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Drifter  作者: へるぷみ~
Aランクと精霊契約
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死した襲撃者たち


 「おい、モミジ。起きろ」

 「ん……、交代には、まだ早い気がしますが?」

 「ばっか、ちげぇよ。敵さんだ」

 「っ! 先にそれを行ってください!」


 まだ夜の帳も落ちて間もない頃、二人同時に睡眠をとるのは危険と判断し、交代交代で見張りをすると相談の結果、もみじが三度目の睡眠に入った時。

 そろそろ意識が闇に落ちようとした瞬間、それはビスタートの声によって妨げられた。

 理由は、敵襲。

 ビスタートの言葉を聞いて鈍くなっていた脳の働きを椛は即座に活性化。無理やりのことで軽く頭痛と眩暈が起こるが、首を振って振り払う。いつまでも寝ぼけてなどいられない。

 目を覚まして次に椛がとった行動は自分の戦闘の際に持ち歩いているポーチ。寝床のすぐ横に置いてあったので横目でそれを確認して手に取り慣れた手つきで腰へと装着。

 準備が出来たところでテントから飛び出す。


 「相手と数は?」

 「そうだな、ざっと十一体。影からして、あれはゾンビだな」

 「多くないですか?」

 「まぁな。だが、そうでもない。ここで出てくるゾンビの素はここで死んだ人間だ。こういった後天的に発生したゾンビっていうのはなぜだか知れんが火に敏感でな、群れを成して近づいてくる」

 「だから、何体かのゾンビは剣やら槍やら装備してたり、甲冑装備してたりするんですか……」

 「そういうことだな。生前の意識が刷り込まれてるんだろう。無意識にでも」

 「対処は?」

 「ああいったゾンビは基本的に火に敏感で近づいてくるが、なんだかんだでゾンビはゾンビ。高温の熱か、また逆に極度の冷気に弱い。それと、ヤツらは腐っていることから病原菌なんかもあるから、極力素手での接触は避けろ。

  ゾンビは視覚ではなく聴覚や触覚を優先して反応する。そこを逆手に取れば楽だろう。ま、頑張れや」


 そういうなり、ビスタートは後ろへ下がっていく。そして椛も、その行動の意図に気づく。

 オレは手を出さないから自分でどうにかしてみろ、ということなのだろう。だからこそ、ゾンビの特徴や弱点、その他もろもろを教えたということだ。

 このビスタートの行動に対して椛は別段気を咎めるつもりもない。というより、本来自分で一人でこの霊峰には来ているので、道中一人だけでは恐らくもっと苦戦していただろうし、下手をすれば死んでいたかもしれない。加えてビスタートはこうも言っていた。保護者参観、だと。


 「ま、本来なら私一人が相手をするわけだったんだし、当然でもあるわよね」


 自分に聞こえる範囲での独り言をつぶやき、迫ってくるゾンビからは目を離さない。

 ゾンビの動きは緩慢で、集団は密着しながらの移動もあって進行速度は亀のように鈍い。

 ゆえに、椛は手早くポーチをまさぐり目的の物を探し出す。

 一つは赤茶の瓶。もう一つは、真っ黒な粉の入った小袋だった。

 椛は即座に瓶の方を振りかぶり、先頭にいるゾンビめがけて投げる。狙いは逸れず当たり、当たった衝撃で瓶は割れ、中のモノがぶちまけられる。

 当たったことを確認すると、次に椛は黒い粉を小さなカップでひとすくいし、今度は空いた手にいつの間にか握られている小さな箱へと入れる。その瞬間、箱の内部が燃え盛った。

 それを確認した椛はまたも先頭にいるゾンビへと箱を投擲。放物線を描いてゾンビへと近づく。動きの緩慢なゾンビは避けるという行動以前に飛んできている箱もよくわかっていないだろう。

 まもなく、箱がゾンビへと当たる。正確には、ゾンビに付着している液体に。

 それは一瞬の出来事。箱の内部の炎と割れた小瓶から飛び散っていた液体が触れた瞬間、辺り一面は焦土と化した。

 ゾンビは燃え崩れるという過程を無視して黒炭となり、その炎の勢いは止むことなく辺り一面を燃やし尽くしいていく。よく視てみれば、地面や近くにある岩壁が熱の余波によって溶け、それなりの位置に離れている椛の場所まで熱風は飛来し、温められた湿気た空気が辺りを包む。

 それからしばらく、燃やす対象のいなくなった炎は次第に小さくなっていき、遂には消えた。

 燃えていたその場所には、小さな山となった黒炭があるだけ。


 「見事だ」


 それらを椛が見守っていると、後ろから拍手と同時にビスタートが向かってくる。

 椛は、それに反応はせずに見ている。


 「よくもまぁ、そんな調合反応を覚えてるもんだ。大体、ああいった専門用語の塊である本の解読は至難の業だ」

 「まぁ、私の場合はりょう悼也とうやが接近戦をやってくれるので、私の場合はその手助けのために言語やら何やらを覚えてるってだけですよ」


 ビスタートの賞賛に椛はあっさりと返す。

 このあっさりと返した言葉には本来とてつもない努力などが必要なわけだが、椛の場合はそれを当たり前としている面も存在しているということであろう。


 「そうか、まぁそれならいい。とりあえず、現段階で他に魔物はいない。オマエを起こしちまったから、まぁ次の交代分オレが務めるさ。ゆっくり休んでな」

 「では、お言葉に甘えます」

 「おう」


 そういうと、椛はテントへと戻り、ビスタートは焚火のそばで腰を下ろして見張りに戻るのだった。



誤字脱字、ご報告いただけましたら早急に直してまいります。

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