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Drifter  作者: へるぷみ~
獣人の密林
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獣人王リムカヒル


 「ほう、お前が侵入者か……」


 獣人たちに捕まった悼也は今、一人の男の前にいた。

 鬣を生やし、鍛えあげられたその体躯は並の者ではないというのがわかる。また、全身からあふれ出す覇気というものが、男からは感じられた。

 捕まった直後、悼也は自分を捕まえた者たちに監視された状態で一夜を過ごし、翌日の夜明けになると、起こされてこの場所まで連れて来られたのだ。

 ちなみに、一緒に連れて来られていた風精霊の風莉はいてもどうしようもないという形で姿を消しており、残されたのは通信用とされていた緑玉なのだが、風莉がいなければ使いようがないので風莉が消えると返された。どうやら彼らは気配のようなもので精霊を感じ取れるらしい。

 と、そんなことを知ったところで、今悼也はどうしようもなく、なめられているのか何なのか、手足には特に制限もなく、目の前にいる男と相対させられてただ見られている。


 「………………」

 「ふっ、なかなか隙のない……加えて衣服の上からでは確認できなくとも、呼吸、姿勢、目線から見られるに相当の鍛練を積んでいるようだな。見事なものだ。

  おっと、いきなり現れてなにを言っているのかわかぬよな。オレはリムカヒル。一応は、ここにいる同胞たちのまとめ役だ。まぁ、お前たちの言葉で言うならば、王だ。オマエの名は?」

 「悼也……柏木悼也だ」

 「トウヤか……。そのカシワギというのは?」

 「家名……一族を表す」

 「ほう、一族か。では、オマエを呼ぶときはトウヤでよいな?」

 「ああ」

 「よしトウヤ、オレはオマエを歓迎しよう。そのために、一度オレと手合せをしろ。これは条件だ」

 「……わかった」

 「よし。ついてこい」


 そういうや否や、リムカヒルは踵を返し、ついて来るように言った。

 悼也も拒否する意味もないので、もちろんついていった。

 悼也は手合せと聞いて、リムカヒルという男が強いというのを確信する。悼也が手合せを許諾した時の瞳、そして今ついていく際に見せた挙動が、リムカヒルがこの獣人たちの中で王と名乗れる力量があるのだと。

 そういった意味では、出会ってすぐで力量をある程度把握したリムカヒル同様に、悼也もまた出会ってすぐのリムカヒルの実力を測れるというのは、お互いが只者ではないということを示していた。





 「ここだ。ここが、オレたちの鍛練場だ」


 リムカヒルが連れてきたのは、草原。

 周囲数百メートル間に木々は無く、その先に森があるというのが目に視えていても、よく手入れされたこの空間は確かに、心置きなく戦うというのにはうってつけだった。

 悼也としては重傷を負ったのが似たような環境であるために、二度同じ醜態をさらすわけにはいかないと、無意識ながらも体に力が入る。


 「おうおう、頑張れよぉニイチャン!」

 「簡単にやられんなよぉ!」

 「はっはっはっ! オマエらァ、少しはオレの応援しねぇのか!?」

 「んなこたぁ言ったって、リーダー応援しても勝つんだからいいんでしょう?」

 「わかんねぇぞ、もしかしたら負けっかもしんねぇぞ?」

 「だったら、腰やらないように頑張ってくだせぇ」

 「うっせぇ!」


 そしてそこには多くの獣人たちがいた。

 また、同じ人間もいた。かといって彼らに負い目のようなものはなく、笑顔で隣の獣人たちと話している者もいる。

 半人半獣。頭人身獣。逆また然り、全身が獣である者もおり、言葉を話している者もいる。皆仲良く、どちらかといえば暑苦しい雰囲気だ。


 「悪くはないだろう?」

 「ああ」


 リムカヒルの言葉に頷く悼也。

 確かにこの場所は悪くない。人間と獣たち、そしてその間に生まれた獣人たち。彼らは仲良く生きており、共存という形が出来上がっている。今まで人間たちの目に捉えられていないことが不思議なぐらい、にぎやかだ。


 「さて、し合うにあたっての取り決めだが、殺生は無し、場外なし、相手方の降参または気絶で勝敗を決める。武器の使用は可能だ。どうする、トウヤ。オマエの武器はあるが、使うか?」

 「アンタは使うのか?」

 「愚問だな。オレの武器はこの肉体だ」

 「なら……」


 リムカヒルの突き出した拳。それに合わせて、彼もまた己の拳を突き出してリムカヒルの拳に当てた。


 「ふっ……はっはっはっ! いいぞいいぞっ。そうだ男はそうでなくてはなぁ! さぁ、存分に楽しもうじゃないか!」

 「ふ……」


 突き出したお互いの拳。

 意図を察したリムカヒルは大声で笑い。また、その声と共に彼の闘気は一段とに膨れ上がる。

 その闘気に打ち当てられたのか、周りの獣人たちのヤジは自然と消え、今では、少しの音を発することも許されないかのように、無数の視線は二人へと向けられる。片時も見逃さないように。

 静寂の中、一陣の風が吹き荒れ、観客たちの視界を一瞬奪った瞬間、二人の男の戦いは始まった。



この作品、一話投稿から一年が経ちました。

なのに、全然話が進んでいないような……

完結できるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

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