街への帰還
その後、霊峰から離れることが出来ないと言った精霊と麓で分かれ、椛は来た道をビスタートと共に駆ける。
双方背には登山の時より幾分か軽くはなっている荷物を背負っている――それでも、食糧の分が減っただけで大して重さは変わっていない。
それでも森の中、二人の速度は均一……いや、ビスタートが抑えて走っているが、常人の速さを超えて走っている。
「そうだモミジ。そうやって足に力を集中させろ」
「……ふっ!」
ビスタートの声はもちろん聞こえているが、何分椛は現在ビスタートに追いつくので精いっぱいだ。返事をまともに返すことは出来ない。
ビスタートは手加減して椛の一歩前を走ってはいるが、それでもこちらが気を抜けばあっという間に差は開く。慣れていない分だけ集中し、ビスタートへ追いすがりながらも道々にある障害物たちに気を付けて駆ける。
すでにギルドから麓まで行く道の三分の一の距離を日が少し傾くまでに走り切っており、依然椛はコツを見つけながら少しずつ少しずつ速度を高めていき、ビスタートも椛が速くなるたびにまた一段と速くなって椛の前を走り続ける。
「精霊の力は常にどこにでも存在する。一箇所に留まって力を使えば一時的に精霊の力は減少するが、移動しながらの場合は常に精霊の力を補充していることになり、実質必要となるのは力を使うための指向性さえ安定させればいい」
走りながらもビスタートは椛に説明を続け、椛はそれを聞きながら吸収し、吸収した分を実行に移していく。
ビスタートと精霊が言った通り、習うよりは慣れろと言ったもので、来た道を半分超えたあたりでは椛も余裕を持つようになってきており、余裕となった今は足に対してだけでなく別部分にも力の働きをかけ始めている。主に荷物と、空気抵抗などに対して。
では、ビスタートの方を真似して学ぶことは出来ないのかと言えば、はっきり言って不可能であった。
なにせビスタートの足は帯電状態であり、足運びが目視出来ない速度である。勉強も何もないのだ。
「お、外壁が視えてきたぞ」
「確かに、そうですね」
視界遥か先に、薄らぼんやりとだが、灰色の高い壁が視えてきた。
それは徐々に近づいていくごとに全貌を顕していき、遂には門前にいる兵士が映るところまでになる。
そして、それに気づいた兵士は、驚愕の顔を浮かべていた。
「お、おい! ギルドマスターとそのギルドメンバーがめっちゃヤバい速度で帰ってきてるんだが!?」
「あ? なに言ってんだおま……ええ!?」
「というか、なんでギルドマスターの方は電気迸ってんの! あとあっちの娘も後方にものすごい風巻き起こしながら来てるんだけど!」
「いや、それより……」
「あ、ああこれは……」
「「ちゃんと止まってくれるんだよなっ!?」」
「あ、ヤベ止まるときのこと考えてなかったわ」
「「ええええええええええええええええ!!!」」
「いや、どうするんですか、ビスタートさん……」
「んーまぁ、メンドいし飛び越えるか」
「それでもいいですね」
「おーっし、お前らぁ! その退いてろよ!」
「「うおおおおおおお! 走れ、疾く走れ! まきこまれんぞおおおお!」」
「せぇの!」
「よいしょ!」
ドン、と門前にてビスタートが跳躍。それに続いて椛も跳んだ。
重力を無視した弾丸の速度で外壁を追い越し、最高点へと達すると浮遊感が生まれ、落下するまでの余裕が出来上がる。その時、街を一望すれば人々の営みと、一つ大きく飛び出した建物が視界に映る。建物は、ギルドだ。
「おーし、着地気を付けろよ!」
「わかってますよ!」
重量が仕事を思い出し、ビスタートと椛を遥か高さから地面へと引っ張る。
しかし精霊の力を使え、加えてここよりも遥かに高い場所から落ちるという経験をしている椛には既に着地は簡単なことであり、言わずもがなビスタートも余裕で着地に成功するのだった。
こうして、ビスタートと椛は帰還を果たした。
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