第十話 今後の予定と新たな家族?
ドーハが出て行ったあと、俺は一人で色々と考えてみる事にした。
俺もその村に行きたかったが、正直なところ今の俺じゃあ足手まといにしかならないだろうし、何よりいくら冒険者をやめて何年も経っているとはいえドーハが盗賊ごときに遅れをとるとは思えない。
この5年間で何度かドーハが国の騎士みたいな奴に稽古をつけているところを見た事があるが、あいつの実力は本物だ。時々いる冒険者崩れとは格が違う。ドーハの実力は、俺の前世、つまり今から1500年前の世界と比較するなら上から500位以内には入ってくるだろう。しかも、本気で戦うというのならそれ以上だろう。
もしドーハが普通というのなら、現代は前世と比べ物にならないほどの強者がいる事になってしまう。
それこそ、前世の俺よりも強い奴がうじゃうじゃいることになる。
まあ、その通りだと言われてしまえば終わりだろうが、さすがにそれはないと思う。それは前に行った冒険者ギルドでの周りの冒険者がドーハに向ける視線を思い出せば簡単に分かる事だろう。あいつは確実に強者の部類に入る。
だから、俺は一切心配はしていない。そして、孤児院の職員たちも慌てているそぶりがない事から、こういったことは初めてでもないのだろう。むしろ、いつも食事を作ってくれているおばちゃんが張り切っているところを見ると、マーリ村は近いという事もわかる。今日中に帰ってこられる距離というわけだ。
だから俺はさっきドーハと話した事についてゆっくりと考える事にする。
まず、俺が転生してからの5年間で調べた事も考慮に入れながら考えていこうと思う。
この世界の歴史では、今から約1500年前に突如、神族と邪族が現れた。それとほぼ同時にレベルやらステータスやらも確認されたらしい。そしてその時から1年ごとに年月を数える事にしたらしい。一年は4つの季節で分けられ、季節はさらに3つの月に分けられる。月は一つ30日で、ルノアとヴァストロ、レイールとリークの間には3日間の国の休みがあり、地域によっては祭りが開かれているそうだ。一年は366日である。
簡単にまとめるとこんな感じだろう。
『春=リーク』
『1月=ロン』
『2月=アスル』
『3月=ナルタ』
『夏=ルノア』
『4月=ネルト』
『5月=ツノル』
『6月=トスピロ』
『秋=ヴァストロ』
『7月=テッサ』
『8月=ノウァ』
『9月=クルツ』
『冬=レイール』
『10月=カラ』
『11月=リスル』
『12月=ライツァ』
そして、神の出現とともに人々がつけ始めた年は『神暦』というそうだ。まんまだな。
ちなみに、今は神暦1523年リークの季節、ナルタの月の23日だ。
この国の学校は毎年、ルノアの季節、ネルトの月に始まるそうだ。
つまり、俺が学園に入るのが1525年のルノアの季節、ネルトの月だから、それまでちょうど2年ほどあるわけだ。
学園では勉強も魔法も教えているらしいので、今から楽しみだ。俺としてはこの2年間を無駄にはしたくない。何かしらの修行はしていくつもりだ。図書館に行ってみるのもありだろう。
ここ、魔法都市マガニックは魔法だけでなく様々な分野の研究もしているらしい。それゆえ、この街の図書館はとても大きくたくさんの本を保管してあるそうだ。いずれ俺が孤児院を出て、他の大陸に行くまでに是非とも足を運びたいものだ。
なんかいろいろ考えすぎて、話が逸れまくっている気がする。ええっと、何について考えてたんだっけ?
