辿り着いたは町、門超えし先にその場所在り
「はぁ、はぁ……まだどこにも見当たらないの?」
「そうだね~。結構歩いてるはずだからそろそろどこかにぶつかってもいいはずなんだけどね~」
「さすがに、足が痛くてそろそろ歩くのがしんどい……」
「あ、あはは……頑張って、椛ちゃん」
三人があの森から抜け出てから約二日が経とうとしていた。
特に何も所持していなかった三人は、夜になると火をつけて野営をするのではなく、道に沿って生えている木々の中へと身を飛び込ませ、野生のウサギらしきものや、鹿、他にも悼也が採ってきた果物を食べることでどうにかしてきた。
ただこれまでの道中、水を浴びられるような場所は無く、三人|(というよりも女性陣)は汗を洗い流すこともできないことが一番苦しかったともいえるだろう。
しかし、三人の目指している集落のような場所は未だに姿を見せることはない。
そんな中、椛がこのようなぼやきを言ってしまうのもしょうがないのかもしれない。
だがそのぼやきも、悼也の一言で全て吹き飛ばすほどに、三人にとっては希望となる。
「人工物でできた壁が見える」
「えっうそ、どこっ!?」
椛は目を見開き、遥か彼方へ視線を向ける。
正直に言って僅か、本当に僅かだが、地平線上の消失点ギリギリのところに、横にそびえ立つ灰色の壁が確かにあった。
それを細目で確認できた椛は、目を輝かせ、先ほどまでの陰鬱な雰囲気など何処かへ行ってしまっていた。
その姿はどこか、新しいオモチャを手に入れた子供のような元気っぷりである。
「行きましょう、せめて次のご飯時までにはあそこに辿り着きましょう、そして地面でなくベッドで寝ましょう、ええそうしましょう、そうするべきよ!」
「一気に元気になったね~」
「そりゃ元気にもなるわよ。というより、早く行くわよ。また道中変なのに絡まれるなんて以ての外なんだから」
「まぁボクとしては大丈夫だしいいけど、悼也君は平気?」
「ああ」
「よし、そうと決まったらスピードあげるわよー!」
歩いていた速度を徐々に上げ、最終的には長距離を走るペースになる三人。
椛は笑顔ながらも必死であるが、椋と悼也の方は余裕のある表情で椛の後ろをついていく。
ついに三人は、この世界に来て最初の人工物を作れる場所へとたどり着くのだった。
走っていたおかげか、一刻足らずでその壁のある場所にはたどり着いた。
しかし三人は、ここに来て一つだけ困ったことに気付かされた。
否、冷静に考えればこうなることぐらい予想できたことであるが……。
「お前たち、どこの者だ?」
壁があるということは、危険分子を勝手に中へ入れないために存在するものだ。
ということはもちろん、その中へ入るための場所があるということである。
それが、石の壁で出来た中で唯一分厚い木と鉄による補強のされた『門』である。
加えて門だけではない。門に近づくものを判断するために門番も当然存在する。
生憎その門番は三人と変わったところがない同じ『人間』であることとどうやら言葉は通じるらしいということに安堵を覚えたが、問題まだは三人に残っている。
「(どうするのよ、私たちこの世界での身分を示すものなんてないわよ)」
「(う~ん、ボクたちこの世界には存在しないというか、何もないからね~)」
そう、自己を証明する何かが三人にはない。
わざわざ門番を配置するほどなのだから、この中に入るにはそれなりの理由が必要になる、と椛は判断する。
では、どう言ってこの門番を説得、最悪避けて侵入するのか、を次に考える。
『(ここは正直に話すべきか……いや、違う世界から来たと言ったところで世迷言と言われてダメだ。下手をすればその場不審者扱いとして攻撃されるかもしれない。だったら……)』
「あの、門番さん」
「なんだ?」
「実は私たち、この近くで襲われてしまって、命からがら逃げてきたものですから自分のことを証明することができないんです」
これは正直に言って、賭けだ。
この世界での服装と三人の世界の服装は結構異なる。
三人の身に着けているものが化学繊維などで出来ていれば、この門番から推測するに動物の毛皮や、編んだ糸、金属の鎧など、三人の世界で換算するなら二世紀以上は前の物である。
