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Drifter  作者: へるぷみ~
竜の谷
78/100

強者と絶対者

 得物が折れた。

 そのことに少なからず驚愕を示した椋と悼也だったが、一拍を置くよりも早く破損していた武器を手放し退く。

 砕け散った鉄片に木片がクロアの周りを舞い、反射した光が周囲を輝かせる。その光景は、三人の胸中に僅かな神々しさを抱かせた。


 「さて、お前たちの間違えたことはひとつ。武器だ」

 「「「ッ!」」」


 だが、それもクロアの声によって一瞬にして現実へと戻され、我に返った三人はクロアの挙動を見逃すことの無いよう集中する。その様子を知ってか知らずか、クロアは続ける。


 「故にお前たちは、使うべき力を使うことをしろ。はっきり言って、なめている様にしか感じない。よくもまぁオレ様相手に全力を出さないなんてことができるなぁ?」

 「わけが――」

 「わからねぇわけねぇだろ?」


 状況を正しく把握し切れていない椛にとって、クロアの語ることの意味はわからない。故に、椛の言っていることは本音であった。それでも、クロアにとってそんなことは関係なく、自らに対抗できるはずの力を持っているというのに使わないということは、生物の頂点である『竜』であり、さらにその竜の頂点に立つ『竜王』にとっては屈辱以上の何ものでもなかった。

 だからクロアは、長い黒髪を掻きながら、待ちきれない子供のような態度でそれを示しに出た。


 「そんなに出したくねぇってなら、無理矢理出すまでだが、なッ!」


 静から動への転じは一瞬にも満たない。

 『辛うじて』目に捉えることのできる椋であっても、それは己への害意を持った攻撃にしか反応することは出来ない。椛は元よりクロアが移動してしまえば目で追うことも出来ない。そして悼也に関しては、目で追うことは出来なくとも辺りの空気の動きである程度の動きを追うことは出来る。だが、それに対処できるだけの体力を今の悼也には有していなかった。

 必然なのか、偶然なのか。否、クロアが確信を持って行動をしている以上それは必然であり、狙われたのは悼也。彼の横を抜け、同時に悼也の身体を地に伏せさせる。


 「がッ!?」

 「悼也ッ!」


 反射的にもれた悼也の声に椛が叫ぶ。が、椛が出たところでどうしようもない以上、彼女は今起きようとしている光景を受け入れるしか道は無い。


 「出せ」

 「ッ!?」


 クロアは下にひいた悼也を一瞥して言葉を発したわけではなかった。

 彼と離れずに存在する『ソレ』。その中に、クロアは――確認することは出来ないが手と思われるもので――抵抗もなく入れていき、弄るようにして『何か』を探す。

 対して悼也は、今行われている現象に酷い違和感を感じていた。彼の影の中は一種の空間となっており、様々なものを保管することが出来る。だからといって、彼の影が入り口であり出口であっては、常に存在する影は常にその口を開けていることに等しい。故に、影には制約が設けられていた。


 ――『自身が許可を下さない限り影の内部への干渉を不可能とする』


 これがあるために無闇矢鱈に影は呑み込むことはせず、悼也以外の者であっても彼が許可さえすればその影の中を探ることも入ることも出来るのだ。

 だが、今この瞬間において、悼也は一度も影に許可を『出していない』。

 それなのに、クロアは今現在何の問題も無く影の内部へと干渉し、調べている。

 あまりに不気味。あまりに不可解。

 まるで、無理矢理自身の内部を掻きまわされる様でいてどうしようもないほどに嫌悪感が勝る。かといって、どんなに悼也が抵抗を示そうとも圧し掛かっているクロアが退くということも退かせるということも出来なかった。


 「ふーむ、……ん? お、あったあった。これだ」


 それでも数分に満たすほどか、目当ての物を見つけたであろうクロアは影からその身を離し、影は水面から引き上げられた『何か』に名残惜しそう纏わりつきながらも重力に従うようにして影と同化する。

 目的を達成できたクロアは悼也から離れ、三人から大きく離れた場所に着地する。


 「悼也!」

 「悼也君!」

 「問題は……無い」


 クロアが悼也から離れると同時に椛と椋は悼也の傍へと駆け寄る。悼也は多少ふらつきはしたものの、立ち上がって無事を言した。

 それ以上に、悼也の視線は一箇所に留まったまま動くことは無い。その視線の先を感じて二人は見てみると、クロアの纏っている布からは、二つの皮袋が覗いていた。


 「あれって……」


 その皮袋には見覚えがあった。忘れるはずが無いものだから。

 この場所へとやってくる前に、一人の老人がくれたもの。

 三人に渡されたうちの、二つ。残りの一つは既に椛が身に着けており、残った二つは椋と悼也のものだ。

 そう、エルフの職人が作り上げた、椋と悼也のための武器が入っている袋だった。


 「最初から『そんな感じ』はあったんだ。というか、来る前からこの場所にたどり着けるのは『アイツ等』に出会えたやつ以外ありえないしな。対面してはすぐに気づけた。不思議だったのは、人間が『アイツ等』とそこまで信頼を築けたということか」

 「それを、返して」


 独白するクロア。だがそれに怖気づくことは無く、椋が前に出ていた。

 彼女にとって、その武器は『とある職人』との信頼の証なのだ。友好の証なのだ。それを、みすみす持たせるわけなど、いくわけが無かった。


 「別にいいが?」

 「へ?」


 だが、クロアの反応はあまりにも呆気ない了承。同時に、振りかぶることなく宙を舞った二つの皮袋は、逸れることなく椋の胸元へと吸い込まれた。


 「どういうこと?」

 「どういうも何も、喧嘩は楽しむもんだ。蹂躙したらそれは『喧嘩』じゃない。『狩り』だ。そしてオレ様にとって喧嘩とは、己の扱える全ての力……全力を以って相対することだ。だからこそ、ハンデでも何でもない。『ソレ』を使って、全力で来い!」

 「………………」

 「椋……」

 「悼也君を見ててね、椛ちゃん」

 「わかったわ」


 クロアの言葉に、椋は一度目を閉じ、しばらくして見開く。その瞳に、疑念も恐れも無かった。そこにいたのは、八薙椋という人間の、一人の『強者』としての椋が、そこにいた。

 皮袋の口を開き、『ソレ』を取り出す。

 三本の短棒。それをつなぎ合わせ、ひとつの長棒へと変える。

 初めて握ったというのに吸い付くような感触。先ほどまで使っていた得物とはなんら変わった違和感は存在せず、唯一あるとすれば今握っている得物は純粋な木製であり、その表面には幾何学模様が彫られているということだけ。

 そんな椋にとって子細なことは気にすることなく、彼女は構えた。


 「八薙流合戦戦術正当後継者、八薙椋。竜王クロア、あなたを打倒する」

 「楽しませろよ、人間」


 相対する『強者』と『絶対者』。

 二者の喧嘩が、幕を開けた。



ポッとでの設定ではないのですが、説明がくどかったりしたらすいません。後ろを振り返ることが無いのは良くないことだと思っているのですがこればかりはご容赦を。

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