実は昔の方がむちゃむちゃ強かった
場繋ぎともいう。
いろいろと説明回です。でもわかりにくいかもしれません。
「――つまり、クゥのお母さんが人間で、一応お父さんにあたるのがクロアなのね?」
「……そう」
聞かされた真実に少々頭を悩ませながら、椛は確認をとっていた。
クゥもその話にはあまり意識するものは少ないのか、渋る様子もなく淡々と椛は情報を整理していく。
「んー、なんていうか、信じられないわね。あのクロアが……」
それは、無意識に漏れた椛の本心であった。
紳士は、それを聞いて一つ頷く。
「ふむ。確かに、竜という種族は多くが繁殖を主としていない。それは、もともと竜自体が長生きできるからでもあるな」
「そして、さらにいうなれば竜はもともと他生物との繁殖を必要としない」
「……どういうこと?」
椛の本心では、『あの』姿であるクロアが、という個の存在に対してのものであったが、続けざまに紳士から発せられた言葉は、そのようなことなど彼方へ飛んでいくほどの意味があった。
なにせ、クゥの存在に疑問を与えるものだったからだ。
紳士は、疑問に答えるようにもう一つ頷く。
「そもそも、竜とは他殺などの突発的死亡を除き、病気、寿命で死ぬということが分かったときには自身の分身ともいえるものを遺すといわれている。儂もはっきりと見たことがあるとは言えないので、真実かどうかはわからんのだがな」
「そしてここからが椛の疑問だが、先ほど述べたように、竜は一個体だけでの繁殖も可能なのだ。それなのに多生物の力を生きている最中で繁殖活動を行った場合、どうなる?」
「それって……」
全てを教えるのではなく、紳士は椛にある程度の情報を与えたところで再度考えさせ、椛もその意図を察して思考し、一つの結論に行きつく。
それを確認して、紳士は話を再開する。
「ふむ。そうだ。よいか、竜は、『死ぬ間際』に繁殖行動を通常行う。すなわち、自身の存在全てを、その繁殖の際に発生させる何かに移し渡すのだ」
「だから、竜が生きている最中に繁殖行動なんてとれば、それは自身の生命を分け与えるのと同義……」
「おぬし達三人は、クロアの背に乗っていたことから本来の姿を知っているな?」
つい先ほど、その竜の時の背に乗っていた。鮮明に思い出せる。さらには、初対面時の竜王というものを見て、呑まれかけたことも覚えている。
「ええ」
「大きいと、そう思ったか?」
「当然でしょ? 間近で見れば山と見まがうほどよ」
「ふむ。それでも、クロアは儂が最初に出会った時よりも、遥かに小さいのだよ」
「え!?」
あれで、小さい。
紳士は、そういった。
「はっきりいって、昔のクロアであれば、竜の時には今ここにいる山と同じほどに大きかった。そう、悪竜とまで呼ばれていたことにはだがな」
「嘘でしょ!? あれが小さいの!?」
「単純な体積、力量差なら、昔と今では二倍差だろうな。だからこそ、その竜の中でも類稀なる力は、あやつをこの世界における最強の生物の王として君臨できたのだ」
椛の驚きの声に頷きもしながら、紳士の中に古くを思い出していたのか、そこには懐かしさを秘めていた。そんな様子を椛もわかっていたが、驚きの方が思考を占めていて反応できなかった。
「でもさ~、そうなると、竜って世代を経るごとに弱くならない~?」
そこに、質問を投げかけたのは椋だった。
椋も実際に戦ったあの黒竜が、本来の力の半分ほどしかないという話を聞いて驚きはしたが、それでも思考を停止させるほどのものではなかった。
なので、彼女は小さな疑問を吐いた。紳士の言うことが本当であれば、竜は死に際に己の力を分譲して新たな竜を生み出すのだから。そうなれば、新たに生まれた竜が多いほどに、親からの力が分散してしまうのではないかと。
「ふむ。確かに、その疑問に行き着くのも確かだな。では、次はその疑問に答えよう」
紳士は、その質問を待っていたかのように、話を移行していく。
「さて、では竜が繁殖を行った際、竜の基となる何かが親から子へと全て遺伝される。そうなれば、生まれてくる子が多いほどに力は分割して分け与えられてしまうのではないか? というものだ」
「この疑問に関して、まず竜も人間たちと同様成長するということを述べておこう」
