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ビューティフル・レタス  作者: 村猫
7/7

7.黒部君の焦燥

ブルーマンデー。

こんなにその言葉が当てはまる日もそうそうないと思う。

定期考査の始まる月曜だって、こんなに憂鬱な気分にはならないというのに。


「ああ……しんど」


私は校門をくぐり下駄箱で靴を履きかえ、重い足で階段を上っていく。

2年生になると、3階に我がクラスがある。

1年の時は4階で、3年生になると2階になる。


どうせなら、今が1年であればよかった。

そうすれば、少しぐらいは教室へたどり着く時間が遅くなるのに。


だが、たとえ自分のクラスが4階にあったとしても、授業が始まる前には教室にいなければいけないわけで。


既に開け放たれた教室のドアをくぐる。

いつもは前から入るのだが、なんというか……とある先客の顔を正面から見るのをためらわれて、あえて後ろから入った。


教室に入ってすぐにそこに目が行った。

黒い学ラン。

きちっと刈りそろえられた黒髪。

ああ、見まごうことなく、あれはきっと黒部君。

そして、私の彼氏(仮)。

いや、黒部君はそう思ってないかもしれない。

もしかしたら、私が腹部に腹パンをしたせいで記憶がとんでいるかもしれない。


できれば、そうであってほしい。


「おはよう、黒部君」

「……」

「えーと、おはよう」

「……」

「あの……、おはようございます」


……まさかのシカト!?

キリっと眉ひとつ動かさないキメ顔で、黒部君は微動だにせず黒板を凝視していた。

明らかに不自然だけど、なんというか様になる。


私はカバンを机の横にかけ、黒部君の様子をうかがいながら席についた。


「えーと、先週のアレなんだけどさ」

「……」

「なんというか、ごめんね。私、気が動転しちゃって……お腹大丈夫?」

「……」

「おこ……ってるよね。だよねー。そうですよねー……」


完全シカト。

ズドーンって重い石か何かが落ちてきて、私の背にのしかかっているかのように体全体が重くなる。

ああ、気が重い。


しかも、呼吸する音すら黒部君から聞こえてこない。

いや、むしろ黒部君は呼吸をしていない……?

徐々に顔が青くなってるようにも見えるし。


ここは、なんとしてでも何か言わせないと……


「もしもさ、その……黒部君の……、好きな対象がさ、おと……っ!?」


喋っている途中でいきなり、何かが目の前で振り落とされる。

空を切った何かの風圧が私の顔面を襲い、思わず瞼を閉じた。


「お前も出せ」

「……へ?」


恐る恐る目を開けてみると、そこにはいつの間にか体ごと私のほうへむけている黒部君がいた。

手には黒い携帯が握られている。

顔は……私の顔から血の気が引くほど怖い顔をしていた。


「え……と、携帯?」

「早くしろ」

「あ、ちょっと待って」


私は鞄の中からいそいそと携帯を取り出した。

スマホにしたいとは思ってるんだけど、月額の料金がね。

なんとなく、黒部君がスマホじゃなくてよかった、なんて思ってる私。

黒部君のことだから、「まだ、お前ガラケーなのかよ」って絶対に嫌味言ってくるもんね。


「早く」

「あ、はいはい」


いかんいかん、いらん事を考えていたら、ついつい手が止まってしまった。


「え? で、どうするの?」


携帯を取り出したはいいが、一体これで何をするのだろう。

まさか、これで戦えっていうんじゃ……

やだよ、携帯って意外と高いんだから。

そう思いながら、私がオドオドしていると、黒部君は何やら携帯を操作し始めた。

そして、携帯をさらに私の方へ近づけてくる。

正確に言うと、私の携帯へ黒部君の携帯が近づけられる。


「赤外線受信、できるだろ?」

「え?」

「アドレスと番号送るから、受信しろ」

「あ……、う、うん」


しどろもどろになりながら私も携帯を操作し、受信体制を整える。

しばらくすると、一件の受信が始まり、そして完了した。

アドレス帳を確認すると……


NO.25 黒部勲


まだアドレスに24人しか登録してないという悲しい現実はひとまずおいといて。

上原君といい、黒部君といい。

これで私のアドレス帳に男の名前は二人も。

少し感動かもしれない。


「おい」

「はい?」

「お前のも送れ」

「あ、うん。ちょいと待ってね」


感動もそこそこに私は自分のプロフィールを赤外線で送った。

受信できたことを確認し、ようやく黒部君との距離が離れる。

なるほど、やっぱり付き合うって言ったら、まずはメアド交換が必須ですよね。

さすが、黒部君。

意外とプレイボーイなのかな?


私は手にした携帯をまた鞄に戻そうとした。

だが、戻す瞬間突然携帯が震えだした。

メールの着信だ。

誰だろう。


そう思って、携帯の画面を開いてみる。

すると……


Frm 黒部勲


……はい?

えーと、黒部勲って……。


私は恐る恐る隣の黒部君に視線を移した。

黒部君は手に携帯を持って、じっとそれを見つめている。

とりあえず、本文を読んでみよう。


『今後一切俺に話しかけるな。何か言いたいことがあったら、メールで言え。以上』


「……」


あ、なるほどね。

私がついうっかり口をすべらせて、黒部君が好きなのは男です、なんて言ったら大変だものね。

うん、うん。わかる。わかるよその気持ち……

でもね……


『やだね』


そううって送った。

一拍遅れて、隣の携帯がブルブルと震える。

画面を開いてメールを読む黒部君。


「……っ!」


あれ、なんか今、黒部君の握る携帯からミシって音がなったような……

しかも、なんか眉間に血管が浮かんでるような。


チラっと一瞬目が合う。


「目、血走ってるけど、大丈夫?」

「……」


だが、黒部君はなおも私の言葉を無視し、携帯を操作しはじめた。

ほどなくして、メールを受信する。

まったく、こんな至近距離でメールをする羽目になるとは……

メールってこういう使い方をするもんじゃないような気がするんだけどな。


『何が目的だ。俺になんの恨みがある?』


なんか、私めちゃくちゃ悪人にしたてあげられてませんか。

凶悪犯罪に手をそめて、被害者から言われる言葉のランキング10位ぐらいにはいってそうな言葉を言われるとは。


はてさて、どうするべきか。

なんというか、今の黒部君と話してもなんの解決にもならなさそう。

折角、土日2日間も期間をあけたというのに、逆に黒部君はもっと興奮しているような感じだし。


『とりあえず、今日の放課後時間作ってくれる? 少し話そう』


そううって私は、黒部君の返信のメールを確認せずに携帯を鞄にしまった。

横で黒部君が何か物言いたげに視線を送ってきているのが目の端に見えるが、今度は私がシカトをする番だ。


教室に人がいては話せることも話せないだろうし。

だから、余計に黒部君も焦ってるんだろう。

それにやっぱり、可哀そうだよね。


黒部君は何も悪い事してないのに、こんなに情緒不安定にさせちゃって。

それもこれも、あの上原君のせいだし。


そう、上原君のせいなんだし。

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