語るは異世界、入るはギルド
会話の主体が椛なのは、彼女が一番交渉などに長けているからです。一応。
会話の仕方が上手くいかなくて悩んでます。
あと、話がくどいのかループしてるのか、同じこと言ってるかもしれません。
"ギルドとは、国によって認められた組織であり、どの国にも必ず一つ存在する。
その仕事の内容は、要人警護から落し物探しまで、身分は問わず報酬さえ払えるのであれば誰が依頼しようと構わない、いわゆる『何でも屋』である。
依頼にはギルド内で決めたランクが存在しており、F~A・Sの種類分けがなされている。これは、ランクが高いほどにリスクが増していくが、その分得られる報酬も十二分に大きい。その為、ギルドメンバーにも同様のランク付けがなされており、Bランクの者がAランクの依頼は受けることが出来ないように、自らのランク以下のものしか依頼を受けることは出来ない。
これらの依頼の中には、時に国家的に重要性の高いものや、貴族などがお忍びで、依頼遂行者を指名してくることもある。これをRランクと名づけられているが、ほとんどはSランクの者しか受けられないものであり、またその依頼の内容は決して口外しないように誓約がなされている。ただし、そのような依頼なだけあって、報酬は高く、やはりリスクも大きい。といっても、このRランク自体本当に存在するのか窺わしいものなので、下位ランクの者たちにはただの眉唾、架空のお話しだとされている。"
「ほぉ……」
「なんでしょうか?」
「いや、じろじろ視てすまないな。
えーっと、それで嬢ちゃんたちは自分たちの身分を証明するものを紛失したんだったか?
それじゃ、こっちの部屋についてきてくれ」
無精髭を生やし、ビスタートと名乗った男はそう言い、カウンターの横にある通路を通って奥へと向かう。
三人もその後ろをついていくと、奥にある一室の部屋に辿り着く。
ビスタートが部屋に入っていくと、これもまた椋、椛、悼也の順に部屋に入る。
部屋の中は、膝ほどの高さのテーブルを奥と手前二つずつに木製の椅子が四つ置かれており、ビスタートは奥の方にある椅子に座り、三人には手前の椅子に座るよう促したので、椛だけが椅子に座り、椋は椛の右斜め後ろ、悼也は左斜め後ろで待機する。
「さっきもそうだが嬢ちゃんたち、おもしろいな」
「そうですか?」
ビスタートの言葉に椛は少しだけ眉を顰める。
「ああ、別に馬鹿にしたんじゃない。そこは謝ろう。すまなかった。
俺が面白いと言ったのはな、嬢ちゃんたちが普通の人間に比べて遥かに危機管理能力に優れていることだ。
そもそも、普通扉を開けて部屋の中に入るだけの行動に危機感なんて考えもしないのに、嬢ちゃんたちは未確認の場所へと入るとき、そこの藍髪の嬢ちゃんを先頭に、後ろからの襲撃に備えてそこのボウズを殿に。明らかに嬢ちゃんを守る行動をとっている。
今だってそうだ。嬢ちゃんは座ってそこの二人が立って後ろにいるのは急な襲撃にも備えられるようにだろ。違うかい?」
「………………」
ビスタートの言ったことは三人の行動の的を射ていた。
別段隠しているわけではないのだが、それでも違和感のないように行動しているためそうそう気づかれたことはない。
「で、続けるんだが、それだけの危機管理能力があるにも関わらず突然襲われたって言うのはおかしい。
いや、もう正直に言えばその服装からしておかしいんだがな。俺はそんな素材を見たことがない」
「私たちのいた場所はここから離れた場所でしたから、こことは少し文化が違うのでは?」
「確かにそうかもな。じゃあ、これが読めるか?」
テーブルに置かれたのは一枚の紙。
しかし、椛はそれを見てもそこに何が書かれているのかわからない。自分の知っている世界の文字とは違うものだからだ。
「………………」
「どうやら、読めないみたいだな」
「私たちのところでは文字を使っていませんでしたから」
「確かに、そう言われればこっちとしては確認のしようもないんだが……。
ま、こんな面倒なこと言うよりもはっきり聞いた方が簡単か」
椛は内心で舌を打つ。
はっきり言って、このビスタートという男はこっちを疑い、そしてほとんど確信に近いものを持っている。
「嬢ちゃんたち、この世界の人間じゃないな?」
その言葉は疑問形だったが、口調ははっきりとした、有無を言わせぬもの。
これに椛は、これ以上この男に誤魔化すのは逆に良くないと判断する。
「……そうです。私たちは、この世界ではないところから来ました」
「そうか……。
ああ、そんなに警戒しなくていい。
俺は別にお前らを捕ってなんかするつもりはない」
「それを聞いて安心しました」
「けどな、正直に言って嬢ちゃんたちはこの世界で生きるには実は選択肢がほとんど無い」
「それはわかります」
「ただな、その前にちょっと聞きたいんだが、嬢ちゃんたちの世界について話してくれないか?
