北の国より
その後、リムカヒル主催とする悼也が家族になった祝いと椛、椋を歓迎する意を込めた宴が行われた。
様々な肉に野菜、他にも果実酒や麦酒、様々な食べ物に飲み物が用意され、全ての獣人と人間が騒ぎ楽しんだ。
楽しいながらに一悶着あったりで椛としてはやはり酒の摂取し過ぎは危ないということを再度実感させられたわけだが、それでも宴は興奮冷めやらぬ中で幕を閉じた。
そして翌朝に椛、椋、悼也はフェルラに戻ることをリムカヒルに告げ、その際に代表者を連れてきてほしいというと、二人が選ばれた。
一人は、椛との椋を案内したあの狼――カラだ。そしてもう一人、というよりはこちらが厄介な話なのだが、獣人王――リムカヒル本人であった。
さすがに王を連れていくのはどうかと思いもしたが、そこはリムカヒルに押し切られてしまい、渋々椛は了承した形となって、計五人は獣人の国を出た。
道中、来た道をそのまま逆走する形でまたあの経路を移動していたわけだったのだが、危険を感じるよりも先に、呆気にとられる出来事ばかりだったというのが椛としての感想だった。
茨はなんと悼也が影の刃で切り刻むは、行く手を阻んでいた巨木はリムカヒルの拳によって粉砕されて道を造り上げるという力押しをするわと、あれだけ苦労したのは何だったのかと、落ち込みを隠せないのは確かであった。
といったわけで、予定よりも早くフェルラへと辿り着いた五人である。
「とりあえず、ギルドへと連れていく必要があるんだけど……」
「問題は、私たちが如何にして人間たちに恐怖を与えないか、か」
「そうですね……」
ただ、そこで問題は発生していた。
そもそも普通に暮らしている人間たちにとって、獣人を目にしたらパニックになるのは目に見えている。最悪なのは何もしていないのに魔物と断じられて殺しに来るという状況だ。
そうなると、あまり人目に触れないようにしないとならない。かといって今五人のいる場所からギルドまではそれなりの距離があり、誰の目にも留まらないなどということがあるわけないのだ。
「ねぇね~椛ちゃん」
そうして椛とカラが悩んでいると、椋が後ろから声を掛けてきた。
「どうしたの、椋?」
「うん、だったらリムカヒルさんとカラさんを悼也君の影の中に入れればいいんだよ~」
「あ、そっか! その手があったわね!」
「ああ、少年の使っていた影を操る力か」
「そうです、そうすれば穏便に二人を安心して連れていけます。悼也、出来る!?」
「ああ」
椋の意見は的確なものだった。
基本的に荷物を影に入れていたため人を入れるという発想に行きつかなかったが、実際悼也自身が影の中に潜り込めるのだから理論上は出来るはずなのだ。
そして、悼也も出来ることを肯定した。
「それじゃ――」
「――待て」
行動に移そうとした椛の言葉を、リムカヒルが遮った。
「え?」
「王?」
突然の静止の言葉に、椛とカラは疑問符を込めながら振り向く。
リムカヒルは、前を見据えていた。
「……モミジ、オレたちはなんのためにここへと来た?」
「それは……」
「カラ、オマエはどの意志を持ってここまで来た?」
「………………」
「隠れてコソコソと、王たるものがそのような態度でどうなる? これからオレたちは人間と相対するのだぞ? それが、此処に住む者たちを怖がらせないように入っていては、この次からも人間から姿を隠していくことになる。それが、真に対等の立場と言えるか?」
リムカヒルの言葉は真実であった。
確かに、獣人である二人を見たものはおびえることだろう。かといって、人間に遠慮して自分たちが人間を避けては、結局のところ何も変わっていない。だからこそ、リムカヒルは自信を誇れるからこそ、堂々とギルドまで自分の足で進みたかったのだ。
リムカヒルの意志に、反論する者は誰一人としていなかった。
「行こう。オレたちは、存在ていい種族なのだから」
そういって、リムカヒルは歩き出すのだった。
「いやまぁなんというか、堂々としてるわねー」
「それほどでもない」
「てっきり、お初になるトウヤくんの力で来るもんだと思ってたからね」
「ああ。最初はそうだったが、オレが止めた」
「どうして?」
「愚問だな。オレに隠れる理由がないからだ」
「あっはっはっ!! 確かに! そのとおりだ。生きている者がいるんだから、ソイツは世界に認められてるんだ。誰かが誰かを否定するなんて烏滸がましいわね」
「はっはっはっ!! そうだ! オマエ中々話が分かるではないか。
おっと失礼、名乗るのが遅れた。オレは獣人たちの王――獣人王などと呼ばれている。リムカヒルだ」
「あたしはここフェルラの仕切り役――ギルドマスターともいうわ。リーデロッズよ。リズと呼んで、リムカヒル」
「承知した、リズ」
目の前で固い握手を交わしている二人。
その光景について来ていた四人と、そしてギルドにいた者たちのほとんどが呆気にとられていた。
街中で二本足で立つ獅子と大きな狼をつい最近訪れたギルドの――それも子供が連れてきたのだから、一般人はもちろん、ギルドの者たちでさえ戸惑ったのだ。
それがギルドの中へと入っていき、フェルラのギルドマスターであるリズを呼んだかと思うと、今の光景である。一緒に来ていた四人はまだしも、リズを除いたギルドメンバーたちはどうしていいかわからなかった。
「あそうだ、モミジ」
「はいっ!?」
「案内ありがとね、あたしはこれからリムカヒルと話し合うことがるから、あとは任せていいよ」
「え、でも……」
「安心しろモミジ。リズは信じても良い。それにオマエはオレをここまで連れてくるのが役目であり、オマエにはまだするべきことがあるのだろう? なら、安心しろ。ここからは、オレたちがするべきことだ。これ以上、オマエたちに寄り掛かるわけにはいかないさ」
「……わかり、ました」
「うむ。
カラ、オマエもこい。オレは家族の為なら命を惜しまないが、オマエは家族だけでなく家族の住処のために行動することがが出来る。ここからはオマエも必要だ」
「了解しました」
「ではな、モミジ、リョウ、そして我が家族トウヤよ。いずれ再会しよう」
「世話になった、御三方。再び逢見える日を」
「はい」
「またね~」
「………………」
背を向けてリムカヒルとカラは、ギルドの奥へと行く。
ここからは既に椛たちの領分ではない。これからを決めるのはリムカヒルとカラであり、獣人たちなのだ。だからこそ椛も一歩踏み込むことはせず、立ち止まった。
奥の部屋へと消えたリズ、リムカヒル、カラを見届けて、三人の北の国での冒険は、幕を閉じるのだった。
これにてこの章、『獣人の国』は終わりとなります。
次章より、新章が始まりますよ。お楽しみに!
それでは~




