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Drifter  作者: へるぷみ~
Drifter
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異質な少女と変質な紳士 前編

新キャラが登場します



 「はぁ、まったくもってヤな話を聞かされたわ……」


 逃げ出すようにして――実際に逃げ出したのだが――街へと繰り出した三人。

 時刻は丁度、陽が真上にあり加えて腹を先ほどから刺激する空腹感は、お昼を告げている。


 「お腹空いたね~」

 「……そうね。とりあえず、お昼にしましょうか」


 椛の提案には二人とも拒否する理由は存在しないので、どこかで昼食を摂ることに決めるのだった。





 「ん? あれ……」

 「どうしたの~?」


 肉の匂いの迸る店を通り、そこで完全に打倒された椋の言葉もあり、一軒の食事処でお昼を済ませた三人。

 それなりに安い値段ながらも、念入りに施された下ごしらえと香草のみの味付けながらも、分厚い肉にはしっかりとした味付けがなされており、それ単体でも十分に美味であったが、さらに付け加えられた数種のソースを用いて食べることで飽きることなく、最初は食い切れるのかと疑問に思っていた肉全て胃の中に収められていた。無論、肉を食うからには三人の暮らしていた場所では『米』が必須だ。しかしこの世界に米は無い。だが、米に酷似したものは存在しており、それは黒い粒状のもの。どうやらこれがこの世界での米の役割の様だ。味も特に変わりなく、おかわりも三皿までなら無料とされていたので遠慮なく平らげたのだった。

 ――ちょっと話がずれてしまった。



 「ちょっとね……ここからは自由行動にしましょう。日暮れまでには宿に戻ること」

 「は~い。それじゃ椛ちゃん……って、もういない~!?」


 椋と悼也に言い渡すと同時に椛は行動していた。

 彼女の視線は、街の中央にある噴水広場の前。

 そこは多くの人々が行き交っており、中には大道芸の者たちが芸を披露したりしている。

 だが、椛の目的はそれではなかった。


 「迷子……?」


 椛の視線の先には、小さな少女がいた。椛も大して変わらない年齢ではあったが、そのようなことは気にしない。

 ただ、椛が疑問に思ったのは少女の異質さだった。

 噴水の目の前で、なにをすることもなくただ一人何を見るわけでもなく少女は佇んでいる。

 迷子ならば泣きわめいて親を呼ぶなりするものだが、少女はいたって無表情。それもまた、異質さを見せていた。


 「ねぇ」

 「?」


 本来ならば気にしたところで近づくこともないだろう。しかし、椛の足は自然と少女の下まで来てしまっていた。特に、意識することもなく。

 自分が呼ばれたことにあまり意識がいってなかったのか、少女は顔を少し上げて首を傾げながら椛を見上げる。色白の肌と、透き通った瞳は全てを見透かすかのように椛を映している。


 「迷子?」


 問われた少女は無表情のまま首を横に振る。まぁもちろん、いきなり迷子かと問われてハイ迷子ですと答えられる人間もそうそういないが……。

 迷子という選択肢が消えた椛。それでも、声を掛けてしまったからにはそこで『さようなら』と言うわけもいかなかった。

 どうしようかと一瞬の逡巡をしようとしたした瞬間、椛の身体に違和感が走る。


 「え?」


 なぜだか、服の端を摘まれていた。

 強すぎることも弱すぎることもなく、自然と摘んでおり、少し拒めばあっさりと外れそうな白魚の指が椛の服を離さない。


 「ええと……」


 さすがに、声を掛けた手前拒むのもおかしな話であるし、目の前の少女は何かを訴えようとしているのは確かだ。しかし、表情も読み取れず、一言として喋らないのではどう対応すればよいのかわからない。


 ――ぐ~


 だがそこで、ある一点から可愛らしい音が聞こえてきた。辺りは人々の喧騒で周りには聞こえていないかったようだが、発信源の目の前にいる椛の耳にははっきりと、その音は入っている。

 そして音の発信源である少女を見てみれば、服を掴んでいない方の手をお腹に置き、また無表情の眼で椛を見上げている。

 厄介なことになったと、頭の中だけで呟き、椛はその責任感から少女のためにお昼を馳走することになったのだった。





 「……けふ」

 「よくまぁ食ったわね……」


 目の前に積まれているのは様々な器。

 大小問わず、深浅問わず、底にはソースやら肉汁やら、食べ物があったであろうことは一目でわかる。

 そしてこれを、椛の目の前にいる少女は一人で食したのだ。

 一応様々な依頼をこなしているのと、滅多にお金を使わないことから余裕はあったが、それでも財布の中身の三分の一は全て少女の腹の中に納められた。


 「……ありがと」


 呟くようで、それでいて鈴のような響きを持った声が、椛の耳へと入り込む。

 そしてそれが、少女の発したものだと気づくのにはそう時間もかからなかった。


 「はい、どういたしまして。それで、迷子じゃないなら、どうしてあそこにいたの?」

 「……」


 椛が先ほどの質問をすると、少女は俯いて、両手を腹に当ててからまた椛の方に顔を向ける。


 「もしかして、お腹が空いて動けなかったとか、そういうこと?」

 「……」


 こくり、と頷く少女に、椛は頭痛が起こった。まさか、空腹で動けなくてボーっとしていたなど、到底考えられるものもないし、ならばあそこで自分が声を掛けなければどうなっていたのか、と椛は頭を抱える。


