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絢という少女4

今回短いです

 これ以上は彼女の負担になるという思いから、部屋を出たのはいいものの、さて、これからどうした物か。

 子供の生活というのは、金の掛からないものだ、必要なものは全て親が与えてくれる。

 だか、それを言い換えれば、子供は金を持って無いという事。

 精神的な面に置いて子供という段階を、生まれる前から卒業している俺には、大きな問題だ。

 

 何もやることがない。

 前世において当たり前のように享受できていた遊びが行えない。

 娯楽に餓える、説明出来るとすれば状態はまさにそれ。

 ゲーム機が欲しい、漫画が欲しい、十五禁、十八禁とかの、過激な内容の創作物が見たいが買えない。

 お金や、倫理、そう言った問題が進もうとしている道を閉ざしていく。

 フラグ建築以前に暇をつぶす相手がいないというのは、退屈という神をも殺す毒にじわじわ浸るに等しい行為なのだろう。

 本来なら、彼女の家で、流石におままごとはやらないが、ジェンガなり、人生ゲームなり、ポーカをして時間をつぶすはずだったのに、当てが外れた。

 公園で遊ぶ気にもなれない。

 あんな玩具何が楽しいかと本気で問い詰めてしまう。


 友達と遊べない。

 あんな低能の中にいられない。


 ゲームで遊べない。

 遊ぶ相手がいないし、ゲーム機自体無い。


 まさに八方塞とはこの事か。

 

 そうなると消去法になってしまうが、今出来る余暇の消費方法は、そこらへんをブラブラと散策する意外ないのだ。



 それでも、何らかの娯楽があるはずだ。


 正直出来る限り節約したいが、退屈より幾分ましだ。

 財布の中身を確認すると、五百円玉が二つ、百円玉が三枚、残る十円玉、五円玉、一円玉を合計すれば、五十八円。つまり財布の中身は千三百五十八円。

 

 何とも微妙な金額である。

 ゲームセンターに行こう物なら、30分程度で素寒貧になる程度の金。


 何より全財産を掛けるほどではない。


 そうと決まれば、向かう先は一択だな。

 子供であろうと、大人と同程度とはいかぬまでも、ある程度満たす事ができる、欲求というのは以外と多い。

 この辺りの地理は、桜井絢を搜索する時に、あらかた調べ終えた。

 最も、感覚的な情報が主で、実感を伴った情報は意外なほど少なく、そのお蔭で、ただの探索でも、退屈する事はないのだが。

 



 この場所から最も近い、買い物ができる拠点は、歩いて数分の距離にある。


 まず最初に目をつけたのが、スイーツエリア。お菓子のおまけとして付いている、おもちゃに全く興味がない、俺にとって、お菓子と同程度の値段で買える、シュークリームを初めとしたデザートの価値は高い。

 百円程度で買える、菓子より味は上なのだから。

 

 他にも目についてくるものは多いが、値段的にはシュークリームかプリンがベストか。

 

 しばしの間悩んだが、カスタードクリームの魅力に惹かれシュークリームの袋をヒョイと掴み、そのままレジへと直行した時、意外な光景を目にした。

 彼女がいる、つい先程別れた、桜井絢がそこに。


 それを見た俺は意味が分からなかった。

 おかしいだろう、何で病気の子供が買い物してんだ。


 声をかけたいが、踏み出せない。

 まだ確信を持てないのがあるか、厄介事かもしれないのだ、それも家族絡みの。

 原作にある、武力で、後腐れなく解決できるような問題であれば、むしろ望む所。


 ゲーム感覚で、クリアできる。


 だが、これは無理。攻略本(原作)に一切の記述がない問題の解決方法なんて分かるはずがない。それも家族関係となると、何をどうやろうと禍根を残す。


 元来、ありとあらゆる感覚が常人より遥かに優れていると自負しいる。とりわけ嗅覚、その感覚は、単なる肉体的情報のみならず、精神的な危機にも反応する。

 間違いなどあるものか、この雨の直前にあるような暗く湿気に富んだ匂い、これは厄介だ。

 この面倒極まりない匂いを素早く嗅ぎ分け、ライオンから逃げる草食獣さながらのすばしっこさで逃げ回れと、鼻が脳に対して命ず。

 前世で身につけたこの習性は、カブトムシが幼虫から成体に羽化したよりも遥かに強大な力を手にしたとしても薄れることはありはしない。

 圧倒的な強者となった自負心よりも、長年染み付いた負け犬根性が優った、ただそれだけの話なのだから。

 俺には、無理だ。


 何をどうやろうとも、その責任を背負う気にはなれないし、背負う手段もありはしない。

 そもそも、創作の世界において、主人公が家庭の問題を綺麗さっぱり解決するが、俺にはその理由が分からない。

 例えばだ、子供が親が勉強ばかりさせて、遊ぶ時間がないと嘆いたとしよう。

 それを訴えたとしても、親には親の事情があると、ある程度年を取ると分かるのだ。

 

 子供は親を絶対的な存在として捉えるが、社会の中ではそんな事はなく。ただ一人の凡庸な人間にしか過ぎない。

 だから、親だろうとも、子供に対し完璧なんて取れないのだ。

 間違えたり、失敗したり。

 だからこそ歩み寄るべきなのだ。

 主人公という劇薬が果たすべき役割は、話し合うべき場を設けることだけであるべき。

 きっとそれが正解なのだと思う。


 だが、同時にこうも思ってしまう、年を取るというのは妥協を重ねるということではないのかと。


 もし、もし、この時、俺が彼女に一歩でいいから踏み込んでいたらどうなっていただろう。


 それからかなり先の未来において、一度、この事を思い返すことになる。

 この先起こり得る未来の出来事、彼女の思い、行動、そして、過去。それら全てを徹底的に洗い出し、何度も何度もシュミレーションした。

 その結果出た答えは、何も変わらないという、何とも味気なく、どこまでも救いがない物だった。


 これは自らの主観を排し、物事を客観的に見たゆえの結論であり、以上の情報が齎す情報から導き出す最善手を、絶えず打ったとしても、方向性は違えど、違った種類の破滅が、訪れる。


 主人公という人種には、桜井絢を救う事が出来ない。

 俺が出した中でも、最も悲しい現実。


 

 この時の彼女は、冷凍食品をカゴの中に放り込んでいたのだ。


 冷蔵庫の中は、見た。


 食材は不足していなかったが、見たのは冷蔵室だけ。

 ならば、病にふっせている彼女が、手軽に調達できる冷凍食材を買うのは納得できる。家からも近いし、ここに来るのも大した負担はないだろう。

 

 だからこそ、彼女の両親は何をやっている。


 帰りが遅かろうと、24時間営業のコンビニで冷凍食品程度用意できるはずだ、旅行に行っている、そんなはずはない。

 来年小学校に入学する程度の年齢の少女一人、しかも病床の、そんな子を何の保険もなしに家に置いておくことなどありはしない、あってはならない。


 

 ようやく、この時になって、俺は確信した。

 

 彼女も独りなんだと。



この作品、もう少し長くしたいですね。もしかしたら、前の話に、今回の話を付け加える形になるかも

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