辿り着くは霊峰
「さて、存外時間もいらずにここまで来れたわけだ……」
「はぁ、はぁ。ペース速すぎませんか?」
かれこれ街を出て約四日。
本来であれば一週間は片道掛かるところを三日は縮めたのである。元来他二人とはスペックの違う椛にとっては息切れしても仕方のないことだった。
対して、なぜだかは知らないがついてきたビスタートは息切れなどとは無縁の様で、いつも通りの表情だった。
「そうでもないさ、とりあえずは今日霊峰の麓にベースキャンプを作ると言っただろ?」
「確かにそうですね」
「ただテントを張るだけじゃなくてだな、周囲の危険も減らして何事かがあってもすぐに戻れるようにするんだよ。だから、まずは安全場所の確保になる。そして次に、テントの設置だな」
「だとすると、手分けして安全確保をするということですか」
「いや、その必要も実際にはないな」
「は?」
「まぁ、視てろって。……よっ!」
安全確保をする必要がないと言ったビスタートは、椛にそれだけを言うと少し離れ、懐をまさぐり何かを取り出す。そしてそれは、紫色の手の平大の水晶だった。
ビスタートはその水晶を掲げる。
次の瞬間、水晶からパチンバチン、と音が発生し、それと同時に電気が迸る。
やがて、水晶はビスタートの手を離れると宙に浮遊し、二メートルか三メートルあたりだろうか、それほどになったところで静止する。しかし、水晶から音は消えたが、未だに電気は迸っていた。
「いっちょあがりー」
「一体、何をしたんですか?」
当然、今の現象など椛は知るわけがないので疑問を発する。
「ああ、今ので結界を張ったんだ」
「結界……ですか」
「ああ。俺とモミジを除いた生物は入れないように命令してあるから、これで安全は確保できた」
「はぁ……」
「というわけで、テントを張ろう。ここに来るまでで結構体力も使ったしな。休みたいだろう?」
「確かに、それは賛成です。さっさと作業に移りましょう」
椛にとってはビスタートのやっていることは理解の範囲外であり、それを知るすべもないために椛は思考を一旦放棄。目の前にある作業へと思考を移行させた。
二人であることと、椛が通算何度目かのテントの設置によって一通りの作業は出来ることもあり、テントの設営は十分ばかしで終了。
まだ日は頂点へとたどり着いてはいなかったが、今日のところは進行を中止となった。
霊峰の登頂は、明日から。
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