街の中枢
今回も二話掲載です。すいません。
9/03 加筆しました。ほぼ倍に膨れ上がっています。
違和感に気付いたのは途中からだ。
後ろを向いている暇があれば走れという意識が上回っていたためにまったく振り返ることもせず、ひたすらに街の中心へと路地を抜けて機械を撒きながら走っていたのだが、さすがにあれだけ聞こえていた爆音や銃撃音がほとんど聞こえなくなったというのはさすがに疑問を感じた。
「なんか、数減ってない?」
「ふむ。確かに、先ほどよりも合流してくる機械たちが少ないように思えるな」
「完全に撒けたとは思えないけど……」
今もまだ追ってきている機械はいるはずだが、明らかに先ほどまでより後ろから聞こえてくる音は控えめになっている。どんだけ道を変えようともあれだけ追ってきていた機械たちが突然追ってこなくなるというのはあり得るはずがないと椛は信じているため、何か裏があるのではないかと考えていた。
最悪を例えるならば、機械が二人の行く先を予想し、その場で待ち構えている場合なのだが、そもそもこの機械が減っているのは後ろから追いつこうとしてる椋と悼也による仕業なので、それはなかった。無論そんなことを椛が知る由もない。
「とりあえずは、走るしかないだろう」
「それも、そうね」
現状攻撃の手が弱くなるのに不都合などない。心に余裕を作るまでまでにはいかないが、それでも精神的に楽になったのに違いはないのだから。
そうして走っていく中、ようやく街の中心地らしき場所が見えた。そこにある建物もまた、らしさがあった。
他の建物に比べれば一段大きく、象徴のようにも感じられる。
油断はまだ出来ないが、二人はそこまで走るのだった。
「はぁ、はぁ……つ、疲れた」
「大丈夫、椛ちゃん?」
「え、ええ。息切れと、明日筋肉痛は確実でしょう、けど……」
目的の建物にようやくたどり着き、そこで椛は息をつくことが出来た。心臓は未だに早鐘のように打っており、息も乱れてはいるが大きな負傷はなく、所々が銃弾の擦過で服に切れ目が入っていたり爆風で髪が荒れて服は汚れている程度ではあった。
椛がこうして建物の前で息が付けるのも、椋と悼也のおかげであった。
走っている最中のあからさまな機械の減少も、二人が破壊しながら近づいて来れば必死こいてた椛でも最後には気づく。紳士は途中から気づいていた様子だが、それを言ってしまえば椛が気を抜く可能性があったために終始言いはしなかった。
そんなわけで、後方には無数の残骸へと成り下がった機械が煙を上げ、現在襲ってくる機械は何一つとしてなくなっていたのだった。
ちなみに、ここまで来て息を切らしているのは椛だけであり、椋と悼也は息を切らしてはいないものの汗を浮かべていた。対して、まったくもって息も切らさず汗もかいていない変態は紳士だけだった。
「はぁ、ふぅ……。とりあえず、この中に入るとしましょう」
「そうだね~」
椛の呼吸が多少整うと、四人は建物へと入ることにした。
あれだけの機械群が現れるのだからこの建物にも何か仕掛けがあるのではないかと警戒したが、扉は至って単純な横開きの硝子扉であり、上部に検知機のようなものがあることから自動で開く種の扉というのも判明した。つまり、それだけの文明があったということもわかった。
「なんか、普通ね」
「そうだね~」
「ふむ。これは、市役所のようなものか」
「ああ、確かにそうかも」
中はあまりに普通すぎて拍子抜けしたものだが、紳士の言葉によってその建物の概略がわかった。
確かに、奥の方には案内板などが存在し、受け付けもある。市役所といわれて納得がいった。
「でも、これだけ?」
「のようだな」
街の中心は、あまりにも普通だった。
市役所と思われる場所を探索して三十分。
今回は二組に分かれることも無く、全員で固まって動くことにしていた。理由としては、再度機械に見つかって襲われるというのを極力避けるのと、発見されても即時破壊して他の機械たちを呼ばせないようにするためである。
そうして、一階から三階にかけてくまなく探索したところ、一つの部屋へとたどり着いた。
三階最奥。部屋に掛けられている板金には市長室と書かれている。その部屋が、最後の部屋だった。
「収穫は今のところなしっと」
「たぶんここが最後じゃないかな~?」
「ふむ。隠し部屋などが無い限りはそうであろうな」
当たり前として、捜索する際はどこかしこもくまなく探し、資料のようなものがあれば中身を見もしたが、どれも風化が酷くまともなものはなかった。機械類に関しても同様であり、外見上は問題なくとも起動しなかったために、有益な情報は何一つとして手に入っていなかった。
それを踏まえれば、ここがこの場における最後の希望ともいえる。
取っ手に手を掛けたのは変わることなく椋の役目であり、扉を開けても特に何かが起こるというようなことはなかった。
室内は特に変わるようなものはなく、部屋の左壁面にある本棚には隙間なく本が敷き詰められており、背表紙には歴史を記録したものなどが多い。その本棚も含めて部屋には特に違和感がなく、普通すぎるまでに普通すぎた。少し目につくといえば、市長机が年代物で色あせてもそれはそれであじがあるといえた。
「なんていうか、普通よね」
「ふつうだね~」
「まぁ、とりあえず怪しいところでもないか探してみましょう」
「これはまぁ、なんというか」
「ふむ。随分と古典的だな」
「漫画とかの世界だけだとおもってたよ~」
「いや、あんたの道場にも似たようなのあんでしょうが」
「そう? あれ一応従業員用通路みたいなもんだよ~?」
「……そう。と、とりあえず『これ』をどうにかしましょうか」
探索数分、四人の前には典型的かつ古典的な扉が姿を現していた。
椛は扉が姿を現したときには机の中を調べていたため、仕掛けなどはわかっていなかった。しかし開けたと思われる悼也曰く、本棚を適当に抜き取りながら調べていたら本棚から異音とともにこの扉が姿を現したという。
そんなわけで、これをどうにかするかが目下の問題となっていた。
「あからさまに怪しいものをどうすれば……」
「入る~?」
「ふむ。入るしかないのではないか?」
「ここで入らないという選択肢がないのは仕方ないけど、少しはためらいなさいよね、ほんと」
実際、椛の中でも入らないという選択肢はないわけなのだが、それでも少しは躊躇いというものがないというのはどうかと思う彼女であった。もちろん、悼也は最初から意見を棄権しているので対象外であるが。
こうして特に躊躇いも迷いの余地もなく、扉を開くのだった。
「あ、さすがに中は昇降機なんだ」
軽快な音とともに扉は開き、中は何もなかったが、全員が入って扉が閉まると同時に、振動が起こるとともに奇妙な浮遊感が襲い掛かった。正体は昇降機であり、浮遊感を感じるということは下へと向かっていること。さすがに建造物の構造上、下に行くしかないので椛もこの変化にはそこまで驚きはしなかった。
それから一~二分の降下の後に振動と浮遊感は終わり、扉が開く。
「なにこれ……」
現代的ではないその光景。
無機質が覆う場所。暗く、機械の点灯する小さな光だけがこの空間を照らしていた。
普通ではない何かが、そこにはあった。
もしかしたら増えました。ご迷惑をかけます。
この物語の終わりも見えてきましたね。




