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Drifter  作者: へるぷみ~
竜の谷
70/100

南東へと向かうために

今回は連続投稿となります。





 宴の翌日、エルフの五人はギルドの前でグリュークの言葉によって紹介された。

 住民もさすがに最初は訝しげではあったが、グリュークの事を信じている彼らは一方的な拒絶はしなかった。それ以上に、子供たちはエルフに興味が惹かれ最初に彼らと彼彼女らと仲良くなった。それにつられてその親と関わりを持ち始めた。

 エルフと人間が互いを認め合うのも、遠い未来ではないだろう。

 それを見届けることが出来ないのは少し悲しくもあるが、椛たちの目的は自分の世界に帰ることである。

 昨晩のフィップルからもらった情報をもとに、地図を広げ『竜の谷』がどこにあるのか星をつけていく椛。彼の言葉ではエルフの森の南東――地図では山脈辺りを指していた。

 そうなればすぐに行動を移す必要があり、三人はピメンタへは戻らず、直接南東を目指すことにした。道中にはドラクンクルトを通過するので、そこを中継点とし最終的にはコエニギへと向かう。そこを一時的な拠点として、活動することになるだろう。


 「今思えば、この世界で最初に見た生物って竜だったわよね」

 「そういえばそうだったね~」


 竜の話題に、最初の頃を思い出す二人。

 椛が説教しながら空を見上げたとき、辺り一面に影が射し、そこを通り過ぎたのが竜だったことは印象に深い。椋も同様であった。


 「あの竜って、どんなんだったかしら?」

 「ん~、悼也君なんかわかる?」

 「黒」

 「それは影が射してたから黒く視えたんじゃ……あれ、でもそう言われる黒以外の色が思いつかない」

 「言われてみればそうかもね~」


 あの時は混乱というか、思考が停止していたためにあまり気にしていなかったが、冷静に思い返してみて、あの時の竜は黒以外に目立つ色が無かった。影のせいだと言われれば確かにそうかもしれないが、そうとも言い切れない何かがあった。


 「あー、やめやめ。あんま変なことで議論すんのは止めましょう」

 「そうだね~」


 話していても詮無きこと。それよりは、ザントキシルムからコエニギまでの事をしっかりと計画を立てることに集中するの三人だった。





 出発は早朝。

 食糧に関していえばコエニギまで直通であれば足りないぐらいであるが、ドラクンクルトを目指すのならば足りるだけはあった。よって否応なくドラクンクルトを目指すということになり、さらにはそこで路銀を稼ぐということにもなった。宿代が『Drifter』の権限により無料であるのはいいのだが、食糧に関しては自費であるため、長期的な移動を行う際にはお金を必要であるし、椛は薬品や素材の合成による消耗品を扱うこともあるのでそういったものの補充などもしなくてはならないからだ。

 ザントキシルムを出立する際、フィップルたちエルフと、グリュークとクィンが見送られることとなって三人はその場を後にした。

 余計な言葉はいらない。動作もいらない。ただ去っていく三人を、消えるまで見守っているだけ。それだけで、十分であった。

 そして、場所はドラクンクルトへと移る。


 「相も変わらず賑やかねぇ」


 門を潜り抜ければひとヒト人。

 初めてドラクンクルトに訪れた時と大きく変わったことは無く、変わったとすれば出店の商品が少し変わっているぐらいであった。

 ひとまず宿をとることにし、椛たちは前回と同じ宿に荷物を置いた。身軽になったその足でギルドへと向かう。


 「グラディンさんはいないんですか?」

 「はい。現在依頼に出ておりまして」

 「そうでしたか。あ、挨拶だけだったんで伝言とかはないです。

  それでなんですが、短期間での見込みのある依頼はありますか?」

 「短期間ですか……少々お待ちください。

  ……こちらはどうでしょうか? モミジ様たちはAランクですが『Drifter』の資格をお持ちですので、こちらを受けることができます」

 「んー、ふむふむ。そうね、じゃあこの依頼にしようかしら」

 「畏まりした。では、依頼の詳細はこちらになります」

 「ありがとう」


 一応のけじめとして、グラディンがいれば挨拶をしようと思ったが本人は不在らしく、生憎と依頼を請けるという形だけになったので、結局は宿へと戻り明日に備えて依頼の詳細を確かめるだけでその日は終わった。





 三日後、路銀溜まりその路銀で食糧を買い、必要と思われる道具を買い足し準備も整った。

 依頼の報酬は中々に稼ぎも良く、さらに依頼中手に入った不必要な素材などを売った結果、十分すぎる額になったのはよかった。

 しかし、その三日で少々面倒なこともあり、知る人は知っているという者で三人が獣人との橋渡しを知っているという貴族がいて長い話を聞かされた時はうんざりとしたものだった。そこに愚痴なども混じっていたのだから、余計に疲れた。

 だがどうにか、次の目的地であるコエニギへと向かうことも今日できる。


 「さっさと行きましょうか」

 「そうだね~」


 三日というのはよい滞在期間だったのかもしれない。これ以上いればさらに余計な面倒事が起き、ドラクンクルトに縛られるかもしれないのだから。だからこそ三人は、結局ドラクンクルトを逃げるようにして出発してコエニギを目指すのだった。





 七か国連合の南部は北部に比べて緑が少ないという印象を受ける。

 これは主に洞窟や鉱山が多く、他にも火山地帯があるということが理由である。

 そのおかげか南東のコエニギと南のシジギウムは鉄工業に秀でており、豊富に入る鉱石から様々な剣や鎧を生み出すのだ。まさに、『鉄の国』や『火の国』という表現がしっくりくるほどに。

 また鍛冶師も多く、王族直々に依頼される装飾剣から、家庭に用いられている包丁まで幅広く専門家は存在するのだ。

 他にも火山地帯が近いことから温泉なども存在し、観光の名所としても有名である。


 「ここら辺は暖かいのね」

 「ほんわかするね~」


 気温にも差はあり、北の方と南の方では温度の差に五度ほどは離れており、北が涼しければ、南は温かだった。この変化はドラクンクルトを出て二日ほどで顕著に表れた。

 また、魔物にも鉱質を含んだものが多くなり、比較的硬かったり鈍重だったり大きかったりするものが主として、集団行動よりも単独行動を行う魔物が目に見えていた。ただ単独行動をしているだけあり個々体は強く、またしぶといというのは難点であり進行には予定していた最短日数よりも二日遅れ、四日目にコエニギに辿り着いたのだった。



こちらは移動回なので大きな進展はないです。

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