魔法の武具
主に、説明回
『スピリクト』
その名は代々エルフの女王となる者に受け継がれる名。
人間の世界において名前の後ろにもう一つの名がつくのは王族と貴族のみであり、それは家系を示す名でもある。だが、エルフの女王はそもそも家系で産まれてくるものではない。それによって女王本人が祀られることがあってもその親や息子が特別視されるということは無いのだ。もちろん、本来であれば女王もまた息子であろうと両親であろうと特別扱いしてはいけないことになっている。
「といっても、それは形においてだけなので緊急を要する事案でない限りは、女王も他の方も変わりはありませんでしたから」
エルサーシュ曰く、基本的に女王は『象徴』であり、エルフを守るという役目を除けば周りのエルフと変わらないらしく、森を守るのもまたその代の女王次第らしい。そしてその『象徴』も、エルフに示すために女王は代々としてあの場所に日中はいるということになっており、夜になればほとんどのエルフが自らの家へと帰るため、『象徴』としての役目も同時に必要なくなるので、自宅へと帰れるのだ。
そしてまた朝になれば女王のいる場所に『象徴』として日中を過ごし、また夜になれば自宅へと戻る。そういったものだった。
夜に関していえば、元々客人が来ることを想定されていない場所だ。
地域密着というか、お互いの家が近いために誰かの家に泊まるという考えが無いため、エルフは自分に必要な分の寝床しか用意しないというのは当然だろう。
それでも、寝る場所は男性女性できちんと分けられており、フィップルと悼也、エルサーシュと椛と椋に分かれて寝た。無論、椛、椋、悼也に関していえば野宿と変わらないのは言うまでもないだろう。風雨を凌げるだけでも十分すぎるし、安全のための火の守と警戒をする必要が無いのは精神的に大きかった。
そうして一週間ぶりの安眠を貪った。
その翌日、朝になると三人はエルサーシュに連れられて『女王』の居る古木の前にてエルフの民を呼び、正式に椛、椋、悼也は人間の客人として認められた。これに、エルフからの不満は噴出もしなかったが、口にしないだけであるのかもしれないという不安はもちろん存在した。
それでも、『女王』の言葉もあり彼等はぎこちないながらも、三人を迎え入れるのだった。
「よろしくお願いします」
三人の代表である椛が挨拶する。
それに対して野次もなければ、歓迎の声もなかったために、風の音が少し大きく感じた。
そんな一日目、まず三人はフィップルに連れられて様々なところを回った。一応食事に関していえば才能もあるので幾つかの食事処はあったし、その日の内にとれる食糧もあるので食物を扱う店屋もあった。だが三人が一番驚いたのは鍛冶屋だった。
扱ってるのは武具と農具が主。農具に関していえば木材で人間の使っている物とほとんど変わりはなかった。が、武具に関していえば全てが人間の扱うものと違っていた。形状は人間が使うものの武具と大きく逸脱した形状ではなかったが、普通ではなかった。
主軸は木材だ。高価な武具では希少な石や、鉱石を喰らって精製する魔物を狩ったことで手に入れた金属を使ったものがある。
そして何が違っていると言えば、全ての武具には複雑な模様が彫られているということだった。武具に装飾を施すというのは本来であれば武具が脆くなってしまうので観賞用のものぐらいにしか装飾は施されないのだが、エルフにとって武具に装飾を施さないのはありえない行為であった。
理由はすぐに判明した。彼らは、武具に装飾を施すことで精霊の力に指向性を持たせることを可能としていたのだ。
例を挙げるのならば、エルフの扱う弓はまず矢を持っていない。元々矢の鏃の部分が石か金属と貴重なため、消耗品である矢はとても高価になる。よって、弓に装飾を施し精霊の力に具体性を持たせる。この時ほとんどの弓に彫られている装飾の内容は『矢の生成』となっており、エルフが借りる精霊の力で、生成される矢の属性は変わるという。といっても森にいる精霊のほとんどが木精霊か土精霊なので、生成される矢も木か土になるのだが。無論、『矢の生成』を弓に彫られているかといって、撃った瞬間にすぐ次の矢が補充されるわけではない。撃つ毎に毎回矢が生成される『間』があるため、万能というわけでもないことがわかった。
そしてこの『装飾』にも、弱点は存在している。
使用している武具の装飾が欠ければ一瞬で精霊の力への指向性を持たせることは出来なくなる。
弓ならば矢を生成できなくなるので、慎重に扱う必要があるというのがあった。
もちろんこれにも対策は存在し、武具自体の耐久度を上げることで装飾の欠けを少なくしたり、装飾の上から『被せ』を行うことで隠すこともある。だが装飾を施すのは繊細な作業であるため、貴重な武具にしか様々な装飾は施されない。そして『被せ』も、鍛冶屋が行うものではなく、基本的には使用者であるエルフが独自に行う手法であるため『被せ』を行うエルフもいれば、しないエルフもいた。
「調べた資料には風を纏う靴っていうのがあったけど、そういう仕組みだったのね」
伝説ともいえる『空飛ぶ靴』の謎を知ることが出来、椛は感心したものだった。
そういった驚きを交えながら、一日目は終わりを迎えた。
色々と複雑なので、矛盾点に関してはお察しください……。




