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踏み違えた一歩

 神様転生という言葉をご存じだろうか。漫画やアニメ、二次創作等で良く登場しているあれだ。

 特別な力を手にした、主人公が凄まじい活躍をするという。見るからに頭の悪そうな設定である。

 まぁ、そうはいったものの

 


 ………目の前で、神と名乗るお方が土下座しています。どうすればいいのでしょうか。


 この見るからに頭の悪そうな設定に準じた、強大な力を俺は願った。

 そして、物語の主人公として俺は転生する。


 ただ、神様がやたら俺の願いを止めてきたのはどうしてだろうか。



 「人生を再スタートする。

 

 多くの人がその話を聞いたのなら、羨ましがる様なシチュエーションだろう。

 だが、どんなものにだって、メリットがあると同時にデメリットが存在する。

 人間関係は残らずリセットされてしまうし、転生した世界が素晴らしいものとは限らない。


 例えば幼稚園。このころの子供はまさに宇宙人だ。話に、統合性なんて物欠片も有りはしないし、お遊戯会なんてものはあまりにもレベルが低い。

 積み木の組み立てはいいけど、おままごとを本気でやろうと誘われた時は、憤死しかけたよマジで。

 そういう点でいえば、保育士の人はすごいと思う。彼らは、子供好きというだけで、論理性が欠片も存在しない存在と渡り合っているのだ。

 俺も、一日夜二日ならお触り程度の関係を維持することができるんだけど、毎日は無理、むりったらむり。


 結論 物語で重要な役割を果たす、幼馴染の少女とフラグが立ちませんどうすればいいでしょうか。


 追記、保育士の皆さん、マジ、スゲェー」

 


 このフラグを立てる事が出来なかった理由は、いとも簡単なもので、俺が人間関係を全く持たずに、一人で本ばかり読んでいたことに起因している。


 原作においては、彼女は家族が共働き、さらには天然属性を持った子。ここで、あざといと感じてしまうのは無理もないことであるのだが。そこは置いといて、彼女はその天然さから家庭だけでもなく、幼稚園内においても一時的に孤立してしまう。そこにさっそうと現れて解決するのが主人公。つまり俺なのだが、ここで原作との差異が表面化してしまう。

 結論というよりも自傷

 ………そう、俺はボッチなのだ。


 幼稚園での悪意なんて物可愛いものであるのだが、解決できるのはコミュニケーション能力に起因する。そう、ボッチの俺には何も出来ないかもしない。



 俺はこの時を虎視眈々と待ち構えていた。

 一人の少女が泣きながら、人気がない保育園の片隅で涙を流している。

 これだけ聞いても、非常に保護欲を掻き立てられることだが、目的は他にあった。



 

 それは、保育園にて行われることと相成った一幕


 誰にだって、一度や二度は経験したことがある、友達との喧嘩。


 横目でチラチラと盗み見る限り初まりは単なるおもちゃの取り合い。幼馴染キャラ白扇愛華が最初に手にとったというのに、他の子がそのおもちゃに目を向け、奪い去っていくというあれだ。


 こういう時は、性格的な押しの強さが物を言う、おもちゃを奪い去ったのは、彼女が所属する集団の中でもリーダー格の子だった。

 話したことは二、三回程度だが、何時も、元気で明るく。印象に残りやすかったのでしっかりと覚えている。

 

 でも、だからだろうか、彼女は時として、ひどく傲慢でもある、きっと、彼女自身が(あいか)を傷つけたなんて自覚これっぽっちもありはしないのだろう。あらかじめ原作で知っていなければ、俺は何もしないだろう。それぐらい、ありふれた事件。最低でも一日に一回はここでないどこかで、発生していると思うし、そのたびに、解決されていく。この程度のことならば、解決するまでもないと思うだろう、何かやったとしても保育士さんに相談する、その程度のものだ。

