スタートライン
「行きましょうか」
「は~い!」
「………………」
朝。
少女二人と少年一人が、一つの宿の前にいた。
彼女たちはこれからこの宿に入るのではない。これから、自分たちの今の住処へと帰る途中なのだ。
この中での仕切り役は椛。当初孤立無援から始まったこの世界での生活は、この少女がまとめることから始まった。
そしてもう一人の少女は椋。椛の親友であり、実力を伴う場面ではこの少女が表立っても影ながらも行動している。
最後にこの女子二人という仲に唯一いる男子、悼也。基本は無口であり、日頃彼が何を考え何をしているのかはわかり切っていないが、この二人の少女たちからは信頼されている少年である。
この三人がこの場所に……この国、ドラクンクルトに来たのは、無論目的があったからである。
――Drifter
ギルドと呼ばれる団体において、ある一定の実力を持ち、この国で行われる試験を合格することで得られる資格。
それは並大抵の者では受ける資格すら与えられず、熟練者であっても、試験の際に命を落とす者もいる。その試験に、齢十余の少年少女は受けに訪れ、合格したのである。
「そういえば椛ちゃん、昨日の式が終わった後に何処か行ってたみたいだけど、どうかしたの?」
「ん? ああ、ちょっとね。知った顔を見つけたから、この国ももう出ちゃうし、話しておこうと思ったの」
椛はある少女と話に行っていた。
昨日、資格を受け取る際の合格者の一人である、クゥという椛よりも小さな少女に。
その少女と最初に出会ったのは式ではない。その前の日、椛の案によって各々が行動するということになってから出会った。
少女曰く、少女は見た目通りの少女ではない。むしろ、椛よりも幾分か以上に年上である。
それでも、初対面が初対面であったものであるから、椛としてはやっぱり態度を改めることは出来ず、椋や悼也と変わらぬ態度で接している。クゥ本人は気にしていないようだが。
椛はクゥうと話していると、少女もまた、椛と同様にこの国とは違う場所に行くと言った。目的は話してくれなかったが、ひたすらに、目的のために歩くそうだ。
だから椛も、引き留めるようなことはせず、クゥを見送ったのだった。
「それより悼也、傷は平気?」
「問題ない」
「良かった。それにしても、相変わらず傷の治りは速いわよねぇ」
一昨日の夜から重傷を負っていたはずなのに、今目の前にいる少年は当初巻かれていた包帯などどこにも巻いておらず、何事もなかったかのように振る舞っている。いや、振る舞っているわけではない。これが普通なのだ。
彼をここまで痛めつけた人間に少し興味も湧いたものだが、悼也からは何も語られることは無かった。結局、その人物?は正体不明のままである。
「それじゃ~しゅっぱ~つ!」
椋の声が響き渡る。
通りは人が少ないため、それなりにうるさくても特に咎められることは無い。
彼女たちは歩き出す。自分達の世界へと戻るために。
今この場において、少女少年が考えているのはただ一つ。
ようやく、自分たちはスタートラインに立ったということだけ。
これから家へと帰り、用意を整えたら、それこそが、本当にこの世界での冒険の幕開けだ。
だけど、急ぐ必要は無い。
いずれ去るこの世界。ならばこそ、周りの世界を記憶に収めながら、悠々と進んで行こう。
だからまずは、第一歩。
こうして、真の意味での物語が、始まった。
その数十年後、彼らはこう伝えられる。
|三人の開拓者(Drifter)。
それは、人間だけではない。獣が、亜人が、竜が。決して交わることなかった種族たちが共存する世界。
その、きっかけとなった者たちに与えられた、名であった。
これにて、この章は終了です。
ようやく、ようやくある意味で本編に入れる……。
次章からは、この話の最後でも書かれている人間とは違う方々との邂逅がメインとなってきます。
読んでくださっている方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、よろしくお願いします!




