椋の用事と、新たな出会い 後編
「次はどこに行くんですか?」
またも先を歩くアネモアを椋は追いかけながら話しかける。
「次は装飾屋であるガレオン様のところになります」
「装飾屋?」
「そうですね、」
「現在のリョウ様には関係は無いところですが、」
「後々その意味を知ることにもなるでしょうし、」
「その都度その都度場所を案内するのも手間ということで、」
「場所と顔だけでも見ていただければ今後役に立つであろうということになりました」
「メンドクサイから?」
「ありていに言えば」
つくづく、このアネモアという女性は面倒事というのが嫌いなのだろうか、許容できる範囲では無駄……とまでは言わないが喋るうえにいろいろと人前で言っていいことかわからないことを言うが、行う仕事やフォローというものには無駄を存在させようとはしない。
「それで、ガレオンさんって、いう人は?」
「そうですね、」
「他人事で話すのならば変態でしょうかね」
「はい?」
「実際にお会いすればわかるかと……」
「ここです」
アネモアが足を止め、その視線の向かう先を椋も追って見る。
「うわ……」
その店は、豪華だった。
別にそこら中に金色を施した建物というようなわかりやすいものではなく、人の目がどうしても向かうであろう場所にお金がかかっているように見える。
例えば必ずそこを潜らなければ店の中に入ることは禁止されている扉の取っ手|(金属?)には深緑色をした石が埋め込まれている。
戸惑う椋を置いて、アネモアは躊躇なく扉を開けて入っていくものだから椋も置いてかれないように続いて入る。
「あらん、いらっしゃい」
アネモアと椋を迎えた声は、野太い男のものなのに、行き過ぎた女のような喋り方。
「お久しぶりです、」
「ガレオン様」
「もう、アネモアちゃんったら、アタシの事はガレオンちゃん、って呼んでっていつも言ってるでしょう?」
「申し訳ありませんが、」
「そうもいかないので」
「ざ~んねん。それで、アネモアちゃんが来るってことは、新しい子でも入ったの?」
「そうなります」
「それって、その後ろにいる子? まぁ、可愛いコ。元気そうなお顔に健康的な身体ね。将来が楽しみだわ」
「は、はぁ」
ガレオンという、性別男である彼女のその姿に、椋は圧倒されるしかない。
なにせその体つきは筋肉隆々としたものなのに、動くたびに体をシナらせ、女性の服を身に着け、化粧によって男の顔特有のものを消そうとして消し切れていないひげ跡がはっきりと見える。
椋はこの時に確信した。今日は、自分にとって苦手な人物会う厄日なのだと。
「んふふ、そんなに怖がらなくていいのよ? アタシの見た目がアレだからといって、アタシは別に変態ではないの。それだけはわかって。誤解されるのは一番よくないことだから」
「わ、わかりました……」
一応自分が周りと違うことには気づいているガレオンだが、それでも己の信念を変えるつもりはない。
「ガレオン様」
「ああ、そうだったわね。話が脱線しちゃった」
アネモアの一言で我に返ったガレオン。
「それじゃあアナタ、お名前は?」
「椋です」
「リョウちゃんね。かわいい名前だわ。んふっ」
「うっ……」
名乗ったところでガレオンのウインクをくらい、少したじろぐ。
「あ、あの……それで、このお店は何をしに来る場所なんですか?」
「いい質問ね。お店の外の看板にも書いてあった通り、ここは『装飾屋』よ。一般的な装飾品を取り扱ってるの」
「でも、それじゃあどうしてギルドの人はここを知っていた方がいいんですか?」
「あら、モチロン普通に装飾品を買いに来るギルドの人はいるわよ。でも、そうねぇ……どうしてここがギルドの人たちが来ると良いかっていうのは、今説明しても理解できないものかもしれないわ」
「?」
「つまり、今説明しちゃうといろいろと面倒なことがあるのよ。決まり事とかあるからね。だから、時が来たらここを訪れなさい。その時にはちゃんと説明してあ・げ・る」
「はぁ……」
結局、椋の聞きたかったことははぐらかされ、店を後にするのだった。
「あの、どうしてあのお店に連れていたんですか?」
夕暮れ時。
あれから、いくつか日常的に必要となる物を買う場所に案内され、ギルドへと帰る道。椋は、唯一真相のわからなかった装飾屋のことについて終始前を歩いていたアネモアに問う。
「それは今お答えすることは出来ません」
「しかし、」
「リョウ様の実力であれば近いうち、」
「きっと知ることが出来るでしょう」
「それに……(フォン!)ですからね」
「え、なんて言ったんですか?」
「なんでもありません」
最後の一言、強い風が吹いたことでアネモアの言葉は椋の耳に届かず、椋は聞き直すもアネモアが答えることは無かった。
それから、どうしてだか二人の間に会話は生まれず、ギルドへとたどり着く。
二人が中に入ると、依頼を終えて帰ってきた椛と悼也がテーブル近くにある椅子に座って二人を出迎えるのだった。