保護者参観
「で、どうして私についてきてるんですか、ビスタートさん」
「ん? 昨日言ったろ? あの霊峰は一人で行くのは危険だって」
人々が通ることによって踏み固められ、自然と整地された道を歩く中、椛は自分の斜め後ろで歩いている人物に向けて視線は向けずに声を向ける。
それに対して、ついてきている相手も、簡素に、まるでそうでないことがおかしいとでもいうように答える。
「それは知ってます」
「なら問題はないだろ」
「いや、そうではなく……仮にもギルドマスターである、ギルドの最高責任者が、どうして、私について来るんですか?」
椛にとって知りたいことはどうして、自分の依頼などで引っ切り無しであろうビスタートが、椛についてくるのかということ。それも、表的なものでなく、ビスタートの本心として。
「保護者参観で」
「は?」
それに返ってきた言葉は意味の分からないものだった。
椛もそれに意識をとられる。
「というかな、仮にも、ってなんだ仮にもって。オレはれっきとしたピメンタのギルドマスターだろうが。誰がお前たちどこの誰とも知れない人間の生きてける道を創ってやったと思ってんだ」
「感謝してマース」
「扱い酷すぎるだろう……」
「冗談ですよ、感謝してます」
「そうか」
「で、保護者参観とかどうでもいい建前はとかはどうでもいいんで、本心狙いはなんなんですか?」
「どうでもいいて……」
歩を緩めることは無く、二人は目的地に向けて歩いていく。地図を確認することもなく、椛は前日に調べており、ビスタートは常日頃から外へと出るためピメンタは庭も同然である。
会話をしながら、というのは、まぁ一つの暇つぶし程度だからだろう。
「まぁいいか、言ったって別に」
「さぁ、どうぞ」
「せかすなって。……用があんだよ、久々に」
「それは?」
「うーん、どう答えたらいいかねぇ。ま、いけばわかる」
「自分でもわからないってことで?」
「そういうことだ」
ならば、これ以上聞いたところで意味は無いし、ビスタートが本気で隠し事をすればそう簡単には見抜けない。椛はその会話をあきらめることにした。
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「ここをキャンプ地とする!」
「はぁ……」
夕暮れ時のマジックアワー。
もう時刻も経たずして唯一の明かりであった太陽が沈もうとしたとき、ビスタートは突然叫んだ。
ビスタートがキャンプ地にするなどといった場所はどうやら目的地である霊峰からの川の様で、危惧されていた水の確保や食料の調達は十分に解消できるぐらいの好条件のようだった。
「とりあえず、このペースであれば明日の昼までには霊峰の麓までは行ける。ただ、様子を視て明日は麓まで行けたらそこにベースキャンプを設置する。
それと、出来る限り食料の方は減らしたくはない。というわけで、オレはこれから狩りだ。その間に、モミジはテントの設置と火をおこしといてくれ」
「わかりました」
ビスタートは我が身ひとつで森の中へと消えた。
椛も、日が暮れきる前にテントと火は必要だったので、素早く簡易式のテントを立てると、持ってきている荷物の中から可燃性の燃料と発火用の石を取出し、少し手間取りながらも真っ暗になる前に火はおこせて一息をついた。
それから少しして、森の奥から草木を分けて歩く音が椛の耳に入る。
だが、その正体は既に分かっていたために、彼女は落ち着いた表情で形の良い石に座って火を眺めていた。
「おーう、帰ったぞー」
「はいどうも、って、なに捕ってきてるんですか……」
「クマー」
「いや、そりゃ見たらわかりますよ」
「いやいや、なかなか元気にケンカ売ってきたからな。これはもう食うしかないと。ああ、安心しろ、解体なら出来る」
「そうですか……」
晩飯は、ちょっと豪華な肉焼きだった。
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