そうそう、この2年間で何をするかだ。
まず、一番はコミュニケーション能力の向上、と言いたいところだが、これは学園に入ってからだろうな。
この孤児院には同年代がいないし、部屋も一人になってから3カ月くらい経とうとしているしな。
それ以外で考えるなら、やっぱり魔法と戦術だな。魔法に関しては、俺のステータス的に封印されているとはいえ一番高い。だから、やっぱりレベルを上げていきたいんだが、さすがに本気の戦闘をする勇気は今はまだないな。せめてもう少し体がしっかりしてからじゃないとな。
でも、模擬戦ぐらいならいいかもしれない。ドーハが帰ってきたら頼んでみようかな。
そんな風に色々と考えていく。ふと窓から外を見ると、もう日が沈みそうになっている。
色々考えていたら、すっかり時間を忘れていたようだ。ドーハが出て行ったのが朝と昼の間くらいで、そのあと普通に昼食を食べたから。だいたい六時間くらい考え込んでいたのかな?
時計を見ると、時刻は5時を表していた。
ダダダダッッ、ガヤガヤガヤガヤ。
窓から外の景色を眺めていると、何やら院内が騒がしいのに気づいた。ドーハが帰ってきたのかな?
俺は部屋から出て、歩き出す。
みんなが集まっていた共同スペースには、やっぱりドーハが帰ってきていた。だが少し様子がおかしい。何かあったのだろうか。子供達も職員さんたちと一緒にドーハに視線を向けている。
そして俺は気付いた、ドーハの後ろに子供がいた事に。
他のみんなも気づいたようで、ドーハに視線を向けつつもチラチラと気にしているようだ。
数秒ほど沈黙が流れて、ドーハが話を切り出した。
「みんな集まったみたいだな。ちょうどいい。まずは、ただいま。盗賊の奴らは全員とっ捕まえてきた。それで、お前らも気になってるみたいだから、本題に入ろう。この子はマーリ村の子供で、両親が盗賊に大ケガを負わされてな。命にまでは至ってないらしいが、この街の医者のところへの入院は免れないそうだ。俺はその夫婦と付き合いがあって、その二人に頼み込まれてな。今日からしばらくここで面倒をみる事になった。この家の新しい家族だ。」
ドーハがそう言うと、子供が前に出てきた。
透き通った水のような髪に翡翠色の瞳をした、幼い少女だ。もう少し時間が経てば美少女と呼ばれるであろう見た目をしている。いや、今でも美少女と呼ぶものはいるだろう。齢は俺と同じか少し下くらいだろうか。
少女の表情は盗賊に襲われた後とは思えないほど穏やかなものだった。
「ラエルと言います。今日からみなさんよろしくお願いします!」
ラエルと名乗った少女は元気よく挨拶をした。それに対してみんなが一瞬キョトンとしていたが、そのあとはみんなでラエルの歓迎会になった。みんなで食堂までいき、おばちゃんは急いで何品目か料理を増やしていた。
一時間ほどで歓迎会は恙無く終了し、みんなはラエルに質問をしたりしていた、主に女の子がだが。俺は少しばかり気になったことがあり、目立つ可能性もあるが絶対に知っておくべきことを聞くためにドーハの執務室に向かった。現在、時刻は7時半。ドーハは先ほど食堂から出て行き、執務室の方へ行ったからだ。
執務室の前まで行き、ノックをすると返事が来た。
「誰だ?」
「ルメナです。少し聞きたいことがあるのですが、お時間はありますか?」
「ルメナか。ああ、大丈夫だ。入ってきていいぞ」
「失礼します。」
俺が部屋へ入ると、ドーハはちょうどソファーで食後のコーヒーを飲んでいるようだった。
ドーハは、俺に腰掛けるように言い、立ち上がって棚からコップを出して俺にお茶をついでくれた。
そして、朝と同じように対面に座り話を始めた。
「んで?話ってのは朝の続きか?」
「いえ、確かにそれも気になりますがそれとは別に気になったことがありまして」
「ほう、ってことはラエルに関してか?」
「まあ、はい。その事に関してです。」
「お!なんだ、一目惚れでもしちまったか?」
