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絢という少女3

忙しくて時間が空いてしまった、すみません

 俺は今、女子の家の前にいる。

 チャイムに手が届かなくてショックを受けたが問題あるまい。

 持ち前の強靭な身体能力のおかげで、ジャンプ一つで楽々と押せるのだから。

 意外なことに彼女は、急ぎ足でドアを開けた。

「こんにち・・・・・・、どうか、お帰りくださいな」

 そのまま、この女は、本当に扉を閉め鍵をかけやがった。


 彼女の家を訪れることになった理由は主に二つ。

 一つは、風邪で寝込んでいるかもしれない少女を放っておけないという道義心からくるもの。

 また、この自体を利用して、フラグ回収を行おうという、遂行な使命からくるものである。

 下心が多分に含まれていることは、否定できないが、それでも善意からの行動だ。

 それをこうもあっさりと無下にされたのだ、一体どうしてくれようか。

 彼女に対する報復を真剣に思案する。だが、この前と同様、幼女に手を上げることに対する忌避感がやっては来る。

 

 しかし、俺は躊躇わない。


 何故なら、これは躾であるからだ。

 こんな失礼な態度を誰彼構わず、取るというのは彼女の将来にとって大きなマイナス要素であるはず。

 なら、この場で矯正することになっても、暴力ではなく、彼女のために行われる慈善行為と言えるのではないか。

 よし、理論武装は完璧だ。

 幼女におしりぺんぺんをする。正座させ説教、涙目になる幼女。

 どちらもなんと甘美なことだろう。

 

 まぁ、それをやったら、フラグの建築どころか、関係性そのものが崩壊するので、やらないが。

 

 ―――想像の中でしか。 


 それでも、これ以上無視を続けるというのであれば、本気で実行するつもりだ。

 二回、三回と連続してチャイムを鳴らし続け、ノックすること5回、最後には、大声で所在の確認。

 自分でやって、恥ずかしくなっる。それでも続けてやる。


 最後の最後で、彼女はようやく重い腰を上げ、気だるげに、チェーンをかけた扉越しにこちらに声をかけてくれた。

「それで、どちら様でございましょう」

 瞳にあるのわ困惑。本気で俺が誰だかわかっていない様子。


 一瞬そんなわけ無いだろうと、思うも、まともに顔を合わせたのはたった一度。しかも、その時彼女は熱で倒れたのだ、覚えていなくともしょうがないかと、納得できたので精神的な傷は浅い・・・・・・はず。

「昨日会っただろ、九条一谷だ」

 名乗ったというのに、困惑が芽生えた。そういえば、昨日まともに自己紹介もしていなかったな。

「そういえば、自己紹介がまだだったな、趣味は読書、年齢はお前と同じ5歳」

 自分で言って、何これって思う、何ナノこの偉そうな挨拶。

「待ってくださいな、どうして私の年齢を知っているのですか」

 思わず原作知識から得た情報を口に出してしまう。それを耳聡く彼女に捉えられた。

 しまったという表情を顔に出してしまったせいか、彼女が俺を見る目は最初にあった時と同様、犯罪者を見るものと同様に。

「うわっ、キモ!! それで変態ストーカー。まさか私のこと付け回したんじゃないわよね」

 ここでしくじれば、フラグの回収どころじゃ済まなくなる。

「どうやったて、普通に聞いたんだよ。覚えてないか」

 人間の記憶というのは、結構あやふやなものだ。実際にやったのかどうかなんて、数分前のものでもはっきりとしないなんて日常茶飯事。しかも、昨日彼女は病気で倒れたのだ。自信満々で言い切ればごまかしきれる。

