精霊の力、行使の方法
「さて、ここでの用事も済んだんだ。そろそろ帰るとするか」
精霊との契約が終わり、椛が感傷に浸ってから少しして、ビスタートがそう言った。
「ああ、そういえばそうでしたね。でも、今度はココを降るんですか……」
『ん? 何を言っておる』
「そうだぜ。どうして面倒なことをする必要がある」
「え?」
椛は、ここまで登ってきた道をまた通るのかと思うと、憂鬱になり口からこぼすと、それを聞いていた一人と一柱はそろって疑問の目と言葉を投げかける。
「簡単だろ、何せここから――」
『飛び降りれば、あっという間じゃからの』
どうしてこういった時だけ息が合うのか、とんでも発言をかましてきた。
「いや、いやいやいや。ここから飛び降りるってなに言ってんですか!? 落ちたら地面で潰れたトマトが出来上がるだけじゃないですか!」
椛はその言葉に早口でまくし立て、不可能だと言い張る。
しかし、そんなことはさしも知らず、椛の言葉にビスタートは返す。
「バカ野郎、オマエ何のためにここに来たと思ってんだよ。精霊の力を借りるためだろ? で、今のオマエは晴れて精霊の力が使えるんだから、大体のことは出来るようになってんだよ」
「いや、でも使い方わかりませんし……」
『慣れじゃな、慣れ。安心せい。基本的に我らの力は都合よくできておる。ここから地面に辿り着くまでに覚えられるであろうよ。主の観察力などがあればな』
「そうだな、習うよりは慣れろだ。行くぞっ!」
「え、まっ――」
椛の言い分は一つも通らず、結論に至ったビスタートは、椛の担いできた分の荷物も同様に持つと、椛を抱えて頂上から飛び降り、同時に椛の叫びはドップラー効果を出しながら重力に従って二人は落ちる。
『ま、わしも少しは伝授してやろう。何も教えずに主が死んでも困るしの』
二人にそって、精霊もついてきた。ただし、椛が真上に地面が見えるのに対して、精霊は真上に空が見えている体勢だが。
「まぁとりあえず、地面に到着するまでは約五分。そのあいだに、最低限の事を知ってれば死にはしない」
『うむ』
「わ、わかりましたから」
『では、基本の基本じゃな。その体勢は辛いじゃろうし、まずは体勢を整えてみい』
精霊に言われるまま、とりあえず空中にて振り回されていた体の姿勢を制御し、精霊と同じ目線になるようにする。
『うむ。では早速取り掛かろう。主、石は?』
「えーっと、これね。あ、それと、私は主とかじゃなくて、椛でいいわよ」
『そうか。ではモミジ、その石を今はとりあえず持っておれ。そのほうがやりやすいじゃろう』
「はいはい」
『準備が出来たら、まずは風を制御してみるとよい』
「いや制御って、いきなり難易度高くないですか?」
『安心せい簡単じゃ。そうじゃな、考えるなら、今モミジの髪は落ちてることで逆立ってるじゃろう?』
「まぁそうね」
『それを、いつも通りにしてみるとよい。そうじゃな、イメージで自分がいつも地上に立っていることを思い浮かべれば、自ずとできるじゃろう』
「自分が……いつも通りにある……」
精霊に言われた通り、椛は頭の中で考える。普段の様子を。
すると、椛はそこで髪に違和感を覚え、次の瞬間には風に振り回されて宙になびいていた髪が重力を思い出したかの様にストン、と落ちてくる。髪の毛の肌に触れるくすぐったさが、それを感じさせた。
『そうじゃそうじゃ』
「こういうことなのね」
『うむ。次に、勢いを殺してみるか』
「やってみる」
頭の中で、念じる。
と、ふわっ、とでも言い表せばいいか、下に落下することで体に叩きつけられていた風が突如その激しさを潜め、一瞬だが宙に浮いた錯覚を覚える。
つまり、成功したのだろう。
『ほほー、やるのう。これなら、落ちても大事にならぬよ』
「よかった……」
『じゃがこれで、ある程度は理解できたじゃろう?』
「ええ、まぁね。自分のイメージとそれを再現するだけの力があれば、できるっていることは」
『それでよい。あとは、使っていくうちにわかるであろうよ』
それから間もなく、ビスタートの掛け声によって地面は間近となり、それまでに精霊の力の使い方を覚えた椛は、難なく着地することに成功するのだった。