 それでも俺は行動する、正義感故というわけでもなく、一重に原作であらかじめ知っていたゆえに



◆ ◆ ◆ ◆

 彼女はいつもそう、いつも私から何かを奪い去っていく。今回のおもちゃがその代表例、みんなでやった劇で私がやりたかった役の座をいつの間にか獲得していたし、絵を描くときに使うクレヨンや、ママが作ってくれたお弁当のお気に入りの具材も横からかっさらっていく。


 けれど、私はそれに対して何も言い返すことができなくて。

 そして、この時溜まりに溜まった鬱憤が爆発した。



「もぉ~う、意味わかんない、意味わかんない、意味わかんない!!」

 一度不満が、口から漏れ出てしまうと自分ではもう、止められない。


 その結果が言い争い、これまでうまくやってきた友達との関係に亀裂を作ってしまう。


 どうしようもなく悲しい事実に、私は逃げ出した。


 でも、逃げたはいいけど、行くあてなんてどこにもありはしない。

 どんくさくて、ノロマな私にとって、あそこが唯一の居場所だから。

 どこにいこう、一人になると、とたんに、さっきまで考えもしなかった不安が押し寄せてくる。


 人がいないほうへと足を進めると、ちょうど、お誂え向きに、人が来ないであろう場所があった。


 膝を抱え、俗に言う体育座り、太腿に顔を埋めていると、自分自身の矮小さを嫌というほど感じられるが、それでも、今だけはこの惨めさがなんとも言えず、気持ちいい。


 ああ、私はなんて惨めなんだろう。


◆ ◆ ◆ ◆

 今この時をどれだけ待ち望んだことだろう、物語において起こりうる運命の出会い。たまたま遊んでいて、彼女を発見するというのが流れとなる。だが、孤立している俺にとって遊びというのは殆どが一人遊び。

 偶然出会うなんて事は起こりえない、だが、それを装うと言うのはありだ、だが、それよりも、彼女の苦しみをより具体的に知っているのだ、優しい声をかけるというのもありな気がしてくる。

 脳内において、何度も何度も、シュミレーションを重ねた結果。



「どうして泣いているの、愛香ちゃん」

 優しい言葉を投げかける事に決めた。


「誰?」

 はっ!! 何、これ、あまりにも予想外すぎるんですけど。

 こうして生まれた心の隙のせいで数秒間フリーズを余儀なくされる。再び始動すると高速で思考が回っていく。

 この状況に対してあれやこれやと原因が頭によぎっていく。

 転生当初は予想もしていなかった原作のずれ

 あれか、ボッチか、俺がボッチのせいか、だとしたら立ち直れない。

 クラスの皆と、関わり合いにならないようにしていた付けがこんな所で出てきやがった、くそっ。

 彼女は俺の事など認識なんてしていなかったのか。

 ならばやる事は、自己紹介からだ。

「やあ、俺の名前は一条五城君はどうして

  

  泣いているのかな」


 俺は出来うる限り自然な笑顔を形作り、親切さを醸し出す。


 あまりの、猫撫で声に、言っている自分でも、気持ち悪いと感じてしまう。それでも、実行したのは、これから、薔薇色の人生を送るには、彼女の存在が必要不可欠という、客観的な事実に起因する。何しろ、恋人でもない単なる幼馴染という関係というだけで、お弁当を作ってくれたり、朝起こしてくれたりと、多くの世話を焼いてくれる存在。

 ちなみに、前世の幼馴染とは、中学で、違う高校に進学してから関係が疎遠になっていき、最後のほうでは実際に会うことも稀という関係に、加えて、お弁当を用意してくれた事も、朝起こしに来てくれた事も一度として有りはしない。

 そんな完全無欠な幼馴染属性を保有している上に、ハーレムラブコメの世界にありがちな、違う女の子と関係を持ったとしても、何だかんだで容量してくれるという、寛容性を持ったいいとこずくめの女。

