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Drifter  作者: へるぷみ~
序章
6/100

魔物との遭遇、依頼の達成

戦闘シーンは相変わらず稚拙です。精進します。だから石を投げないでくださるとありがたいです。

 


 「見つけた」


 森の中、獲物を発見した女性の声が小さく響く。その声は、女性の隣にいる男性にも聞こえ、女性の発見した獲物を己の目でも確認する。

 女性と男性の視線の先にいるのは、――木々の葉の影で見づらくはあるが――八体の『ゴブリン』。

 『ゴブリン』たちはお互いがお互いの死角を消すようにそれぞれ別の方向を見ながら歩いており、その周囲を見るために輪となっている『ゴブリン』の中心には、他の『ゴブリン』とはわずかに体の異なる『ゴブリン』がいる。恐らく、あれが『ハイゴブリン』なのだろう。


 「うーん、ハイゴブリンがいるとなると、部下であるゴブリンたちの数以上に強いって話だったわよね。そうすると……合計十四体の『ゴブリン』を相手にするってことなのよねー」


 心底厄介だ、と女性の表情が苦虫を噛むような顔になる。

 なんせ、八体のゴブリンだけなら統率も取れていないために成功する確率があるものが、リーダーである『ハイゴブリン』がいるとなってはその殲滅のしかもいろいろと変わる。


 「悼也、もし一人であの『ハイゴブリン』と戦うなら勝算はある?」

 「ああ」


 女性に呼ばれた悼也とうやと呼ばれた男性……いや少年は、質問に簡潔に答えるがそれは有無を言わせないような語調である。その言葉を聞いて、女性の方の表情も安心という言葉が顔から表れ、すぐに表情を引き締める。


 「悼也、まず私が『ゴブリン』たちをかく乱させるから、ヤツらが混乱している間にリーダーを倒して。でも、深追いはしないのよ?」

 「わかった」

 「それじゃ、合図したら行くわよ」


 女性の言葉と同時に悼也は音を立てることもなく木の上へと登り、枝と枝とを器用に渡りながら『ゴブリン』の群れへと近づいていく。

 悼也が『ゴブリン』近づく最中、女性は悼也のように音を殺して移動することは出来ないのでなるべく音を立てないように女性は移動していく。

 そして目標の位置へとたどり着くと、腰に装着されている皮袋に右手を突っ込み中を探る。

 すぐに目的の物が見つかったのか、手に取った物は手の平に収まるほどの球状の形をしているもの。

 それを左手で持ち、再度右手を袋の中に入れる。取り出したものは両の手に着けるための手甲。

 指の第二関節から手首までを硬い外装が覆い、それが拳を保護する目的だというのがわかる。加えて、手の動きが阻害されないように外装は四つに分けられており、その下には革で作られた手を通すための構造が出来ている。

 女性はそれを手早く装着すると、右手に先ほど取り出した球状の物体を持ち直す。

 次に、『ゴブリン』たちの居場所を目に焼きつける。準備は出来上がった。

 女性は既に『ゴブリン』たちの真上で待機している悼也に合図を送ると、次の瞬間に右腕を振りかぶり、『ゴブリン』の集団の真ん中、ちょうど『ハイゴブリン』のいる位置へと投擲、そしてその球状の物体が地面についた途端、それは白い煙を上げ、すべてを見えなくする。女性が投げたのは、煙玉である。

 突然の出来事に『ゴブリン』たちは戸惑う。加えてお互いの姿もまともに見えないために、下手に行動をとることが出来ない。

 対して『ハイゴブリン』は煙が上がった瞬間に周りにいる『ゴブリン』を集めようとしたが、それは出来なくなっていた。

 


 先ほど合図を受けた悼也は、煙玉が煙を噴出するのと同時に『ハイゴブリン』の真後ろに着地。そしてその流れで『ハイゴブリン』の無防備な首筋に右手で作り出した手刀を叩きこむと、基本的に人と変わらない構造を持つ『ゴブリン』種である『ハイゴブリン』は、意識を刈られ地面に倒れ伏す。

 悼也は倒れ伏した『ハイゴブリン』に視線を向けることはなく、まるでどこに『ゴブリン』がいるのかがわかっているように走りだし、未だに辺りをきょろきょろと見回している一体の『ゴブリン』の足を刈り、宙に浮いている僅かな時間に両の手を合わせハンマーの形を作り出すと、腹部にある鳩尾めがけて思い切り振り下ろす。

