霧抜け目覚めるベッドの中で
「ん……ここは?」
意識が浮上し、目を覚ます椛。
「ん、んん? どういうこと?」
辺りを見回してみればそこはそれなりに広いテント小屋だとわかる。
そして椛は、そこに備え付けられているであろうベッドに体を横にしていた。
「う、ううん……なんだろう、記憶がない。
たしか、あの人と霧に入ってから……どうしたんだっけ?」
あの時、ビスタートとあの濃い霧の中へと入って行ったことは覚えていた。だが、そこから先が思い出せないのだ。
「……わからないものはどうしようもないし、とりあえず、ココがどこなのかを確認してみましょうか」
わざわざ思い出せないことを無理に思い出す必要もないと判断した椛は、ベッドから這い出て、自分の服装その他を確認する。無事だった。
テントの中を一通り回ってみれば、簡単な休憩所の役割をしていることがわかる。
次に、外へと出た。
「っ……眩しい」
テントから出て早々に日の光を顔面に直射し、一瞬視界が真っ白になるが、やがてそれも慣れてくる。
そして、視界へと映り込んできたのは――
「おう、目が覚めたか。調子はどうだ?」
上半身裸であり、水を浴びていたビスタートの姿だった。
「いや、まぁ、どこもなんともないですけど……」
「そうか、それならいい」
といっても、椛としては別段驚くこともなかった。というより、勝手に見たこっちが驚くというのはお門違いであるし、見られて驚くというのが無く平然と話しかけてきたので椛も気にしないようにして話していればよいだけだった。
「それで、ここはどこなんですか?」
椛は、一番知りたいことをビスタートに尋ねる。
「ああ、ココはあの深い霧を抜けてすぐの場所だな」
「霧? いつ、抜けたんですか?」
「ああーそうか。いやな、どうしてお前がテントで寝てたかっていうのを説明すると、霧の中で倒れたんだわ、オマエ」
「……マジですか?」
「マジだよ」
確かに、思い返してみればなんとなくだが、椛の中でそんなことがあったのかもしれない。出なければ現状は説明できないし、信じるしかないのだろう。
「でしたら、その、ここまで運んでいただいてありがとうございます……」
「まぁいいさ、あんな場所であの距離と時間。オマエが倒れてからオレが担いで運んで霧抜けるまでに結構も時間は掛かったが、あれはしょうがないだろう」
ビスタートの言葉は本心であり、椛がそれがわかったのでそれ以上は何も言わないことにした。
「それより、オレもそろそろ終えようと思っている。オレは中に入ってるから、水を浴びたいなら浴びると良い」
「そうですね。そうします」
そう言うや否や、ビスタートは水浴びを終え、一通り体をふき終えるとテントの中へと入っていく。
椛はそれを確認してから、少々湿気ていた服を丁度いいように掛けられる枝へと脱いだ服を掛け、水浴びを始めるのだった。
久しぶりの水浴びは、椛の肉体の汚れと一緒に、気分もリフレッシュするのだった。