 こういってはなんだが、俗にいう都合がいい女。それが彼女である。


 どうだ、この女を物にしない選択肢があろうか、嫌ない。断言できてしまう。だが、帰ってきた言葉は意外や意外、

「そう」

 そんな端的な何とも味気のない返答。向こうが泣いているのに、こっちの目も湿ってくる。こうなってしまうと、どうすれば言いのか分からなく成ってきた。

 泣いている、幼稚園児をあやした経験なんてないんだよ。しょうがないだろ。


 だが、冷静になって、改めて考えると何となく分かる。原作では、主人公は熱血系のイケメンなのだ。断じて今の俺のようなクール系ではない。


 あまり、幼少期の事は書かれていないのだが、そうした人物は、子供の社会において、リーダーとなるのではないか。そして、組の中心人物という肩書は、泣いている女の子を元気づけるには十分すぎる効果を発揮する事だろう。だが、今の俺にみんなのリーダーなんて言う称号はなく、ゲームみたいに称号による恩恵がないわけで、目の前には泣いている女の子。

 

 さて、逃げるか。


 だが、そうなると幼馴染を諦めないといけない。それでも、泣いている女の子と関わり合いにならなくてもいいというのは、将来の事を一切考えず、今この瞬間にスポットライトを当てたのなら、どれほど輝いて見えることだろうか。

 しかし、予想外だ。周りの程度があまりにも低かったという事実が、仇になろうとは。

 正直、今現在の彼女に対して食指は全く動かないので、諦めるというのも容量できてしまう、断言しよう、俺はロリコンではないと。だが、原作を思い出せ。彼女がどんなふうに成長するのか知っている、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる幼馴染、そんな存在をこんな所で諦めてもいいのか。

 そう考えれば、とたんにやる気が出てきた。

 どうすればこの状況を挽回できるのか必死に頭を回転させる。

「友達と何かあったの」

 泣いている理由はもう分かっているのだ、だったらバイトの上司の愚痴に付き合うがごとく、どんどん肯定してやればいい。だが、違った、自分自身の見通しの甘さに腹が立つ。

 俺の言葉は、いま彼女自身が抱えている問題を暴き立てる物だったのだから、成熟した大人と、幼稚園児を同じ対応で面倒見ようとしたのも問題だ。

 突然、グシャッと顔をゆがめたかと思うと、先ほどまではホロホロト涙を流していただけだというのに、本格的に大泣き。こうなると嫌でも分かる、俺には泣いている子供をどうにかすることなんて不可能だ。

「アア~~、ちょっと落ち着いて……」

 それからおおよそ、三分程、どうにか宥めすかそうと努めたのだが、一向に状況が改善されていかない。

「オーーイ、愛華」

 その呼びかけが聞こえた時、思わず、しまったという思いが顔に出たのが自分でも分かった。

 この少女は、愛華とつい先程まで喧嘩していた子だ。一向に泣き止まなかったせいでここに来たのだろう。

 これから行われるのは、どこにでもある仲直り、もしかしたら、これが最善と言える状況なのではないかとも考えてしまう。主人公が介入する状況よりもすべてが円満に収まる、一幕。だが、この状況に対し感じるのは安堵ではなく絶望感。このままではフラグを打ち立てることが不可能となる。だが、まだ間に合うはず。

「えっと、確か・・・・・・」

「ちょっと、あんた何夢を泣かしてんのよ」

 モブの名前を思い出すのに費やした僅かな時間が命取り。噛み付いてきやがった。先ほどの顔を見て、こちらを怪しいと感じたのか、だったら筋違いだぞ。俺はまだ、やらかしていない。

 幾ら何でも理不尽だと声を大にして言いたいが、男が必死に言い訳をするというのはみっともないという思いから、何とか押さえ込む。

「じゃあ、俺、もう行くぞ」

 こうなってしまうと俺が彼女に対してできることなど何一つとしてありはしない。決して、あの少女の目線に耐え切れなくなって逃げ出したわけではない。

 ここには注意が必要である!! 

 


 それからしばらくすると俺はフラグの構築に完全失敗したことを理解してしまう。




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