたハイラント森へと、突っ走っていく。
――何だ!?
そのとき――森の中から、大量のミニゴブリンが、こちらへ向けて飛び出してきた。舌打ちをしたエドワードは立ち止まり、手の折れた長剣を構える。
が、どうにもミニゴブリン達の様子がおかしい。走行してきているその魔物の群れは、エドワードを迎え撃つためというより、何かから逃げているかのように、怯えて見えた。
実際に、エドワードには目もくれず、ミニゴブリン達はエドワードの後方へと走り去っていってしまった。
どういう事だ……?
この先で、ミニゴブリンが逃げ出すほどの「何か」が起こっている――もしくは、それほどの「誰か」がいる、というのか。
エドワードは、ハイラント森へと入った。
何の気配もない。魔物はおろか、生き物の気配すらしない。もぬけの殻だ。
最短で森を抜け、一目散にハイラント王国を目指す。広々とした平野の先には、もうじき城が見えてくるはずだ。
おかしい――。
そう、見えてくるはずなのだ。城の外観が視認できる距離に、もうエドワードはいるはずだ。それなのに。
おかしい――!!
あるはずのものが、見えない。
頭が真っ白になったエドワードは、ただひたすらに、故郷へ向けて平野を駆けていった。
*
嘘だ。
エドワードは、ハイラント王国へと辿り着いた。
確かに、ここだ。
だが、彼の目の前には、見覚えのない焦土が広がっているだけだった。
嘘だ。
焼け焦げ、崩れ去り、全てが無残に破壊されている。
微かに、一際大きな瓦礫のてっぺんに、ハイラント城の名残が見て取れた。それが、思い違いであってほしいというエドワードの願いを打ち砕く。
ハイラント王国は、壊滅してしまっていた。
どうして――。
焦土の前で、脱力したエドワードが両膝をつく。
何で。
誰も、生き残ってはいないのか。その問いには、すぐに答えが用意できた。目の前に広がる惨状は、運良く誰かが生き残っているかもしれないという可能性を残さぬほど、絶望的で凄惨なものだった。
誰が――。
ふと、顔を上げたエドワード。
その視線の先に、誰かがいた。空中に、誰かが立っていた。
角の生えた髑髏の面のようなもので目元を覆ってはいるが、エドワードと同じ歳ほどの青年に見える。真っ黒な和服と血のように赤い腰布が、空中で怪しくなびいていた。
「素晴らしいお力です」
その横で、ローゴンの塔にいた、あの魔物の少女が話しかけていた。翼を羽ばたかせながら。
「もうお帰りになられますか? 魔王様――」
エドワードの意識には少女の魔物は入っておらず、ただ、魔王と呼ばれたその者を見つめていた。
そうか――。
血が滲むのではないかというほど、折れた長剣の柄を強く握る。
お前の仕業か!!
憤怒の形相を浮かべたエドワードは、焦土の上に漂う魔王へ向けて、一歩を踏み出した。