頭の回る者ならばこの言葉にいくつか違和感を覚えることと、その服装に興味を持つなどするだろうが、この門番はそのことに疑問は持たず、少し顔をしかめるだけ。
「む、そうか。それは困ったことになったな。ちょっと待っていろ」
すると門番の男は椛に背を向け、何やら話している。
「はい、そ……す。び…………さん、そちら…………れば、……しいのですね?」
はっきりとまでは聞こえないが、どうやら男の上役ともいえる人物と話しているようだ。
しばらくして話し終えたのか、門番の男が振り返る。
「とりあえず、君たちを中に入れてもいいと許可が出たのでここを通す。
ただし、ここに入れる条件として、これからとある場所に行ってもらう」
「とある場所?」
「ああ。ここから奥に進むと、大きな十字路に出る。そこを左に曲がると建物の中でも一際大きい場所がある。そこに向かってもらう。
ちなみに、暗くなるまでにそこへ辿り着かなかった場合、不審者として徹底的に君たちを捜索し、最悪その場で手を下すことになる。くれぐれも、気を付けてほしい」
「ありがとうございます」
「結構。では、通ってよし!」
門番の男がそう声を上げると、門の両扉が内側に向かって開いていく。
三人が中へ入っていくと、門の内側には他に二人の男。
どうやらこの二人が、門の前にいた男が許可を出したら開ける役割のようだ。
その男たちのにも確認できるレベルで礼をすると、笑った表情で片手を振り返してくれた。
三人は門番の男に言われた通り、さっそく狭くない道を進んでいく。
この場所……町にいたってはなかなかの活気で、道を完全人塞ぐほどではないが人が常に行き交っている。
十字路となっている大通りに辿り着くと、そこはさらに賑やかさを増す。
いたる所に出店が開かれているが、しっかりと秩序ある配置がされていて、客である人たちが詰まりにくいように奥に行けばいくほど的屋や何やら、ゲームをして景品を手に入れるものだったり、手前の方は手に持って食べられる店などがあり、何かの肉を棒に刺し、焼いてそれを食べるところなど、これもまたいろいろとあった。
椛の好奇心が、そこへ行きたいと思わせるのだがそれを理性で捻じ伏せ、十字路の左通路へ入っていく。
そこをしばらく進むと、他の建物とは明らかに違う建物が三人の視線に入ってくる。
「おっきいね~」
椋の言う通り、そこは他の建物と違い大きさの桁が違っていた。
他の建物とは違い、広い敷地を囲う柵、そこにある鉄の門をくぐった先にある建物。
そこは実際のところ他の建物とは大きさが変わらない。
では、椋は何が大きいと言ったのか。それは、正面の建物の後ろにそびえ立つ二周り以上は大きいと思われるそこからは、度々金属同士のぶつかる音や、誰かの叫び声、他にも壁や地面と思われる場所に何かをぶつけているような音。
なんとも、汗臭そうな場所ね、というのが椛の感想であった。
「すごいな~。道場のとタメが張れるぐらいの大きさだし、結構頑丈な材質で出来てるね」
「椋、そういうの詳しかったっけ?」
「ううん」
「はい?」
「いや、ま~なんとなくだよ、なんとなく。
それより椛ちゃん、いつまでもここに立っていたら迷惑になっちゃうし、中に入ろう?」
「それもそうね」
とりあえず奥にある大きな建物――椋的に言うなら道場――のことは気にせず、目の前にある小さいの方の建物へと三人は向かう。
黒茶の質のよさそうだが、長く使われているためか少し古びた扉の取っ手を椋が掴み、引く。
木の軋むような音を立てて扉は開き、椋、椛、悼也と順番に建物の中へと入って行く。
そして出迎えたのは――
「よく来たな、俺はこの『ギルド』の責任者、『ギルドマスター』を務めるビスタートという。よろしくな、嬢ちゃんたち」
茶ベースの髪の中に所々金の色が混じり、その顎には無精髭を生やした男の声だった。
はい、なんとか続きです。
この物語は一応ファンタジーです。人の動きとかファンタジーですし、まぁきっといろんなところがファンタジーです。
ご意見やご感想などあれば嬉しいです。
自己満足な部分が激しく多いため読みづらい部分があると思いますので、そういった部分を指摘してもらえるとありがたいです。