まえがき
皆さんは、竜という存在をご存知だろうか。
トカゲのような見た目をしている大きな躯。その背から生えている、空を飛ぶための強くしなやかな翼。全身を覆う鱗は、ただの剣では貫くことが出来ないほどに硬い。手から伸びる爪は、どんなものでも切り裂く鋭さがあり、口から覗く太い牙は、どんなものでも嚙み砕く力がある。
そして、莫大な魔力を持っている。
これが、竜という生き物。
誰でも知っていて、誰もが描く彼らの像だろう。
この物語は、そんな存在として生まれた一頭の竜と、人間として生まれた一人の少女のお話。
二人は出逢い、旅をし、世界を知ることとなる。
人間と魔人の争い。否応無しに巻き込まれている他の種族。そして、限界寸前である大地の姿を。
二人は選ぶ。
竜は、誰もが平和に暮らせる場所を作るために。
少女は、誰もが助かる可能性を持つ場所を作るために。
互いの夢を叶えるために、乱世を終わらせることをーー。
これは、実話に近い物語である。
サントラルの建国の祖、赤竜帝。
大戦を終わらせた英雄。
彼の歩んだ軌跡を知ってほしく、私はここに記すのだ。
かの竜の進む未来に、幸多からんことを願いながら。
親愛なる赤竜帝へ。
吟遊詩人、オルフェウスより。