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絢という少女1

 これから、行うのは俺が壊してしまった彼女の話。

 言ってみれば、ヒーローの苦労話みたいなもの。俺はどこまでも狡くて、愚かで弱いという事実を思い知らされた。

 どうして失敗したのか、後になって客観視してみると小説の世界が持つ不自然さに、押しつぶされたのだろうう。

 多くの創作物において一種のスパイスとして登場する非現実性。

 異常であるからこそ面白く、惹きつけられる。

 主人公はそんな問題をまさに快刀乱麻。次々と解決していく。

 それは、よく言えばハピーエンド、悪く言うのであればご都合主義と呼ばれる展開。

 主人公がピンチに陥れば仲間が必ず助けに来てくれるし、絶対に死ぬような行為をしても何ともない。

 ストーリーが上手い事かけていれば、それほど不自然には思えない、物語の中であったら。


 だが、現実ではどうだろうか。


 困難にぶつかったとき立ち止まってしまう人がいる。

 俺は、それを責めない、当然の事だと理解していつから。

 そんな人の多くが主人公に触発されて歩き出して行く。それは強さといえるだろう。

 だが、弱者はどうなる。例えば舞台を引き立てるモブキャラ。彼ら、彼女らは怪物が街にやって来た時、我先にと逃げ出すか、ヒーローの登場を願うという醜態をさらすかのどちらかだ。

 彼らが弱者だから、困難に立ち向かう際逃げ出すし、それを責める奴なんていない。

 きっと、それは正しい。

 よくある展プレの一つに、主人公が偶然事件に居合わせ颯爽と解決して行くという物がある。だが、この場合、多く主人公の引き立て役となる特殊部隊の隊員やら、騎士団と協力なんてしない。

 物語を引き立てるためにやっているというのも理由だろうが、それ以前に出来ないのだと思う。

 彼らは緻密な作戦を組み立てた上で動いているが、主人公側の行動は臨機応変が何時ものパターンで、いきなり作戦に組み込んだとしても、上手く行く筈が無い。

 この二つの登場人物たちは、見ている世界が違うのだから、噛み合わない。今回の事も同じだ。 

 異常事態でこそ噛み合う状況を、俺は簡単に解決出来ると思った。


 異常というのは、壊れやすいと同義だという事も忘れて。


 それでも、全てが終わって後悔にくれて、もうどうしようもないと分かっているのに、それでも彼女を救いたいと願うのは間違っていないと信じたい。


◆ ◆ ◆ ◆

 事の初まり、思い出す。どこにでもある本当にありふれた出会いと別れを。


 彼女との出会のは偶然という神秘でも必然という運命論で説明できる事はないだろう。街をほっつき歩いていた彼女に偶然を装い声をかけた。たったそれだけの事。

 運が良い事に歳が近いという事もあってか、特に警戒心なんてもの持たれることなく、簡単にお近づきになれた。

 誰とでも、友達になれるというのは、子供の特権とはよく言ったものだが、これは知性が完成の域に達しておらず、感情で行動する故なのではないだろうかと俺は思う。

 以上が俺の脳内で繰り広げた理想の現実である。


 公開したら黒歴史決定なそれは、故に一生日の目を見ることなく忘却の川に封印されるだろう。



 この時、幼馴染フラグを逃してしまった俺は焦っていた。

 このままいったら理想のハーレム生活が送れなくなる、そんな不安が胸の中に燻り始めたのだ。

 よりにもよって、最も攻略が楽な女を逃したのだ、この落胆、レポート用紙十枚なんて物では収まらない。長々と小説にでもして世のリア充どもに送りつけたいぐらいとさえ思う。

 だが、たった一度の失敗で諦めるのは愚者がする事。

 一度失敗したのなら、それを次に活かせばいい。

 となると、誰に手をつけるべきか、まずハーレムを容認してくれそうな人物で、幼馴染同様、健気で、美しい人、出来れば原作キャラがいい。

 そのために、ある少女を探し始めた。

 

 探し求めている彼女は物語のキーパーソンの一人。最初期のシリアス路線まっただ中のキャラだったため、登場後すぐ死んでしまったが、様々な条件を満たした存在。

 彼女が保有する力は、詳しくは解明されていないものの時間の逆行。その力を古の魔王復活に悪用されかけ、それを阻止せんとした結果命を落としてしまう幸薄キャラが彼女。

 使い捨てとはいえ、この込み入った設定からも分かるように、優遇されており、当然容姿は上の上。俺の理想のハーレムにふさわしい人員だと考えたわけだ。


 遭遇に必要な条件は比較的緩いというのも、攻略を決めた大きな要因。原作では高校の同級生なのだから、しかも、家に対しても説明がある。隣町を魔法によってしらみつぶしに捜していけば簡単に見つかることだろう。