 強烈な一撃を喰らった『ゴブリン』は口内にある唾液を吐き散らしながら地面に叩きつけられると、呻き声を漏らした後に動かなくなる。

 次に悼也は左に走り出すと、先ほどの仲間のやられた音に気が付いたのか、そこへ向かおうとした『ゴブリン』と鉢合わせる。しかし、『ゴブリン』の方は突然現れた敵にたたらを踏んだ。それに対して悼也は乱すことなく『ゴブリン』の目の前まで肉薄し、流れる動作で『ゴブリン』の顎に下から上への掌底を叩きこむことで『ゴブリン』の脳を揺らし、体が浮いたところでその場での一回転からの裏拳をもう一度『ゴブリン』の顎に叩きこむ。『ゴブリン』はその衝撃によって空中で一回転すると地面にうつぶせの状態で倒れ伏した。

 ここまでさほど時間は立っていないが、視界を覆っていた煙も晴れ始め、辺りの状況が肉眼でもはっきりと見えるようになってくる。

 そこに一陣の風が吹くと、煙は風に流され、そこにある現状を悼也の瞳は映すのだった。



 『ゴブリン』は焦っていた。

 突然視界が煙によって遮られ、ようやく辺りが確認できると思ったら立っているのは自分を含めて二体だけである。

 『ゴブリン』はもともと人間である者が後天的に魔物と化したり、『ゴブリン』に襲われた人間の女性から産まれてきたものしか存在しない。だからこそ、後天的に生まれた『ゴブリン』たちは人間であった頃の知識や思考をある程度持っている。その知識や経験が集団を作り、武器を操り、生き残っているのだ。

 そしてこの『ゴブリン』は、後天的に生まれた者だった。しかし、もう一体の『ゴブリン』は先天的に産まれた『ゴブリン』。故にまともな知識も知能も無く、優先されるのは本能だけ。

 よって、この後天的『ゴブリン』と先天的『ゴブリン』のとった行動はある種必然と言えるものが存在した。


 「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 先天的『ゴブリン』は、自分たちの幾人かを倒したのであろう女性へと襲いかかる。

 女性は戸惑う気配がない。当たり前だ、いくら状況としてあちらが有利だとしても一人で一体以上倒しているのは明確である。だからこそ、たった一体で女性に襲いかかったところでこの状況が好転するわけがない。

 そのことを本能と人間であった時の経験が警鐘を鳴らしているのに気付いた『ゴブリン』が取れる行動は一つだけだった。

 逃走、である。

 既に集団としては全滅。だからと言ってここで反抗したところで恐らくあの女性の手によって殺されるか生け捕りにされて結局殺される。ならば、逃げるしかない。

 そう思考し、咄嗟に『ゴブリン』は女性とは逆の方向へと走り出す。脇目も振らず、ただひたすらに。

 しかしここで、この『ゴブリン』が周りを良く確かめるだけの余裕があったのならば、この『ゴブリン』は生き残れただろう。

 だが、それを今更考えてももう遅い。

 なぜなら、『ゴブリン』が踵を返し走り出した先には、自分たちのリーダーが倒れており、その近くに一人の少年が立っていたのだから。

 勝てないというのは既にわかっていた。

 加えて、自分たちのリーダーと複数の『ゴブリン』に対して無傷。それどころか疲れた様子も汗をかいてもいない。『ゴブリン』と少年の差は歴然。だが、既に『ゴブリン』は走り出している。今更止まるわけにも反転するわけにもいかない。

 走り抜けるしか、道はない。


 『ぐおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!』


 『ゴブリン』は少年を吹き飛ばす勢いで右の肩を前にだし、タックルの態勢となって少年へと突っ込む。

 だがこの少年も、この『ゴブリン』の後方、今もう一体の『ゴブリン』が襲いかかっている女性と同じで眉の一つも動かすことはなく、全身から力を抜き、やる気の無いようにしか見えない双眸で、じっ、と『ゴブリン』を見つめる。

