迷いの森
追加するかも……しれません。でも次話が更新されたら追加は無いです。
3/21 18:16 結局追加しました。読んで物語に大きな影響は与えません。
その後、椛とフィップルはまずお互いの現状を確認し合いながら、会話を進めた。
命の恩人ということもあり、椛自身も助けたこと自体を盾に迫っているわけではないのでフィップルも安心して話し、椛もまたフィップルが嘘を吐く性格ではないと会話に態度、目線から把握して話していく。
また、椛は自分たちの目的であるエルフとの交流を図りたいという言葉を口にすると、フィップルは目を輝かせた。
「本当かい!?」
「え、ええ。近い」
いきなり顔を近づけてくるために椛はフィップルの迫力に押される様に体をのけ反らせる。
そして話を聞いていくと、フィップルがなぜ魔物に襲われていたのかという理由が判明した。
なんでも、人間と交流することで閉鎖された場所から外に出たいという議論において、母親と話し合い、宥められたからだと言う。反抗期真っ盛りというか、それでフィップルは人間を見つけるために森の外に出、その結果魔物と鉢合わせたということだった。
「さっきも言ったけど、私達はエルフと交流したい。だから、フィップルの――エルフをまとめている人に、会って話がしたい」
正直、フィップルの襲われた話はどうでもいい。だが、エルフの中に人間と関わりを持ちたいという者がいるのは運が良かった。そもそもエルフの住処でさえどこにあるのか見当もつかなかったからだ。
だからこそ、フィップルも満足げに頷いた。
「なら、僕たちの住む場所まで、案内するよ」
そして椛の狙い通り、フィップルはエルフの住処へと案内をしてくれた。
エルフは本来、精霊たちの力を借りることで住処を隠し、魔物に襲われないようにしている。
隠しているといっても、物理的にではない。魔物や獣、人間もどうようで無意識的にエルフの住処近辺を避けるようにしているために、結果的に隠しているということになっているのだ。それでも時折魔物や獣は迷い込んでくる。特に、生死を彷徨うほどに意識が混濁していたり生物が多く、理由は無意識も意識もあったものではないからということ。
そして、手負いの魔物ほど危険なものはない。自身の傷を回復させようと獲物を求め、エルフを餌としようとする。そんな時に、エルフの女たちは魔物を退治するのだ。
他にも、エルフは時に食糧を求めるために外に出なければならない。そう言った時に、エルフにだけでは精霊による『避け』は発生しないようになっているから森の中では道さえ覚えていれば何事もなく帰れる。
のだが、そもそもほとんどのエルフは個人では住処から出ることは無い。それは外がそれだけ危険であるためだ。元々長寿であっても数の少ないエルフ。女で戦闘に優れているエルフはともかく、戦闘に向いていない男が『避け』の外に出てしまえば魔物に襲われ、殺されることは明確だった。
「そしてここが、その『避け』だよ」
「まったくわからないわね」
しばらく歩いたところで、森の雰囲気も特に変わることは無く、フィップルは立ち止まり椛たちへと振り向いた。どうやら、ここが『避け』の境であり、普通の生物であれば意識することもなく別の場所へと向かってしまうらしい。
『いや、そうでもない』
「風莉?」
疑問をまだ抱えている椛とは対称に、風莉は『避け』がわかったようだ。
「さすが、精霊様というべきでしょうか」
『ふふん、凄いであろう?』
「確かにね。で、なにかあるの?」
椛の質問に、風莉は一つ頷く。
『そもそも生物のように肉眼による視覚情報ではこの『避け』は感知できん。これは、わしのように上位精霊が行っているのではなく、下位精霊の……それも群体精霊がおこなっていることじゃな』
「群体って?」
『本来下位精霊は姿を保つことも出来なければ、力を顕現させることも出来ん無色透明な者たちじゃ。だが、下位精霊であっても指向性を持たせ集合することが出来れば、それは力を発することが出来る。だが、下位精霊は意思もなく世界に漂っているだけ。それを、こうまで影響力をもたらしさらには範囲がこれだけというのじゃから、驚きじゃよ』
「へえ……それって、誰が?」
「女王です」
「エルフの?」
「はい。エルフがこうして無事なのは、この『避け』を行える者。その者はエルフを守護する役目を持ち、そして精霊たちと交信することが出来るのです」
「そうなんだ」
「さ、行きましょう。この先が、僕たちの住む場所です」
それは目に見えないものではあった。
漠然としていて、言われなければわからない。
それでも、そこを抜けたときに椛は確かに『何か』を感じた。
ほんの些細だが、確かに次の瞬間にそこは別の空間であることを悟った。
周囲の風景も、見た目も何一つは変わっていない。
だが、身の回りの空気が先ほどとは違う。
「空気の質が変わった?」
『ほう、よくわかったのぅモミジ』
自分への問いかけに対する呟きを、風莉が拾った。
見た目彼女は、精霊の中でも風を司る。そういう意味では、この変化に一番敏感であるのは風莉といっても過言ではない。
「やっぱり、何かが違うの?」
『うむ。人間やエルフ、ほとんどの生物には大きな変化はない。だが、確かに変わっておる』
「どう違うのよ?」
『先ほどモミジが言った通り、空気の質。つまり、この空間内に存在する不純物は極力この中には入ってこないようになっておるのじゃ。
不純物というのは、ほんに小さなものじゃが『瘴』という。これは、魔物が存在するだけでも発されるものでの。まぁお主たちが息をするのと同じでの、わしら精霊の根源である『精』を吸収し、『瘴』を放出する』
「それって普通にヤバくない? だって、そのままの意味だったら魔物が増えるほど精霊はいなくなるじゃない」
『安心せい、『瘴』は自然に取り込まれ、『精』になって放出される。壊滅的に自然が荒廃さえしていなければ、『瘴』が世界に蔓延することはない』
「あ……。うん」
風莉のその言葉に、椛は一つの事に思い至った。
未開拓領域へと向かう前、グリュークの言っていた言葉だ。無暗に獣や魔物を殺さないということ。それは自然を破壊することになるという仕組みが、ようやく判明した。
『なに、モミジは普段から風を扱っておる。それだけに空気にも敏感になっておったのだろう。少しは違和感を覚えるじゃろうが、すぐに慣れるであろうよ』
「わかったわ。出来る限り気にしないようにする」
『そうするとよい』
風莉の言葉が真実であるならば、精霊は『精』によって生きている。魔物もまた『精』吸い、『瘴』を放つ。自然は『瘴』を取り込み、『精』を生み出す。その流れは人間の必要とする呼吸と何ら変わるものではない。だが、それだからこそ何か一つ欠けるというのは決して許されない。
そんなことを、椛は思いながらも意識の片隅へと追いやったのだった。
後半の追加部分は物語自体にはまったく影響を与えない、所謂説明話です。知っておくとちょっとだけ世界の裏側がわかるぐらいのもの。
ちなみに、『精』と『瘴』関係はほとんど『酸素』『二酸化炭素』と同じです。都会には自然が少なくとも『二酸化炭素』だらけにならないのと同じことです。