「・・・・・・そうですか、全く身に覚えがありませんが、あなたがそういうのであればそうなのでしょうね」

 よかった、いくばくか溜飲を下げてくれた。

 お巡りさんと話していた時に、こうした話題を口にしていたのかもしれないな、彼女の納得具合からそう推測できた。


 これなら|ボロ≪原作知識≫を思わず口に出しても多少は大丈夫か。

「それで、本日はどのようなご用件でいらしたのですか」

 思ったよりも好調な関係性に内心でガッツポーズ。はじめは様子を見るだけで満足するつもりだったが、これなら、もう少し踏み込んでも大丈夫そうだ。

「今日は思えを誘いに来たんだよ絢」

「自己紹介、しましたっけ」

「しただら、ほら、年齢聞いた時と同時に」

 やばい、また原作知識から得た情報を口走ってしまった。

 不思議そうに、首を傾ける彼女に、やや無理矢理感はあるものの、断言すると、まだ、判然としない思いを抱えているのだろうが、納得してくれた。

「そ、そうでですよね」

 よし、知ったか来た。

「それで、今日一緒に遊びに行かないか」

「すみません、まだ体調が思わしくないので、遠慮します」

 しょうがないか。見れば、先程まで寝ていたのだろう、彼女の髪には寝癖の跡がある。

 心なしか、顔もうっすらと赤い。

 体調不良というのはまごうことなき真実なのだろう。

「まぁ、しょうがないよな。思ったより元気そうで安心したよ。それじゃあな」

 流石にハーレムのためとは言え、体調不良の少女を連れ回すのはな。

 

 何しろ俺は気配りができる大人なのだから。

「はぁ、一応、ここまで来てくれたのですから、お茶ぐらい出しますよ」

「マジでっ!!」

 あまりの反応の良さに彼女がドン引きしていた。

 もう、チェーンは外されており、小さな体をドアの中にすべり込ませる。

 自分から許可を出した手前、今更無碍にするのはためらわれたのだろう、彼女はこちらに手を伸ばすが、何か言いたげに口をパクパクさせるだけ、終いには諦めたかのように手をおろす。


「へぇ、ここがお前の内か、思っていたよりも普通だな」

 口ではそう言ったものの、何か刺のようなものが胸の中にくすぶり続ける。ホコリ一つない、綺麗に整頓された家。

 見える範囲にある家具は全て新品同様なのに、所々あるべきものがない、そう感じられた。

 外観を見れば、この家が建造されて数年の時が立っているだろうに、綺麗すぎる。

 居間に向かったのだが、そこにはクッションがあるだけで、家族で食卓を囲むための机や、娯楽の代表であるテレビがない。

 俺の家の事情と、他人の家の事情は違うのでやや釈然としないものの、そんなものかと、通り過ぎる。

 

 食料はきちんと確保されているようで、冷蔵庫を開け、仕舞われていた炭酸飲料を、コップに注ぎ、一瞬お盆を見たのだが、高い所にあるせいで、取るのを諦めたのだろう。 

 直に目を離すと、タンスの中から菓子を引っ張り出し、こちらに投げつけると、「付いて来てくださいな」と声をかけ、ずいずいと進んでいく。 

「着きましたよ」そう言って、彼女が扉を開けようと、するものの、手に持った二つのコップがそれを邪魔する。コップを置いて扉を開けるというのが正解なのだろうが、それを行うのはなんかめんどくさいという思いは俺にも理解できた。