 そしていつ取り出したのかわからないが、短い金属の棒が少年の手には握られていた。

 それを、少年は『ゴブリン』へと投げる。空気を切る音を鳴らし、その棒はゴブリンの頭めがけて飛来する。

 『ゴブリン』はそれに当たることを覚悟で腕を顔面に交差する。

 次の瞬間、勢いのある金属の棒が『ゴブリン』の腕に当たる。

 痛みはしたが、立ち止まる程ではない。『ゴブリン』は腕を戻し、緩まった速度を再度上げる。

 これで逃げられる、と『ゴブリン』が思った瞬間、『ゴブリン』の視界は反転した。


 

 椛は冷静であった。

 初めて魔物を目にした人間とは思えないほどに落ち着き、物事には冷静に対処し、頭の中は普段以上に冴えわたっている。

 どうしてなのかは彼女自身わからない。ただ、自分のするべきことを想像以上には出来ているという達成感に近いものはあった。

 そして今、椛の眼前には一体の生き残った『ゴブリン』が右腕を上げ、椛へと殴りかかろうと走ってくる。

 だが、別段彼女は力むことなく相手を見据え、その一挙手一投足を見逃さずに視界へ入れる。

 数秒もしないうちに『ゴブリン』は椛の目の前まで迫り、今、椛の体へとその大きな拳を振り下ろす。


 「ふっ!」


 向かってくる拳に対して、椛は前に進むことで回避する。『ゴブリン』の拳は、椛の髪を舞い上げるだけだった。

 さらに椛はその勢いを利用して右肘を『ゴブリン』の鳩尾に当てる。


 「ぐぼぉ!」


 苦悶の体を『ゴブリン』が表すと、体が前のめりになりたたらを踏む。

 下がってきた頭を椛は両手で掴むと、それを自分の方へと引き寄せると同時に『ゴブリン』の鼻に右とび膝蹴りをかます。

 ゴキッ、という嫌な音を立てると、今度は弾かれるように背中を反らせる。

 鼻をやられたことで行動不能に『ゴブリン』は陥る。

 追撃の手を休めることはなく、椛はちょうどいい位置にある『ゴブリン』のこめかみを右のつま先が軽く埋まりそうなほどの勢いで蹴り飛ばす。それで終わりだった。

 鼻から血を垂れ流し、気絶している『ゴブリン』は口からも泡を吹き出し白目も剥いてる。当分起きることはないだろう。


 「あっちも終わったみたいね」


 椛が『ゴブリン』を倒すと同時に、悼也の方へと向かっていった『ゴブリン』は首を百八十度逆にした状態で前のめりに倒れ込む。

 考えるまでもなく、絶命している。

 『ゴブリン』を殺した悼也といえば、平然とした表情でこちらへと歩いてきていた。


 「悼也ー、怪我は……まぁあるはずもないか」


 椛の言った通り、悼也の体には傷どころか目立つような汚れも見当たらない。


 「それで、リーダーと他のヤツらの状態は?」

 「最後の一体以外は気絶させてある」

 「なんていうか、心配損ね……。とりあえず、リーダー以外の右耳は剥いでこの袋に入れるから、悼也はリーダーの捕縛をお願いできる?」

 「わかった」


 椛は悼也にロープを渡すと、反転し剥ぐためのナイフを取り出す。

 未だに生きている『ゴブリン』が襲ってくるかもしれないことを考慮して、まずは全ての『ゴブリン』の首にナイフを突き立て、息の根を止めていく。

 その後、順番に右耳を剥いでいくと、袋の中へと次々に入れる。全部で七つの右耳だ。

 椛が気絶した『ゴブリン』たちを運ばないのは、大の大人と同じぐらいの重さである『ゴブリン』をすべて運ぶのは手間と時間が掛かるためである。だが、リーダーだけは殺さずに捕縛し、連れ帰る。


 「終わったー?」

 「ああ」


 悼也によってがんじがらめに縛られた『ハイゴブリン』はまだ気絶しているようだ。


 「それじゃ、さっさと帰って報告しましょうか」


 椛の言葉に頷き返す悼也。

 悼也は『ハイゴブリン』を担ぎ、椛はそれ以外の荷物などを持つ。

 ここから町までの間には日も暮れ始める頃だろう。



 これにて、二人の初依頼であり、初の魔物退治、そして入団試験は無事、終わりを迎えることとなった。



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