訪いし異世界、描く未来は
その後ギルドにて、アネモアが椛、悼也の依頼の成果を確認すると、二人の試験は無事合格となった。
さらに、自分の依頼を終わらせてきたビスタートが帰ってきて、その報せを聞くと歓迎祝いだと言い、アネモアが食べるための食糧などを買ってくると同時に近場にいたギルドのメンバーを決して広くはない受付へと呼んできた。
その間にビスタートは受付場を歓迎会用にテーブル、イスを動かし準備を進める。
そして多くのギルドメンバーに歓迎されて宴は始まり、無事とは言えないが終わりを迎えるのだった。
次の日。
「そういえば言ってなかったな」
ギルドへとやってきた椛、椋、悼也を前にビスタートはふと気が付いたかのように言った。
「何をです?」
椛が反応して返す。
「ん、ああ。お前ら三人、これからどうするのか、と思ってさ」
「つまり?」
「とりあえずは三人の正式なランクと、そのライセンス。そんで、今後の事だ」
「ああそういうことですね」
「そういうことだ。おい、アネモア! モミジ、リョウ、トウヤのライセンスを持ってきてくれ!」
ビスタートが受付のへと呼びかけると、アネモアはそれを待っていたかのように一つの箱を取り出し、ビスタートの前まで持ってくる。
「どうぞ」
「おう。ほれ、これだ」
三人渡されたのはカード。
そこにはまだ読めない文字で書かれているが、なんとなくわかる。
最低限のプロフィールが記されているということなのだろう。
「そいつを持ってれば、ギルドメンバーとしての恩恵に預かれる。だからこそ、なくすなよ」
つまりは、それが無ければ三人は身分を保証するものが一つとしてない。
これを無くすということは、表向きな人生を送るのは不可能になるのだ。
「わかりました。気を付けます」
「で、次は今後の方針だ」
身を乗り出し、真面目な顔つきのビスタート。
それに三人も姿勢を正す。
「モミジとトウヤ、お前らはCランクになる。で、リョウ、お前はBランクだな」
「はい」
「そして、このままだとお前らはまだ未開拓領域へ足を踏み入れるための資格が足りない」
「………………」
「だが、これから二月後、その資格を手に入れるための試験がある」
「しかし、それはAランクであるものだけが受けられる試験だ。故に、お前らはまだ受けることは出来ない。よって、それまでの間にお前らはAランクになり、この試験を受ける。それが最短ルートだ」
「そのためにはまず、モミジとトウヤはBランクへと上がること。そしてリョウはAランクになるための実績と信頼を得ることが大事だ」
「実績と、信頼……」
「そうだ、実績は依頼をこなすことで積み上げ、それが一定まで届けばいい。それと同時に信頼も上がっていく。これが無いと受けられない依頼なんかもあるからな。それら二つがそろったとき、昇格試験を行えるってことだ」
「それを、約一月でAランクまで上り詰める」
「はっきり言えば無謀ともいえるが、俺はそうではないと自信を持てる」
「そうしなければ、私たちも元の世界に戻るのに大きなロスを喰らう羽目になる」
「そういうことだ。だからこそこれは、出来る出来ない、やるやらない、じゃない。やるしかなく、出来なければならないことだ。それに、これぐらいが出来なければ未開拓領域に行ったところで死ぬだけだ」
ビスタートの言葉は正しかった。
真実、少しの油断が未開拓領域では生死を分ける。
だからこそ、三人に選択肢はない。
「わかりました。やるしかないなら、やります」
「いい眼だ。安心していい、依頼の方は優先的にお前ら三人に廻す。それをお前らは全力で取り組め!」
「はいっ!」
「やるしか、ないのよねー」
「そうだね~」
あれから、自宅に帰った三人。
悼也はかえって早々、また出かけ、家には椛と椋しかいない。
「でもさ、椛ちゃん」
「なによ?」
「それよりもお腹がすいたよ」
そういった椋は、お腹を押さえて空腹をアピールする。
それに椛は苦笑する。
「それもそうね。腹が減っては戦は出来ぬ。もういい時間帯だし、晩御飯を作るとしましょうか」
「わ~い!」
「あ、でも、材料買ってないわ」
「じゃあボクが今すぐ買って――」
しかし、椋の言葉はそこで途切れた。
帰ってくるものがいたからだ。
そして、その人物は一人しかいない。
「あ、悼也君。おかえり~って、それなに?」
「ああ、悼也。あれ、これって……」
「………………」
帰ってきた悼也の手に抱えられていたのは一つの大きな紙袋。
椛はそれを覗く。
「ナイスタイミングよ悼也。ちょうど作ろうと思ってたところだったから」
悼也持ってきたもの。それは、様々な野菜や肉、パンといったものだった。
「わ~、悼也君ありがと~!」
椋はそれを見て歓喜する。
そして椛は悼也から紙袋を受け取り、台所へと向かった。
「すぐに作っちゃうから、待ってなさいよー!」
「はーい!」
「………………」
台所からの椛の声に椋は元気よく返事をする。
料理が出来るまでの間、椋と悼也は手を洗いに洗面所まで行き、それからは今のテーブルで大人しく座るのだった。
それから数十分後。
「できたわよー」
椛がそういったところで、食器に料理が盛られ、食卓に並ぶ。
「それじゃ、いただきましょうか」
仕事を終えた椛が食卓へと座る。
「「「いただきます(まーす!)」」」
三人が揃って挨拶をし、食事が始まる。
これまでまともな食事と言えば昼の時だが、落ち着いて、更には身近な食事というのはこれが三日ぶりともいえるものだった。
近い未来、このように落ち着いた食事が出来ない時が多く訪れるだろう。
それでも、このときの三人はこの瞬間を大切にしながら今日という日を忘れないだろう。
何せこの日、三人はこの世界での自立を可能とし、元の世界への基盤を作り上げたのだから。
三人の元の世界へ戻る物語は、まだスタートラインに立ったばかり。
プロローグ終了です。