三人の行く先
次の日、椛たち三人は朝早くからギルドへとやってきた。
ビスタートに、昨日の件の話をするためである。
「よくきたな。話はまとまったか?」
「はい」
そして三人が来るのを待っていたかのように、ビスタートは受付前におり、三人が姿を現すと声を掛けてきたので椛は端的に返し、ビスタートも一つ頷くことで奥へと消える。
三人はその行動をついて来いという意味だとすぐに察しついていき、また昨日と同じ場面になる。違うのは、それが話し合いではなく決定事項を伝えるというだけ。
最初に椛はビスタートから借りていた地図をテーブルに広げる。
「私たちが向かう場所は決まりました。悼也がココ。椋はココ。そして私は、ココです」
「ふむ」
出した地図の場所に椛は指を指してどこへ行くのかを示していき、ビスタートはそれを見て一つ感慨深い声を漏らすだけ。
椛が指を指したのは、悼也が南、椋は東、椛は北に位置する赤丸の場所だった。
「一ついいか?」
「はい」
ビスタートは表情を変えることは無く、視線は地図上のまま椛へと問いかける。
「どういう意図でそうしたんだ?」
「そうですね、視野を広げるためです」
「そうか……だが単独での行動は危険だぞ」
「いずれは通る道です。今やろうと後でやろうと変わりません」
「それもそうだな。よし、わかった。それは認めよう
で、それはいいが、とりあえずお前たちが行くことになる場所への指導をしないといけないな」
「よろしくお願いします」
「まずトウヤからだ。お前の行く場所は洞窟。道は狭く、複数人での行動に適していない場所だ。明かりが無ければ視界の利かない空間であり、そこにいる魔物たちは全体的に視覚が劣化してるが、その分嗅覚と聴覚が並はずれて高い。ここにいる精霊だが、情報では闇の精霊と、水の精霊、石の精霊が多くいる。ただ、洞窟としての特性上、闇の精霊と石の精霊の方が精霊としては上位に値する精霊の方が多い。だから、契約のために持っていく石は、黒色か茶色がいいな」
「………………」
「次にリョウ。ここら辺は川や湖の水源が多い。それ故に水場が多いことは必然、様々な木々や草花が多いところだ。精霊はお分かり通り水の精霊と木の精霊。他にも草や花の精霊もいるみたいだがな。ただ、ここでは木の精霊と水の精霊が上位に君臨している。だからまぁ、青色か緑色の石をお勧めするぜ」
「は~い」
「最後にモミジ。お前はある意味一番面倒なのを選んだなぁ。ここは霊峰に組する神聖な山だ。神聖だからといって魔物がいないわけじゃない。むしろ逆だ、ここの魔物は厄介なのが多く存在する。山の外壁には飛行する魔物はいるし、頂上へ向かえば向かうほどに霧が視界を覆っていく。半端な装備で登れば簡単に死ねるぞ、それは心得とけ。で、ここに存在する精霊は、まぁなんていうか、一体しかいない。しかもコイツは頂上にしかいないんだよ。で、なにがいるかってのが風の精霊でな。否応なくこいつは上位精霊だ。契約できたなら黄緑色の系統の石がいい」
「……わかりました」
「さて、大まかにいっちゃあこんなもんだ。詳しい話なんかは他のギルドメンバーやアネモアから資料を借りるなんかして情報を集めてくれ。あとは、各自明日から二週間以内に帰ってこい」
「わかりました」
「失礼しま~す」
「…………………」
ビスタートの言葉を最後に、三人は部屋から退出する。
そして部屋にはビスタート一人が残り、その視線は地図上の、椛の指さしたところへと向いていた。
「……さて、俺も久々だがもう一度行くか。それに、あそこは元来一人で行く場所じゃないしな。って、俺が言えた義理もねぇか」
最後の一言は、自嘲めいた言葉でもあったが、ビスタートはそれだけ言うと地図を丸め、元の保管場所にしまうと部屋を退出するのだった。