 それでも、一週間という決して短くない時間を費やす事と成った。

 別に探し出す事にはそれほど時間を消費する事はない。

 

 問題は見つけた後、気安く話しかければいいものを、それが出来なかったことに起因する。この数日間を見る限り、彼女はインドア派で滅多に外に出ず、外に出るとしても買い物が殆ど。

 これでは、仲良くしようにも切っ掛けが見つからず、悶々とした日々が過ぎ去っていく。

 彼女に見つからないよう、目立たないようについていく姿はストーカーそのものだと自分でも思ってしまうのだから救われない。


 彼女をじっくりと観察した結果、原作時の彼女が小柄であったというのもあるのだろう、まだ男女の体格差が出ない、むしろ女子のほうが長身である事が多い年頃であるというのに、彼女の身長は傍目に見ても俺よりも頭一つ分ほど小さかった。

 髪は綺麗なストロベリーブロンド。この世界の登場人物の多くが、通常ではありえない髪を持つ、彼女もその一人だが、実は、100人に一人ぐらいに現れる症状らしい。

 色素異常症としてカウントされており、頭髪や眼の色が両親とは全く違う色を持った子供がこの世界では、さっき言った程度の頻度で生まれてくる。

 歴史を調べてみると、かつてはこの色素の異常が原因で差別運動や、巫女などの特殊な地位に興じられるなんて思い歴史背景があったそう。

 今でも、この症状の原因は不明なままらしい。

 

 物語のご都合主義的な、理屈合わせか、それとも語られていない設定なのかは置いといて、そんなものはデウス・エウス・マキナにでも丸投げすればいいと思う。


 でも俺、可愛い系よりも綺麗系の方が好きなんだよな。むろん可愛い系であろうとも、胸の大きさ如何によって対応は変わってくるのだが。

 正直言おう、世の男どもが言う、尻や足の良さなど俺には分からん。大切なのは顔と胸だ、これは胸を張って言える。

 あれっ、なんか親父……


 俺が、彼女をじっくりと観察しているのは、この前の失敗を生かして、十分な情報を得てから立ち回りたいからだ。

 よく引用される孫子の兵法に、『兵は拙速を尊ぶという』とある。


 緻密な行動よりもスピードを重視するべきという格言であるのだが、実際に物語の世界に入り、敵と戦うかもしれない状況になると、他にも意味があるのではないかと思ってしまう。

 情報収集がその最もたる例の一つ。よく漫画の中でやたら頭がいい策士が、相手の情報を一から百まで語ってくれる。

 話し合いなんか一切せずに、それだけ情報があるなら話し合った方が効率的だと思うのだ。

 戦わずに場を収められる、きっと、それは誰もが思い浮かべる最善の未来なのに。

 そんな情報があるのに結局戦うというのは、迷走といってもいいのではないか。

 だが、敵側にとって見たら、その行動を取る為に色々投資してきたのだから、途中でやめるのは難しいだろう。

 つまり、早く行動するというのは自分たちのみではなく、相手にとっても、ある意味では有効な手段なのではないか、話し合いで解決するのであれば。

 だからこそ知ろうとした。


 きっと、これは間違いだったのだろう。

 画面の上とは言え、彼女の事を知っていたのだ。

 様子見なんかに徹しずに、さっさと声をかければよかった。

 自分には凝り性の気があった、それが今回の失敗の原因。

 子供なのだから、普通に声をかければいいというのに、どうしても、それにふさわしい事態に成るのを待ち構えて、失敗する。

 ―――期待して、夢想して、願って、待ち望んで失敗した。


 これでは、アニメの中の策士を笑う事なんて出来やしない。彼らは行動を起こしている。それに比べて俺は・・・・・・


 「それで、何か言い訳はありますか、ストーカーさん」

 対面に座っている少女の名は桜井絢。不遇系ヒロインである。

 それだけならいい、むしろ望むところだ。

 これ程までに、この狭い四角形の部屋が重苦しいと感じたことはない。

 今まで閉所恐怖症というものがまったくもって理解できなかった。まだ、高所恐怖症は分かる、高い所に立つと足元がすくむ、それが狭い部屋でも同じことが起こるなんて感じた事もなかったのに、ガタガタと体に小刻みな震えが走る。


 今俺は、街の交番に備え付けられた、机でこの少女と対面しているのだ。

 


驚くことに主人公の内面描写が殆どに!! どうしてこうなった

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