密林に住まう獣と人
新章スタートです。
深緑に染まる森の中。
そこには、多数の獣がいた。
しかし、その獣たちは皆、獣としては異質な姿をしていた。
狼の顔を持ち、二本の足で歩く。
四足で歩いてはいるが、首から上が人間の上半身と腕を持ちながら、頭は馬。
四肢は毛むくじゃらであり、猫かとしの立派な爪を携えているが、顔は少女であり、しかし耳は猫のもの。
それは、獣であって、獣ではなく。
それは、人であって、人でない。
しかし、彼ら、彼女らは、人であり、獣である。
そんな者たちが、一つの文明を作り上げ、自然と共に暮らしている場所。
その中に、一際周りの者たちとは違う風格を纏った者がいた。
顔は獅子。四肢は人。
首周りを凪ぐ立派な鬣は、彼が王であることを示している。
その者に、周りの者たちはひれ伏す。
頂点であり、実力として、最強であるその者に。
まだ体の幼い子たちは王に憧れの双眸で彼を記憶し。
歳を経て、成熟した若者たちは、王になるためにその身を磨く。
実力を持った者がこの国の王となり、王は常に弱き者たちを導く存在であり。
しかしそれだけでなく、常に強者を求め、絶えることは無い争い。
その争いの中に策略は無く、謀略は無く、計略は無い。
あるのは、己が肉体。そして、プライド。
ここは、人間と獣が共存する国。
人間と獣が愛した故に、生まれた国。
追放され、忘れられた人間たちが、知恵を得た獣と恋におち、双方の間から産まれた子たちが住まう国。
嶮しい自然を生き延びてきた者だけが、辿り着く国。
「おっしゃお前らぁ! 今日も張り切って行くぞごらぁー!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「まず最初にかかってくんの誰だぁー!」
「一番手! いきます!」
「かかってこいやぁあぁぁぁああ!」
「うぉぉぉおおおおおおおおお!」
「ぬるい、甘い、かゆすぎる! 出直しこいやぁぁぁ!」
「ぐはぁぁ! すんませんでしたぁぁ!」
「おら、次こいやぁ!」
「「「はい!!!」」」
鬣を生やした壮年期真っ只中である獅子の男が叫び、それに呼応するように咆哮を上げる者たち。
一人のまだ若い青年が男へと突貫する。
しかし、獅子の男はそのような者など通用せず、拳ひとつで青年を殴り飛ばした。
だが、その程度で周りの男たちはたじろぐことなどない。
次から次へと王である男に挑み、飛ばされる。それが、この国での日常風景であった。
一対一でのみ戦い、群れを成しても戦うときはその身一つで戦う者たち。
多対一を好まず、一対多であればそれこそ強者の試練だと己を奮わせ、勇猛果敢に立ち向かう。
倒れるときは常に前のめりであり、卑怯一切の手を用いようものならば王自らの手で処罰を下す。
それがこの国の姿であった。
「まだまだ行くぞぉぉ!」
「「「おおおおおおおおお!!!」」」
そして今日も、この国は元気であった。
その数か月後、三人の人間が訪ねてくることにより、この国は大きな転機を迎える。