 「……感謝」

 「お礼はさっきも聞いたから、そう何度も言う必要は無いわ。

  じゃあ、お父さんとか、お母さんは?」

 「……いない」

 「それは、あなたが一人ってこと? それとも、はぐれてるから一人ってこと?」

 「……死んだ」

 「そう……。じゃあ、二人が亡くなったのはいつ? どれくらいから一人なの?」

 「……二十」

 「へ?」


 少女の口から飛び出たのは、予想だにしない言葉だった。

 二十。つまり、少女の親が亡くなったのは二十年前だと言ってるのだ。椛でさえ、未だに生まれていない。


 「ちょっ、ちょっとまって……二十っていうのは、二十日の事なのよね?」


 もはや現実逃避と言っても過言ではないが、さすがに信じられない。

 しかし、それでも現実は無常を告げる。


 「……二十、ねん」

 「マジですか……」


 まさか自分よりも年上とは、椛もこれには驚嘆する。

 今日だけでどれだけ驚けば済むのか、と。


 「あー、うー」

 「……だいじょぶ」

 「ヘ?」

 「……ことば」


 どうやら、椛が言葉遣いをどうしようか悩んでいたのを察してくれたようで、その二つの言葉から推測するに目上の言葉遣いはしなくてもいいということらしかった。

 なので椛も、その言葉に甘えて口調は変えないことにした。

 ただそうすると、この少女?は迷子でも親からはぐれたわけでもない。一気に、話すことがなくなってしまった。


 『おいしそうな匂いがするわ~』

 『おー? めしかー?』

 『い、いきなり出てすいません、すいません……』


 するとそこで、三つの声が椛の脳裏に響き、同時に少女の被っている猫耳型の帽子からもぞもぞと橙、薄緑、黒の色を纏った小さな人が現れた。

 そして、小人たちは全身を帽子から這い出すと、少女の膝に着地する。


 「人間……ではないけど、人間の形をしてる。でも、まず身体の色が違うし、これはどちらかというと……」

 「……精霊」

 「そう、精霊。……って、精霊!?」

 『あら~、どなたかしら~』

 『それより飯はー?』

 『え、ええと、多分、そこにある、器じゃ、ないでしょうか……』


 そう、それは確かに精霊といえば精霊であった。

 だが、それにしては小さすぎるし、あの時出会った風の精霊よりも何かが足りない、と椛は直感的に感じていた。

 だが、それが何かはわからなかった。


 「うーん、確かに見た目とかこの感じだと精霊ね。でも、私が出会った精霊とは何かが違う」

 「……喚んだの」

 「喚んだ?」


 『喚んだ』とは、どういうことか。椛には皆目見当もつかない。


 『マスタ~、こちらの女性はどなたですか~?』


 そこで、ふんわりとした声と目尻の下がった目をした橙色の精霊が問う。


 「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私はモミジ。あなたは?」

 「……クゥ」

 『わたくしは~、炎精霊のコロナ、っていうんです~。マスタ~が名付けてくださったんですよ~』

 『わ、わたしは、その、死精霊のスェデ、って、い、いいます……。ま、マスターにお名前をいただいたんです。あ、でも聞いてないのにいきなり名乗ったりこんなこと言うなんて、し、失礼ですよね、ご、ごめんなさい……!』

 『そうそう~、あっちは風精霊のウィナちゃんっていうんですよ~』

 「よろしくね、クゥ、コロナ、スェデ、ウィナ」

 『はい~』

 『よ、よろしくお願いしますっ』

 『あー! ご飯全部ないー!』


 椛の言葉にクゥは頷いて返し、三柱|(一柱は除く)は各々返答し、ここでお互いの自己紹介を完了させる。


 『ごはんー!』


 そして終始自分の世界に入り込んでいたウィナの叫びが、椛、クゥ、コロナ、スェデの間だけに響き渡るのだった。



実はまったく考えてもいなかった場面なだけにどうしようか悩みに悩みました。

一応、今話(後編も合わせて)で出てくるキャラはある意味今後も出てくる予定のキャラ達です。そのために、いろいろと重要と言えば重要なのかもしれませんね。

というわけで、今回は一人と三柱の紹介でした。次は、カオスになりそ……。

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