「そりゃあ、最初から大きな姿で生まれるのはおかしいものね」
「ふむ。そうだ。竜には、三つの時期が存在する。まず、生まれてしばらくの幼竜期。次に、幼竜期を抜ければもっとも長い、成竜期。最後に、竜は自身の寿命を数十年前に察し、自身の力を子へと渡して死ぬ、継竜期。この三つだ」
「竜とは、元々の寿命が非常に長い。人間の一生などは、竜にとってはつい先日の出来事であろう。そしてこの三つの時期だが、ごく平均的な竜の寿命から考えれば、まず幼竜期に百年。成竜期で千八百年。継竜期で五十年と考えられている。この時、竜にとっての成長期とは幼竜期の時であり、知識や経験を除いた、単純な体積に力、その他いろいろなものが決定される。この、幼竜期における成長こそが、竜の中での力関係を分けるというわけだな」
「成長するのが百年って……」
「これは平均的なものだからな。幼竜期が長い竜もいれば、短い竜もいる。継竜期も同様だ」
「ちなみに、クゥは今どのあたりなの?」
「……絶賛成長中」
一つの質問を、最後はクゥの答えで完結させる。そういうのが、今までの話の流れでもあった。また、クゥはまだ幼竜期らしい。その小ぢんまりとした可愛らしい姿を見れば、確かにそうだと納得できる。
「あ、でもさ、半人半竜って言うけど、実際にはどう違うの?」
一つの疑問が終われば、また一つの疑問。どうやって会話は繋がっていく。話は、基本的にクゥやクロアに関する竜関連ではあるが。それは、そういったのを知らないからこその人間としての知識の欲求から来るものなのかもしれない。実際、椛はそれが多い。
「……擬態?」
「擬態って……それは、人間の姿の時とか、竜の姿の時とかに何かあるってことで?」
「……そう」
「そういえば、クロアは一目見ただけじゃあ竜だなんてわからないわね。もしかしてそれって相当すごい?」
「……ん」
「ちなみに、クゥは何か不都合が?」
「……これ」
クゥは、指を上にあげて、ある個所を指す。そこは、頭頂部にあたる部分であり、猫の耳を模したかのような帽子を被っている場所だった。
「可愛い帽子よね?」
「……中」
「中?」
どうやら、帽子の中に一般の竜が人間に変身した時とは違うものがあるらしい。それを示すために、クゥは帽子を外した。
「あ」
同時に、クゥの頭が見え、椛は理解する。
白髪。しかし、人でいえばこめかみよりも少し上のあたりだろうか。そこから、対となる白い角が、生えていた。
汚れを知らない純白。光に照らされる角は、美しかった。
「ふむ。確かに、クゥ嬢のその角だけは月日がたっても引っ込まないな」
そこに、紳士が納得したようにつぶやいた。
「月日が経つと、隠せるものなの?」
「クロアも、最初の頃の人間の姿はクゥによく似た黒角に、尻尾もあった。しかし、それでも数年も経れば自然と隠れていた。耳に関しては、髪で隠れていたからばれることも無かったのと、儂が与えたあの外套を羽織っている限りはわからないだろうがな。あれには認識を阻害する仕組みを施している。今、儂が纏っているのと同じな」
「あぁ~、だからクロアちゃんもおじさんも、まったく読めないんだ」
「ふむ。椋は中々に見る目があるようだ」
「……まぁ、それはいいとして。クゥは、その角だけが隠せないの?」
「……そう」
互いに訳知り顔で、認め合うような視線を交わし合う椋と紳士は放っておき、椛はクゥとの会話を続けるのだった。
そしてどうやら、半人半竜とは、竜よりも擬態に劣るということもわかったのだった。
だからなんだとも、いうのだが。
結局、話は一貫してクゥを中心としたものだけで終了となった。理由としては、時間だ。
竜王との一戦を終え、荒野への往復。それらを合わせてしまえば既に暗くもなり始めており、互いの話の最中ではあった本日は終了ということで、椛たちは山頂にて野宿をすることになり、クゥも野宿の仲間入りをするのだった。ついでに、紳士はいつの間にか消えていた。
そうやって、命がけとなったこの日は終了した。
結構、考えるの大変です。繋ぐというのが苦手なのです。その場その場のように、切り取った出来事はわいてくるんですけどね……。そういった意味では、私は物書きとしてはまだまだひよっこです。
それにしてもあの紳士、一体何者なんだ? 真相は闇の中……。




