004ー実力と決意
「東弥! お前めちゃくちゃ強いんだな!」
フィールドから降りた東弥はすぐさま目を輝かせた雄斗に声をかけられた。
「俺あんな戦い始めて見たよ! あの岩弾を全て殴って砕くのとか! あれまじでどうやったの!? まさか全部見えてたってこと!? いやもうすごすぎだろ! かっこよすぎだろ!」
「お、落ち着いてください、雄斗」
「それに最後の追い詰めてからの連撃も! 俺あんなの初めて見たわ! あるんだなこういうの。漫画の中だけだと思ってたわ」
「ありがとうございます、雄斗。ですが落ち着いてください」
雄斗は元々技術職志望だったため、こうした戦いはテレビの中くらいでしか見たことがなかったのだ。
それ故、雄斗は今更ながら内に秘めた厨二心を爆発させていた。
しかし、雄斗が落ち着くのもつかの間周りの人も声をかけてくる。
「天ヶ崎ぃ! やっぱ強いんだな!」
「ほら漂浪もそんなとこで縮こまってないで来いよ。お前もすげー強いんだな」
「う、うるせえ! 敗者に声なんてかけるなよこのクソ野郎共! 今回はたまたま負けただけだ!」
「漂浪さん、本当に強かったです。僕もあそこまで強い人がいるとは思ってませんでした」
「煽ってんのか!? 煽ってんだよな!? 俺もうお前許さない。絶対許さない。クソっ、ほんとクソ」
ジロリと睨みつける渚だったが、眠そうな目をしているためイマイチ迫力に欠けている。
そんな視線でさえぶるりと心を震わすドМであった。
また、雄斗と違って今までもある程度の訓練を受けてきたほかの生徒は、より身近に東弥や渚の強さを感じていた。
流石は天ヶ崎家。
彼らは素直に感心していた。
そんな中、片桐の呼ぶ声がかかる。
「じゃあ次、A面渡辺雄斗――」
「あ、俺も呼ばれたな。ちょっと行ってくる。つっても、東弥の後にやるのもな……、気が引けるぜ」
「頑張ってきてください、雄斗」
「おう! でもほんとに俺弱いからな……? 期待しないでくれよ?」
「わかりました。でも応援してますので」
雄斗はバスターソードを片手で軽々と振りながらフィールドに向かった。
その背中には、どことなく強者感が溢れていた。
「あいつも強いのか?」
隣にいる人が話しかけてくる。
(えーっと……飯島さん、でしたっけ?)
飯塚である。
「わかりません。でも元々『魔技士』志望じゃなかったらしいので、あまり期待しないで欲しいとは、言っていました」
「ふーん、そうか……」
フィールドの上に目を向けると、A面B面共に準備が整ったようだった。
雄斗もなかなかに様になっている構えをしている。
雄斗の相手は片手剣を持ち、腕には丸盾を装着していた。
「はい、じゃー始めるぞ。えー、スタート」
片桐教員がまた手を打ち鳴らし爆音が鳴った。
10秒ほどの膠着。
雄斗も相手も出方を伺っているのか、お互い動かないでいる。
そしてまた数秒経った後、相手が端末を操作し始めた。
瞬間雄斗が駆け出す。
「らぁぁ!」
飛んでくる岩弾。
雄斗は剣を振り上げる。
そして振り下ろす。
訓練を受けていないとは言っていたが、中々の剣速で岩弾を迎え撃っていく。
しかし、
「痛っ!」
剣が間に合わず、何発か体に当たってしまった。
さらに相手は端末を操作し、炎弾も飛ばしてきた。
それに対しても我武者羅に剣を振った雄斗だが、当然炎弾は剣をすり抜けて雄斗に当たってしまう。
「熱っ!」
顔に直撃。
かなり痛いだろうに、しかし雄斗は止まることなく突き進み、ついにその剣の間合いに入った。
「らぁぁぁぁ!」
痛みに顔をしかめながらも、雄斗は剣を振り下ろす。
――ガキン。
しかしそれは相手の丸盾に弾かれた。
瞬間――
「A面そこまで!」
雄斗は相手の突きをまともに腹に喰らった。
どう見ても有効打。
雄斗は碌に相手に攻撃できないまま、この勝負は終わった。
「お疲れさまでした、雄斗」
「ああ……。中々上手くいかないもんだな……」
確かに剣速は良かった。
しかし戦いとしては、あまり評価できる点は少ない。
「東弥、その……、なにかアドバイスをくれないか?」
「アドバイス、ですか? そうですねえ……」
正直どこからアドバイスをすればいいのかわからず、言葉に詰まる東弥である。
そもそも人にものを教えた経験が少ないため、どう言えばいいのかすらわからなかった。
さらに先ほどの戦いはお世辞にもいいとは言えないため、どうにか傷つけないようにとも考えて数秒考え込んでしまうコミュ障である。
「……とりあえず、武器が合っていませんかね」
「そ、そうなのか? でも俺魔法が苦手な分武器はできるだけ長くて強いのじゃないとだめだと思ったんだけど……」
策がある、という雰囲気を出していた割には単純な理由しか持っていなかった雄斗である。
やはり戦闘の素人というのは本当なのだろう。
「今まで他の、例えば片手剣と盾のような武器を使ったことはあります?」
「いや、ない、けど……」
「でしたら、最初からその武器を使うのは大変だと思います。まあ、そのおかげであれだけの剣速が出るように鍛えられたのかもしれませんが」
聞けば、雄斗が剣を振りだしたのは最近のことだと言う。
それであの剣速が出せるというのは素直にすごいことだ。
だが、いかに剣速が出せても戦い方がなってないとそれは無意味である。
(なんと伝えればいいだろう……)
そう東弥が考えていると、話を聞いていたのか、渚が横から口を出してきた。
「お前、全然ダメ。ごみクズより弱い。その無駄にでかい剣も何がしたいのかわかんないし、魔法も全然使わないんじゃあ全然無意味。弱すぎ。それにバカすぎ。もっと頭使って戦えよ」
東弥に負けたうっぷんを晴らすようにボロクソ言い始めたクソガキだ。
いかに傷つけないように伝えればいいかと、対人経験が少ないなりに頑張ろうとした東弥の努力も無に帰すほど配慮に欠けた物言いであった。
一方言われた雄斗も、渚にバカにされた悔しさにプルプル震えてはいたものの、言われたことは正しいと感じたため何も言い返せずにいた。
「まあまあ、漂浪さんもそんなに言わなくていいじゃないですか」
「うるせえ!」
どうにかしようとして渚に声をかけた東弥だったが、むしろ火に油を注いだようだった。
正直、渚の精神はクソガキすぎた。
高校生にもなってクソガキ発言を繰り返す渚に周りの人間も関わりたくないのか、少し距離を置くようにしていた。
だから、東弥はこの状況を打開する意味も含めて次の雄斗の提案に二言返事で承諾した。
「なあ、東弥。開いてる時間があればでいいんだが、俺に戦いを教えてくれないか?」
この日から、東弥と雄斗の放課後の特訓が始まることになる。
ある程度投稿したらこれまでの話の誤字脱字や表現等を少し修正します。
大まかな設定は変更いたしません。
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