二か月の歳月と精霊
「ミモジュの群れ討伐、」
「お疲れ様でした」
「こちらが報酬になります」
「ありがとうございます」
あれから、日が暮れないうちにギルドへと帰ってきた椛、椋、悼也の三人は、受付をしているアネモアに依頼の完了を伝え、証拠を渡すとそれと引き換えに報酬を受け取る。
「おう、お前ら。今依頼を終えたところか?」
すると、どこから現れたか後ろにはここギルドのギルドマスターであるビスタートに呼び掛けられる。
椛は、それに頷いて返した。
「そうか、それならよかった。三人にちょいと話がある。来てくれ」
それだけ言うとビスタートは受付の奥へと行き、三人もビスタートについていった。
ついてきて辿り着いた場所は、ビスタートに三人が異世界の人間であることを明かした部屋。
その時を再現するようにビスタートが先に入り、椋、椛、悼也と順に入っていく。
ビスタートは既に向かいの椅子座っていたために、椛も遠慮することなく対面の椅子に座った。
椋と悼也は変わらず椛の両端にて立っている。
「さて、お前らがこのギルドに入って二か月。これまでの実績といえばそこらのルーキーなんざ目でもねぇもんだ。だから、これはいい機会だと思ってる」
「どういうことですか?」
開口一番にビスタートが言ったのは三人のこれまでの経歴、そして何かをさせようと思わせる言葉。
無論それに気づかないわけがない椛はビスタートを注意深く視る。
「ああ、わずか一月でCランクだったモミジとトウヤはBランクに上がっており、Bランクだった椋はそれに応えるように実績を重ねてった。そしてお前たちは、Aランクに上げるための条件は既に満たされている」
「はい」
「ただ、前にも言った通りお前らの目指すのはAランクではなく、ドリフターだ。こいつにはこいつで別の試験があるが、今はこのAランクになるための条件を話す」
椛は答えず、ビスタートは続けて話していく。
「ただその前に、ちょっと聞きたいんだがいいか?」
「なんですか?」
「お前ら、『精霊』という奴はお前らの世界にいたか?」
「は? 精霊……ですか?」
「そうだ」
「ええと、私たちのいた世界にはそういったのはいません。というよりもおとぎ話の世界にはいますが」
「いないのに、創作の中ではいるか。おもしろいものだな」
「ええまぁ。それで、精霊という話題を出したということは精霊がいて、何かしなければならないということですか?」
「察しがいいのは助かる。
明確に言うならば、Aランクになるための条件として精霊と契約するというのが一番手っ取り早い方法だ。それで、今のモミジたちの実力であるならば、いけると踏んだ」
「その精霊と契約するというのは、どういった利益などをもたらすんですか?」
椛は魔物などというものがいるのならば精霊がいてもおかしくないと悟り、それならばその精霊と契約については大きく関心を持った。なにせ、契約をするというのはリスクが大きいからだ。
「そうだな、精霊にも多くの種類がある。いや、無限にあるという捉え方でいいか。
精霊っていうのは世界全てに存在するものだ。それが集まった時、精霊は自我を持ち、他の生命体とも交信できるようになる。それは様々な要因によって精霊は変化し、発生するんだ」
「はぁ」
「そして、そういった自我を持った精霊というのは自然の理に作用する力を持っている。
例えば火の精霊ならば、何もない空間でも火をおこすことが出来たりする。
その代わりといってはなんだが、アイツらは自分と契約するものを見極めることをしてくる。それをクリアすれば、晴れて契約ってわけだよ。
で、これが契約した精霊の力を宿したもの」
ビスタートはそういうとテーブルに紫色の宝石を置く。
その宝石は、奥に電気が発生しているのがはっきりと見える。
「これは、精霊と契約した際にその力を入れる容器みたいなもんだ。条件は透き通った天然の石。それさえ満たせば精霊の力は石に保存される。それと、忘れちゃならないのが石と精霊の相性だ」
「相性?」
「そうだ。基本的には精霊を視れば把握できるが、例えばこれ。奥に雷が視えるだろ。つまり、この石に籠められているのは雷の精霊の力ってわけだ。他にも、赤い石ならば火の精霊とかな」
「だとすると、色が合ってない場合はどうするんですか?」
「ああ。さっきも言った通り、精霊の力を保存するだけなら天然の透き通った石でいい。ただ、相性という場面で色の違うものだと、精霊の力が十二分に発揮されなくなるだけだ。
例えば、赤い石に水の精霊の力が入っているとしたら、水の精霊の力は半減以下の出力になったりする」
「そうですか……」
「ま、こういうのは覚えるんだったら感覚で覚えた方がいい。それよりは、今からお前たちにはどの精霊と契約しに行くかを決めてもらいたくて呼んだんだ。
地図がある。見てみろ」
ビスタートが取り出したのは少々古い地図だが、それでも使い込まれているというのはよくわかる。
そしてその地図には、所々赤マルがつけられているのだ。
「あの、この赤マルは?」
「その赤い丸の部分に、多く精霊は存在するってことだ」
なんとも親切な地図だった。
「とりあえず、お前たちには、精霊と契約するために行動してもらいたい。なにか、契約したい精霊の要望とかはあるか?」
「……いえ、私は少し考えさせて下さい」
「突然の事だし、ボクもかな~」
「………………」
悼也は横に首を振った。
椛は自分で考えることがあったので猶予をもらったが、椋もそうするようだ。
「そうか。まぁこの地図を一日貸すから、よく考えてきてくれ」
「ありがとうございます」
「おう。そんじゃ、また明日な」
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