試験開始と合格条件
「いまおっしゃってもらった通り、私たちはピメンタのギルドからやってきました。黒椿椛です。モミジと呼んでください」
「わかった」
「あ、ボクは八薙椋。リョウでいいよ~」
「トウヤ」
「ああ。モミジ、リョウ、トウヤ、短い間になるかもしれんが、よろしく頼む」
最初に反応したのはやはり椛。
グラディンがそこに返事をしたところで椋と悼也が続いた。
「それで、グラディンさん。どのようなご用件が?」
椛は話を進めるためにグラディンへ言葉を促す。
グラディンも、椛の言葉に一つ頷く。
「うむ。明日は試験の当日だ。しかし、三人は今回が初めてだろう?
そこで、ビスタートから頼まれてな。明日の試験会場への引率をする。なので、明日は昼前にこのギルドに来てくれないか?」
「わかりました」
「では、よろしく頼む」
「はい」
「ああそれと。ようこそドラクンクルトへ。中央国家と呼ばれるにふさわしいだけの、賑やかさがここにはある。ぜひ、楽しんでいってほしい」
「はい。それでは、また明日」
「うむ。明日」
そして次の日、値段もそれなりはするんじゃないかという宿屋で一夜を過ごした三人は、お昼にはグラディンと逢う約束をしていたので、その前に見て回りたいという椋の意見を尊重して朝早くから繰り出していた。
「わ~! 朝早くなのに人がたくさんいるね~」
「本当にそうね。それに、次々とお店も開いてるのは珍しいわね」
実際、三人が宿から出たのは日も昇って間もない。それなのに、街路には露店が開かれ、店を持っている人たちの何人かは既に売り始めている。
そして客もそれなりにおり、活気に満ち溢れているのがわかる。
「椛ちゃん、何か食べよ~」
お腹に手を添えた椋が、提案する。
一応、三人の泊まった宿屋では食事も出るのだが、三人は部屋だけを使用させてもらい、食事に関しては朝の露店で食べるという話にしていた。
だから、椛も椋の言葉には同感し、さっそくおいしそうなものはないか歩き出すのだった。
「よく来てくれた」
それから街で買い物をしたりと好きに時間を費やした三人は、日が頂点に差し掛かろうかといった辺りでギルドへと向かい、入口を抜けたところでグラディンが出迎えた。どうやら、待っていてくれたらしい。
「時間よりも早く来るという心がけは大切なことだ」
「ありがとうございます」
「それでは、これから試験会場へと案内する。ついて来てくれ」
グラディンは三人に背を向け歩き出し、それを三人は追う。
「試験会場にて試験官の方が試験の内容の説明を行ってくださる」
歩き出してしばらく、人が多く行き交う中でグラディンが話し出した。
「基本的には試験さえ期日内に通過さえできれば人数は問わず資格を与えられるが、その分だけ難易度は高い。
さらにこの試験を行う者たちは皆、自分というものに自信を持っているために、協力というものが無い。悪いときは、相手の妨害をするような者もいる」
表情の視えない彼の言葉は、彼から発せられる低い音だけでない、何か重いものが感じられ、椛は口内の唾を嚥下し、椋は笑顔の表情で、悼也は相変わらずの仏頂面でグラディンの言葉を聞く。
「だからこそ、そういったことにも躓かないように、頑張ってくれ」
「力ある者たちよ、よく来てくれた。
私はこの試験の試験官を務めるロウアトンだ。
既に現役を引退した身ではあるが、まだまだ若いものには負けるつもりはないがな」
豪快な笑い声をあげて、ロウアトンと名乗った灰髪の男が挨拶をした。しかし、その瞳は笑っておらず、肉食獣のように獰猛な、輝きを失っていない黄土の色がある。
この場にいるのは十二人。
一人はロウアトンなため受験者は十一人であり、そしてそのうちの八人が、椛、椋、悼也とは無関係の者である。
この者たち全員が三人と同じクラスに居り、なおかつそれ相応の実力を持ち合わせているのだ。傍目からでも、その雰囲気は感じ取れるわけであり、なおさら実力のあるもの同士はそれが感じられる。
だが、そのことを表には誰も出さない。それは今なお、話し続けているロウアトンもそうだ。
「――さて、これよりは皆も気になっている、この試験の合格条件だ」
ロウアトンの一言に、場の空気は一気に張りつめた。
誰一人として、これからロウアトンの語る言葉を逃さぬように。
そして、ロウアトンは一拍おいて告げた。
「今回の試験合格の条件は、『クリムゾンドラゴンの討伐』だ」