 腕を利用して、ドアノブを回そうとするが、コップの中に入れられている飲料が今にもこぼれそうで見ていられない。

 仕方がないので、お菓子を持っているだけで、片腕が空いている俺が開けてやる。


 扉の向こうにあったのは殺風景な部屋。

 その部屋にあるのはベットと、クッション、そして無造作に積まれた本だけといった有様。

 ベットには脱ぎ散らかされた服がそのまま放置されているのを見ると、最初に予想した通り、ついさっきまで寝ていたのだろう。

 なんというか、今更になって、無理やり家に入り込んだ罪悪感を感じてしまう。

 これは、フラグ建築どころじゃないな。そう考えると、身の内を焦がすような、女子の部屋に上がり込んだという情熱を鎮火していく。

 そもそも、まだ恋愛感があるのかどうかすら分からない、幼女にこんな思いをう付けること自体間違っているのかもな。


 そんなことを考えていると、彼女はテキパキと団欒の場を作り上げていく。

 脱ぎ捨てられていた服を綺麗に畳むと、ちょうど向かい合うような形で、コップを置く。

 俺の手の中にあった、ごく自然な動作で手に取り、開封した。

 彼女は窓側に、向かったので対座するような形で胡坐を組んだ。


 こういう時は、空いた方を客人に向けるというのが一応礼儀なのだが、思いつきもしなかったのだろう。

 こういうところが子供だよな。

 会ったのは一度、今回を入れれば二度だけだが、意外な所で垣間見せてくれた、子供っぽさに何故かほっこりして、小さく笑うが、そんな事はお構い無で手を伸ばすので笑顔も吹き飛んだ。

 取りずらいので、速攻でパーティー開けにしてやったので、彼女の独占体制は崩れ去る。

 どうだ、まいったか。


 それで向かい合ったのだが、彼女は終始無言。

 ずっと寝ていたせいで、お腹がすいているのかもしれない、ひたすら彼女は無言でお菓子にかじりつく、こちらも簡単に取れる様にしたというのに、このままでは自分の分がなくなる。

 だから、ペースを上げたのだが、沈黙がより深いものへと変化してしまう。

 お菓子の最後の一つを食べ終えた時、それは、より顕著な物へと変化した。

 見つめあってはいるが会話がない。

 昨日あんなに言葉を交わしたのがウソのよう。


「お前、妹はどうしたんだ」

 とりあえず当たり障りのない話題で攻めていこう。これは昨日彼女が口にした内容だ。

 両親が共働きなのだろう、それなら病気だというのにここにいないのは納得できるな。

 だが、見た所妹はここにいない、だから気になった。

「居ませんよ。ここには」

 その声は、子供特有の、甲高くも可愛らしい声のはずなのに、冷めていた。

「それっていったい」

 その問いに対し、彼女は儚げに笑うだけ。

 もしかして、家族旅行の予定でもあったのかも、病気のせいで彼女だけが置いてきぼり、そのせいで、機嫌が悪くなっているのか?

「それで、何して遊びます。たいていのものであれば揃っていると自負しております。どうぞ、お申し付けくださいな」

「嫌、もう帰るよ」

 風邪をひいている子に負担をかけられないし、今日はもう十分に楽しんだ。

 言い知れぬ気持ち悪さを残したままだが、もういいだろう。


 立ち上がると、凝り固まった体をほぐすように大きく背伸びをする。

 彼女と目を合わせないように、部屋を後に。


 玄関までたどり着いたときハタと気が付いた、靴がないのだ、彼女以外の。

 たとえ出かけているとしても、予備のものが残っているはずなのに、あるのは靴のサイズからして、彼女の靴ひとつ。

 それを見ると、この家の違和感に気が付いた。

 生活感が、まったくと言ってもいいほどに感じられないのだ。

 きれいに整理整頓されているというのに、そこには家族の持つ庵のような温かさなどどこにもなく、真冬に深々と降り積もる雪のような、静けさと薄ら寒さしか、この家から感じられない。

 それが分かると、背筋が震えた。

 今まで、普通に過ごすことができた家が、途端に薄気味悪く思えてくる。

 最後に、もう一度だけ、家の中を覗き込むものの、結局、一歩も踏み込むことができないまま


 俺は家を出た。


前回の話、絢が一谷が付けてきた事を真剣に問いただす形にしようと、何度も考えたんですけど、絢が倒れる形に。

ちなみにこの失神、物語的に非常に重要な伏線に成っています。

でも、今でも問いただすかどうか真剣に悩んでます。

両方やるのもありかと思うんですが、難しいですね。


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