この世界との差によっては話すことが結構多そうだしな」
「わかりました。では最初に――」
「ということです」
かれこれ一時間以上椛は話し、それに対してビスタートは所々疑問に思ったところを質問するのでそれに対して答えていき、ようやくひと段落つく。
案外、まったく文化の違う人にこちらの文化を伝えるというのは難しい、と椛はこの時思い知った。
「そうか、こっちの世界とそっちの世界じゃ結構違うところが多いんだな。
だが、何かしらの本や何かにはこっちの世界のようなものが書かれている。不思議なものだ」
ビスタートは椛の話を聞き終え、頷きながら何かを考えている。
「となると、俺が説明するのはそっちの世界とは違う部分を大まかに説明するわけだが、いいか?」
「よろしくお願いします」
ビスタートはよし、と言うと一呼吸おいて話し始める。
「俺たちの確認できている場所はここ、ピメンタと他六つの国からなる連合国しか確認できていない。
大まかにこっちの世界と違うところを挙げるならば、『ウミ』という場所は存在しない。それなりにでかい湖ならあったりするんだが、別に水はしょっぱくないしな。
そんで、ここは獣以外にもいろんな生物が存在する。代表的なのが『魔物』。そして、こいつらはまた少し魔物とは違うんだが、『竜種』がいる。こいつらには間違っても喧嘩を売るなよ。理性的なヤツらならまだ何とかなるかもしれないが、本能的に生きている竜種は厄介極まりない。倒すのにもそれなりに苦労を強いられる。
そして、ここもそうだが『ギルド』っつういわゆる何でも屋。これは七か国に一つずつある。
それと、この連合国内での売買だが、金以外にも本人間での正当な物々交換も認められている。
とまぁ、ざっくりと説明するならこんなところだな。
そして最後に、というよりこちらが俺にとっては本題なんだが、なぁ嬢ちゃんたち、このギルドに入らないか?」
ビスタートの突然の誘いに椛は眉を顰め、
「それは、あなたたちにとってどんなメリットが?」
一番の疑問を投げかける。
椛にとってビスタートの提案はただの慈善活動で無いのはわかっている。
だからこそ、自分たちへのメリットと、ビスタートたちのメリットをはっきりさせておく必要が椛の中にはあった。
「確かに、嬢ちゃんの疑問はもっともだな。うまい話があるからって簡単に飛びつくような奴は信用しきれない」
ビスタートの口振りからするに試されていたようで、そしてそれに椛は一応合格したようである。
「嬢ちゃんたちのメリットだったな。それは多く存在する。
一つは嬢ちゃんたちが元の世界に戻れる手段が見つかるかもしれないこと。
次に、ギルドに入れば最低限の生活が保障される。つまり、この国で生活するための家を提供、他にも最初だけだが基本的な武具、それに道具なんかも用意する。
で、嬢ちゃんの気になっている俺たちへのメリットっていうのが、まぁこれは嬢ちゃんたちを信頼していることだから俺の独断になるが、ギルドは何でも屋としての顔が表では有名なんだが、実際には違う。ギルドが造られた本当の目的は、この七か国連合の外の世界、『未開拓領域』の調査、開拓、そして俺たちとは違う文化を持った国との外交関係を持つこと。
そしてそれらは、いずれ嬢ちゃんたちがギルドに入ってくれたら必ず未開拓領域に踏み込んだことになるからだ。
それに、嬢ちゃんたちが元の世界に戻るには、未開拓領域を調査した方が確率はなんだかんだで高いだろうしな。
一応ギルドにはそれなりに未開拓領域に行けるやつがいるんだが、如何せんまったく乗り気じゃないのが困りもんでな。
だから、嬢ちゃんたちならいずれ必ず未開拓領域に行ってくれることだけでもお釣りとして考えたら俺にとっちゃぁ十分すぎるぐらいに旨みがあるってことだ」
ビスタートの話はあまりにも椛たちに有利なように見えていたが、その未開拓領域の存在がどれほどのなのかが疑問符であった。
それでも、この話を椛たちに断ることは出来ない。なぜなら、――この世界ではどれほど難しいかは知らないが――ギルドに入った時点で最低限の安定した生活ができる。それは現在の三人にとって一番手に入れたいものである。
だからこそ、条件はどうあれ椛はその話にノる。
しかし、タダではノらない。
何はどうあれ、己の身体を……命を張るのだ。
そのためには知らなくてはならない。いざというとき、知りませんでしたごめんなさい、で通用するほど世の中は優しくはないのだから。
決意を改め、椛はビスタートの話に答えを返す。
「わかりました。その話を、私たちは受けます」
「そうか。そう言ってくれてありがたい。これから、よろしく頼む」
「はい」
話はまとまった。
立ち上がったビスタートが右の手を差し出したので、椛も右の手を出し、宙にある手を握る。握手だ。
握り返されたビスタートの手の力は、しっかりとした分厚いマメがはっきりとわかるほどの強さだった。