ホイホイお金が貯まれば苦労しない
「全治……何日だっけ?」
「確か二週間だったよ~」
「そう、よね……そうだったわよね?」
「既に治った」
「どおっして、寝て起きたら完治してんのよぉおおお!」
「落ち着いた~?」
「ええ……」
ピメンタにある、三人の家に帰宅しての次の日。
居間には三人が揃っていた。
ただ、椛は突っ伏して信じられないという表情をしており、椋も驚いているからか苦笑いを浮かべている。
その二人の現状を起こした中心は、黙々と我関せずとした体で朝食を食べているのだが。
実質、悼也はピメンタに帰ってくるまで重傷だった。だった、という表現は間違っておらず、今椛たちの前にいる悼也の身体は擦り傷どころか、怪我をしていた跡さえ残っていないほどに完治していた。
そのことに二人は驚いていた。まず悼也自身が重傷を負うという場面すら出くわすのが今回が初めてであり、些細な傷なども重要視したことがないというのもある。
空想や物語であるまいし、普通の人間がたった数日であの骨折やら何やらを治せるはずがない。だが現に、悼也は治していた。
元の世界に戻ることを目的としている三人にとって重傷だった身がすぐに治ったというのは喜ばしいことだが、椛としては何故かそのことが不本意であったらしい。目の前で起きることは信じる現実主義ではあるが、今回は予想を上回って驚きが勝ったということからだった。
「とりあえず、ご飯食べようよ~」
「……そうね」
あれこれ言ったところで仕方がない。
完治していることに嘘は無いのだ。椋も悼也が完治していると認めているし、彼女がその部分に関して嘘を吐くことは無いので椛も信じている。
では、そうなったところで三人はすぐに行動を起こす必要があるのだ。
しかし、準備が足りていない。
ここ最近は日銭を稼ぐ程度でのみ依頼を請けており、三人の貯金はほとんど貯まっていなかった。これでは、未開拓領域に踏み込む前段階すら突破できるかが怪しいぐらいだ。
よってまずは、資金集め、ということになったのだった。
「簡単にお金が集まる方法って、ないかしら?」
「あればみんなやってるよ~」
「そうよねー」
その気になれば、ギルドになる高ランクの依頼を請けることで資金を集めることもできるのだが、その依頼をこなすのにも資金は必要なので、消費対収入を考えるともう少し資金に余裕が出来てから、ということになった。もう一つに、あまり危険なのを請けて悼也の様に重傷を負ってしまえば元も子もない、というのもあるので無理はしないという約束もある。
よって採取などの、ギルドから支給品が出て、それなりの資金が稼げる依頼をこなして地道に資金繰りをして、装備や日持ちする食糧を整えるという予定となった。
「ま、地道にやりましょう」
「お~!」
「ああそれと、今日からは節約してもらいます」
「は、は~い」
「わかった」
「基本的に食事は家で摂ること。
依頼の報酬は明細書を持ってきて。
しばらくは自由に使えるお金は制限して、それぞれに渡すことになるわ。
いい?」
「は~い……」
「………………」
少々、というより結構外食なんかによって金を使いすぎているのもあったので、それらはほとんど椛によって制限が掛けられた。まぁ、椛がこの中で最も家事や資金などのまとめを行っているので、椋も悼也も反対しない。実際に椛がいなければ一般水準を満たすレベルに生活できないからこそ、家計を握る椛には逆らうことなどできないのだから。
なんだかんだで、三人はまだ若いです。子供です。
ただちょっと、環境が一般よりもズレているだけです。
でも、お金が簡単に貯まるならそれに越したことは無いですよねー。そういうものは上手くやらないと後々しっぺ返しを喰らってしまうものですが。
地道が一番だということですね。