ドーハはニヤニヤしながら聞いてくる。その見た目で色恋沙汰でテンション上がるとかギャップが激しいな。まあ、今の俺にとってはどうでもいいけどな。
「いえ、確かに可愛いとは思いますが今回は別の話です。」
俺が素っ気なく切り返すとドーハは少しつまらなそうな顔をした。
「ちっ。やっぱり子供っぽくないよな、お前は。で、なんだラエルに関することで気になることって?」
「はい。さっきラエルの両親が大ケガをしたって言ってましたよね。この町に入院するとかも。」
「ああ、そのことか。その通りだ、あいつの両親は二人とも元冒険者で、俺の所属していたギルドの後輩だったんだよ。現役時代に何度かパーティを組んだことがあってな。二人は現役の時にAランクとBランクだったんだがな。今回は盗賊の人数が多かったのと、ラエルを狙われてな。それを庇う時にやられちまったんだよ。それで、二人がどうかしたのか?」
「あ、はい。入院するって話でしたよね。」
「ああ、そうだ。この国は、学校だけじゃなく病院っつう怪我人を収容して治療に専念させる場所があんだよ。これからしばらくはそこで入院するってことだな。それで?聞きたいことってそれだけか?」
ドーハの話を聞いて、色々と知ることができた。だけど、違う。俺が聞きたいのはもっと根本的なことだ。
「いえ、聞きたいことというのは、回復魔法についてです。」
俺が質問すると、ドーハの表情が少し変わった。何かまずったか?やっぱり回復魔法には何かあるのか?
ドーハは、「ほぅ」と感嘆のような声を出してから聞いてきた。
「ルメナ、お前は回復魔法についてどこで知ったんだ?」
「ええっと、確か孤児院にあった『大魔導師ドーハの冒険』って本に書いてあったと思うんですけど。」
そう、一応俺はこの時代に回復魔法が存在していることを調べた上でこの疑問を口にしたのだ。
俺がその本の名前を口にすると、ドーハが嬉しそうに、口角を上げた。
「おお!あの本を読んだか!で、最後まで読んだのか!?」
「は、はい。一応この孤児院の本棚に置いてあった本は全部読みましたので。やっぱりあの本の著者のドーハって院長だったんですか?」
「おう!そうだ!あれは俺が冒険者を辞める時に思い出を残そうと思ってな。しかし、なるほど。確かにあれには回復魔法について書いてあったな。」
ドーハの食いつきが激しい。確かにあれから、『大魔導師ドーハの冒険』も全部読んだけどさ。ってか、あれ大魔導師とかいいながら、どっちかっていうと魔法より肉弾戦とか武器を使った戦闘ばっかりだったぞ!そんなことを言うと更に話が長引きそうなので、早々に本題に戻すことにする。
「そ、それで、あの本には回復魔法っていうものが出てきて、ある程度の怪我ならすぐにでも治せるって書いてましたけど、あれって本の中だけのものなんですか?」
「ああ、そうだったな。いや、回復魔法っていうものは実際にある。あるにはあるんだけどな、使えるやつがほとんどいねぇんだわ」
ドーハの話を聞いて、内心では驚いていた。
「そうなんですか?」
「ああ、回復魔法ってのは属性魔法に分類されるんだが、その属性は『光属性』でな。光属性持ちってのはあんまりいないんだよ。だから、病院なんてものができたわけなんだがな。」
「なるほど、そうだったんですね。すごく勉強になりました。ありがとうございます。」
「おぅ!学ぶ心ってのは大事だからな。学園に入ってからもそのことは忘れんなよ?」
「はい!ありがとうございました。じゃあ、今日のところはこれで失礼しますね。」
「ああ。あっ!ちょっと待て!」
俺が部屋を出ようとドアに手をかけたところで、ドーハから待ったが入った。
「どうかしましたか?」
「ああ、お前に頼みたいことがあってな。ここにラエルを連れてきてくれないか?」
「えっ?ラエルをですか?」
「ああ。頼むわ」
「別に構いませんけど。」
そういって、俺が部屋から出るとき、ドーハの口元が少しニヤついて気がしなくもないけど、気のせいだと思い、そのまま部屋を後にした。




