プロローグ
―『ワスクの日記』―
―2100年 3月13日―
地球は変わった。
一昔前の先祖たちが行ってきた行い。
先祖たちは”車”という乗りもので空気を汚していた。
先祖たちは”有限”という言葉の意味を深く考えなかった。
その付けが回ってきたのだ。
今日地球の人口は減少し、500万人という数までになっている。
空気はさらに汚染され、生態系はほぼ壊滅状態だ。
地球上の植物は枯れ果て、混沌と化していた。
海はどす黒い暗黒色で見るに堪えない。
そんな中、人々は地下に造られた仮世界で何とか生き延びていた。
約100年前にN・地下都市計画という名目で科学者達が作っていた"核兵器貯蔵空間"がまさか役に立つとは当時は誰も思っていなかっただろう。
ここでは人工酸素(O")を使い、ドーム状のシェルターの中の仮設住宅地で過ごしている。
一つのドームに約1万人が住んでおり、ドーム一つが町のようになっていた。
ドーム内にはビルに似た住宅が並んでいて、そこに人々が住んでいた。
直径1Kmのドームはトンネルで繋がっていて、そこを通って行き来することができる。
だが、ドーム内では身分格差が生じていた。
科学者や国の首相などは、生活のために十分な設備の整ったドーム1~100。
一般市民などは、最低限の設備があるドーム101~460。
老人や病人などは、人工酸素があるだけのドーム461~490。
このN・地下都市内で犯罪を犯した者は、上のドームで使われた人工酸素が流れてくるだけのドーム491~500。
私、ワーサイド・スクセシスは現在ドーム109に住んでいる。
父は上界で病にかかり他界、母はうつ病にかかっており、今は一人でドーム470で過ごしている。
母はN・地下都市に来る前に父の病死と人類全滅の危機に直面し精神崩壊を起こしたのだ。
私は一緒に住もうと言ったが、迷惑になるからと断られた。
今はこっちから食べ物などを送っている。
そんな毎日隔離された空間で生きる日々。
上を見上げても空は無く、あるのは銀色のコンタクトのような半円のシェルター。
周りを見渡しても植物は無く、あるのはビッシリと詰められた住宅地。
もちろん贅沢なんて言ってられる状況でないのはわかっている。
それでも、この空虚な生活が私は耐えられなかった。
―『何か変化が欲しい。』―
そんなことを考えていたある日。
私はドーム内で嘆く人々見た。
「長い時代を創造した神は遂に人類を滅ぼすのだ。」
「これは神が我々に与えた試練なのだ。」
「新たな星へと神は行ってしまうのだろう。」
そんなことを口にする者達が街中で溢れていたのだ。
そんな時だった。
人に・・・
いや、私に異変が起きたのだ。
―2100年 3月20日―
私には何が何だかわからなかった。
その時私はドーム112に住んでいる友人のゼクノ・ラスファの家にお邪魔していた。
ゼクラとはこのドーム内で出会った。
同じアメリカ出身ということもあり、互いの会話で意気投合し、すっかり仲が良くなった。
そんなゼクラとは、週に2回くらい会って他愛もない会話で盛り上がっていた。
そんな恒例行事となっていたある日。
―私の人生が大きく傾き始めていたのだ―
それは突然だった。
私はゼクラの部屋に遊びに来ていた。
ゼクラの部屋は私の住んでいる部屋と変わらない5畳半の部屋だ。
なのに部屋は男子とは思えないほどすっきりしている。
部屋の奥から黒のシートのベットと樹木の丸いテーブル。
あと、テレビとタンスが置かれただけの質素な部屋だ。
ゼクラ曰く、「何かあった時にすぐに持ち出せるものだけを置いているんだよ!!」らしい。
と言っていたが、どれもすぐには持ち出せないといつも私は思う。
そんなゼクラの部屋で話していた時だった。
友人のゼクラに言われるまでは全く気づかなかった。
「お前・・・その頭の上のやつはなんだ?」
私はゼクラに言われてタンスの扉についている鏡ですぐさま自分の頭上を覗き込んだ。
『LEVEL:54』
たしかに私の頭上にはそれがあった。
黒字で空中に浮かんでいる文字。
手で触ろうとしたが、その手は空を切った。
私は怖かった。
私意外にこんなものを持つものはいなかったからだ。
―2100年 4月12日―
―ドーム87内―
私は家を出て、ドーム内を駈けずり回った。
N・地下都市でも指折りの医者の元に訪ねた。
医者ならこの頭上の物が一体何なのかわかると思っていた。
「君、私を愚弄しているのかね?」
嘲笑いながら医者は私にカルテを投げつけた。
どうやら私はふざけたピエロだかに見えてしまったようだ。
『LEVEL:68』
―2100年 5月30日―
―ドーム54内―
N・地下都市屈指の超能力者の元も訪ねた。
超能力者ならこれがどんなものか教えてくれると思っていた。
「頭の上に?ハハハハッ。いいかい?超能力とはだね・・・。」
超能力者は面白がるように私に超能力者とは何かを説明し始めた。
どうやら私は偽物超能力者だと思われてしまったようだ。
『LEVEL:81』
――2100年 6月19日―
―ドーム470内―
実の母親の家にも訪ねた。
私の状態を見て何か言ってくれると思っていた。
母の部屋に笑顔で入って来た理由を話した。
「な、な、何をしたいの!?こ、これ以上私を・・・私を壊さないで!!!!!!。」
私は右頬をビンタされてしまった。
挙句の果てには帰ってと言われてしまった。
私は熱を帯びている頬よりも何か大切なものが壊れてしまった気がした。
『LEVEL:94』
―2100年 7月10日―
―『LEVEL:100』―
私は今教会の中にいる。
ここに、N・地下都市に造られた教会だ。
この教会は私がN・地下都市に来てからよく通っている教会だ。
私は教会の祭壇の上にある白い銅像の腕に頑丈な縄を縛りつけた。
余った縄を頭一つくぐれるくらいの大きさできつく結び、私の首に通した。
これがおそらく日記の最後になるだろう。
私は知ってしまったのだ。
いや、私はすべてを知りたいと願ってしまったのだ。
―そしてその願いはかなってしまった―
神は天界で我々を見ているのではない。
神は人類を滅ぼそうとしているのではない。
神は他の星になんて行こうとしているのではない。
―・・・神は・・・-
「神は人類の中に潜んでいる。私のような極わずかな人間に力を与えて楽しんでいるのだ。」
「私は死ななければならない。」
「すべてを知った者は生きてはいけないのだ。」
「私は昨日神を見た。」
「神は私に力を与えた。そしてその力で私は神の心を見た。」
―・・・神は100年後・・・-
(ワスクの日記より)