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第十五話 ラエルと強さ




 俺とラエルの修行が始まって、6日が過ぎた。俺たちは着実に強くなっていっていると思う。

だが、明日はラエルの両親が入院している、病院へ行きこれからのことについて決めるつもりだ。親の調子が良ければ、早めに修行を切り上げて、ラエルはマーリ村に帰ることになるだろう。



 そんな日を明日に控えて、今も俺たちは修行をしているのだが、ラエルの調子がよろしくない。やはり親の体調が気になるのだろうか。普段なら簡単にかわす攻撃ですら、擦り始めた。

だから俺は今日はもう辞めることにした。



「ラエル、今日はこのぐらいにしておこうか。」


「え!?まだ始めそんなに経ってないですよ?」


「うん、まあそうなんだけどさ。明日のこともあるし、ラエルも休んだほうが良いよ。」


「え、あ、はい。わかりました。ありがとうございました。」


「うん、ありがとうございました。じゃあ、少し話しながら休もうか。」


「は、はい!」



 ラエルはトコトコ近づいてきたので、俺はタオルと水を渡す。



「はいどうぞ。」


「ありがとうございます。」



 俺たちは室内にある長い椅子に座り、一息つく。

俺はラエルに話しかける。



「ふう。この数日間でだいぶ動けるようになってきたね。」


「はい、ルメナさんの的確な指示のお陰です。」


「そう言ってもらえると、うれしいな。人に教えるのって初めてだったから、ちょっと心配だったんだよね。」


「そうなんですか。」


「うん。」



 そのあと、適当に雑談を楽しんで、切り出すことにした。



「明日、だね。」


「・・・・・・はい。」


「やっぱり心配?」


「まあ、はい。それもあります。」


「そうだよね。親だもんね。心配になるのは普通だよ。」


「そ、そうですね。はい、ドーハさんは大丈夫だって言ってましたからそこまでじゃないんですけど。」


「うん、院長が大丈夫だって言ったんだから俺も杞憂だと思うよ。でもじゃあ、何でそんなに元気がないの?」


「それは・・・・・・。私は弱いです。」



 急にラエルが暗い雰囲気を纏った。



「そうかな?」


「そうなんです。私は、自分の弱さが嫌いなんです。守られてばかりで、何もできなくて、自分の代わりに他の人が傷つく、それが嫌なんです」


「・・・・・・そっか。」



 俺は相槌を打って、すこし考える。ここで簡単な慰めをするのは簡単だと思う。だけど、ラエルは頭が良い。もしかしたら俺と同じなんじゃないかと思うときもあるくらいしっかりしている。だから、ここで簡単だけど適当なことを言うのは間違いだと思う。だからこそ、こういうことはしっかりと応えてやるべきだ。



「ラエルにとって、弱いってそういうことなんだね。なら逆に何が強いんだ?」


「え?」


「守られることがラエルにとって弱いというなら、何ができれば強いのかって話だよ。」


「・・・・・・。」


「うまく言えないけどさ、俺は何が強くて何が弱いかなんてのは人それぞれ自分の尺度で決めていくことだと思う。だから、ラエルにとっての強さって何なのかと思ってさ。」


「それは、もちろん誰にも頼らずに生きていけるような人が強いんじゃないですか。」


「確かにそれは強いかもね。でも生きていくには一人だけじゃ無理だよ?何かしら誰か他の存在が必要になってくる。」


「そうですけど、ならルメナさんにとっての強さって何なんですか?」



 ラエルはそう言って、悲しそうなツラそうな顔をする。いろいろな感情が行ったり来たりしているんだろう。



「俺にとっての強さ、か。いろいろあるけど、一つは人のせいにせずに生きていけることじゃないかな。」


「え?どういうことですか?」


「例えば、誰かに何かを頼まれてそれを引き受けたとすると、それが原因で何か自分に嫌なことが起こったとしても頼んだ相手のせいにはしたくないんだよ。」


「そうなんですか?」


「うん、嫌ならやらなければ良いしね。」


「でも、どうしてもと頼まれたら?」


「そうだなあ、どうしても断れないっていうなら引き受けるよ。でもその時は絶対に自分が納得してからさ。どんなに人に流されて引き受けたことでも、引き受けたのならたとえ失敗したとしてもいいから、そのこと自体を後悔したくないからね。」


「ふふ。失敗しても良いんですか?」



 やっとラエルが少し笑った。やっぱり子供は笑顔が一番だな。



「そうだよ。誰も完璧なんかじゃないんだ。神様だって失敗するのに人間である俺が失敗しないわけないだろ?だけど、引き受けたこと自体に後悔してしまったら、最終的に頼んできた相手との出会いすら後悔してしまいかねないからね。」


「そう、かもしれないですね。」


「だからラエルにも後悔はしてほしくないな。それをしてしまうと、せっかく怪我を負ってまで助けた親がかわいそうだよ。親だっていやいや助けたわけじゃなくて、助けたくて助けたんだろうからさ。」


「そうですね。なら、私はどうすれば良いんですかね。」


「簡単だよ。強者になれば良い。ただ力が強いだけで心が弱い人じゃなくて。だからって過去を振り返らないのもダメだけどね。」


「でも、後悔しちゃダメなんですよね。」


「うんだから、反省して次に活かすんだ。前回はこういうことを引き受けて嫌な思いをしたから今回は引き受けないでおこう、ってな感じでね。」


「それって後悔とほとんど同じじゃないですか。」


「そうだね。だけど、嫌なことがあったら鬱ぎ込むんじゃなくて、これからどうするかをしっかりと考えて前向きに捉えていく方が断然楽しく生きていける。そういう意味じゃ、どんなことでも楽しめる人は強いと思うよ。」


「そうですね。少しスッキリしました。ありがとうございます。」



 ラエルは少し元気を取り戻したようだ。だから、俺は少し技を教えようと思う。



「どういたしまして。なら、ラエルにはプレゼントをあげよう。」


「プレゼント、ですか?」


「うん、ラエルはこの数日の間攻撃魔法しか使わなかったよね?」


「はい、それが強さにつながると思ってましたから。」


「そうか、でも強さにもいろんな形がある。ラエルは全属性を使えるのに、使っていない属性がたくさんある。」


「そうですね。私も回復魔法を使いたいんですけど、使い方がわからなくて。周りに光属性もいませんでしたし。」


「光属性は珍しいらしいからね。じゃあ、怪我してる左手かしてみて。」


「は、はい。」



 ラエルは、今日の修行中、集中力を欠いて負ってしまった、というより俺が負わせてしまった左手を差し出す。俺はその腕をとり、魔法をかける。あえて、詠唱を口にして。



「『傷に癒しを。 ヒール』」


「あ、暖かい。」



 光の粒子がラエルの左手を中心に、ほかに負った傷も癒していく。



「よし、これで大丈夫かな。」


「あ、あのこれは?」


「これが、回復魔法だよ。今のは初級だけどね。」


「これが回復魔法。・・・・・・ラエルさん、魔法も使えたんですね。しかも光属性。」


「この魔法は俺にとっては必需品だったからさ。」


「そうなんですか。」


「というわけで、今日はこれからラエルの回復魔法の特訓に移行しようと思うけど良いかな?」


「は、はい!こちらこそ、お願いします!」


「まあ、プレゼントをあげるって言っちゃったしね。今はまだこれくらいしか教えられないけど。ラエルがもっと強くなったら、ほかにも便利なことを教えるかもしれないし。」


「頑張ります!」


「その意気だ。じゃあ始めようか。」


「はい!」







 それからその日1日、ラエルは回復魔法の修行に励んだ。









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