飛ばされた異世界はファンタジーでした
触らぬ神に祟りなしという言葉があるように、世界には触れてはならない秘密が存在する。
その過程が何であれ、結果として見てはならぬものを見てしまったりだとか、やってはいけないことをやってしまったりだとか、踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったりだとか、そういったことをしてしまった後では大抵ロクな事が起こらない。
そしてここに、軽くだが確かに、その秘密に触れてしまったものが三人いた。
当然本人たちはそのことに気づいてはいない。気づいてしまっているならまだ心の準備だとかあっただろう。
だがそんなもの、現実は待ってなどくれはしない。
今は刹那であり、現在は過去になり、未来は現在へと常に変わっていく。
つまり何が言いたいのかといえば、変なもの見つけたからって軽々しく触ったら厄介なことにいきなり巻き込まれるよ、ということ。
それでも現実、何とかなるものは何とかなるもので、その三人もまぁ、何らかの形で何とかなるのだろう。
だからここで見せるのは、その三人がちょっと非現実的なことに出会って元の現実に帰ってくるまでのお話。
それ以上の何かは三人の未来を見たところで何も無い。
だから少しだけ、あなたの時間をこの三人に費やしていってほしい。
あなたにとってこの話が有意義であったか無価値であったかは、このお話が終わった後に……。
それではどうか、夢の世界をお楽しみあれ。
広い森。
地面のほとんどを木で覆っている森の、その中でも僅かにしかない光が地面に届く場所。
その場所に、三つの影が映っていた。
もちろん何もないところに影は出来ない。
その場所にいたのは、二人の少女と一人の少年。
ただ、その三人……特に少女二人の方は空気が少しだけ重いものであった。主に一方的にだが。
その重い空気を醸し出している少女は腕を組んで、もう一人の少女を見下ろしている。
ちなみに、二人の少女の身長は大して変わりわしない。ではなぜ、見下ろせるのか。
それは、もう一人の少女が正座をして立っている少女の前にいるからだ。
「………………」
「………………」
立っている少女は無表情ながらもその視線は冷ややかなもので、正座をしている少女は苦笑いを浮かべながら視線を右に逸らしている。
そのような時間がそれなりに経っていただろうからか、立っている少女がその冷ややかな視線を向けたまま喋りだす。
「ねぇ、椋?」
視線と同じようにその声は冷たく、椋と呼ばれた少女はその言葉に視線を逸らしたまま答える。
「はい……」
「私たちさ、どうしてこんな森の中にいるのかしら?」
「それは、どうしてでしょうね?」
「私の記憶が正しいなら、最後にいた場所は土臭い洞窟の中だったはずなのよ。
それが、どうやったらこんな森になるのかしら?
……ああ、でもそうね。確かあなたが洞窟にあった『押すな、絶対!』って書いてあったスイッチを押した途端に、私たちが立っていた地面がいきなり消えて穴に落ちたんだったら、それが原因とみてもいいわよね?」
立っている少女はまるで、というよりも明らかに現在に至るまでの経緯を説明するように椋へと話す。
椋はその言葉に――実際そうはならないが――身体を小さくする。
ただそれでも、椋は何かを訴えるように、言い訳しかならないことを話す。
「で、でもね、椛ちゃん。
あんな風に、「押すな!」って書いてあるスイッチなんて見たらつい押したくなっちゃって……はい、すいませんでした」
弁解しようとしたところで椛と呼ばれた少女と視線が合い、その言葉は即座に謝罪へと変わる。
「はぁ……。
今更責めたってもうどうしようもないのは私だって理解してるわよ。
そんなことよりも、優先すべきはここはどこなのかってこ、と、に、なるん……だけ……ど……」
溜息一つ、空を見上げながら喋っていた椛の言葉が最後にいくほど行き詰まり、最後には空へと視線が釘づけになる。
その変化に疑問を感じた椋も、椛同様空を見上げ、絶句した。
「なに、あれ?」
「空飛ぶ……トカゲ?」
開けた見るからはわずかにだが空を見ることもできる。
しかしその空が、数秒の間影に覆われ光は届かなくなる。
光を遮ったのは、体中が鱗で覆われ、翼を生やし、その巨体ながら空を飛んでいるトカゲだったからだ。
否、ゲームなどで出てくるものとして表現するならば、それは『竜』と呼ばれるものだった。
竜はもちろん三人のことなど気づくわけはないので、そのまま空を飛んでいき、遮られていた光はすぐに戻ってくる。
「あれは……トカゲっていうより竜じゃない?」
「ああ~確かにそうだね~」
「………………」
「………………」
沈黙。
目の前に見えた光景を信じきれないと人は、現実逃避するか思考を停止させるが、二人の少女は前者から後者になっていた。
そこに風が吹き、あたりの木々が葉と葉をぶつけ合う音で思考を再開させる。
「……ちょっと、これってもしかしてアレなの?」
「ボクも考えたくないことがあるんだけど……」
「でも、それしか考えられないわよねぇ」
「うん」
「「自分(ボク)たちとは違う世界に来た」」
正直言っていまだにこの少女二人は現実を認めたくない。
しかし、それ以外では今現在を説明できる証拠といえるものが無い。
それ故に、認めざるおえなかった。
「だけどそうなると、この世界?には私たちと同じようにコミュニケーションが取れるナニかがいるかどうかよね……。
いや、それよりもまずこの森にいること自体があまり良いことではないわ」
一度認めれば椛の考えはすぐにまとまっていく。
どうしようどうしよう、とあたふたするより、そうなのかならこうしよう、と状況にすぐさま順応し自らに起こるリスクを最大限避ける方がよっぽど建設的であるのを彼女は知っている。
考えに一区切りのついた椛は、一つ溜息をついてすぐにその顔を引き締める。
「椋、悼也、とりあえずこの森から抜けましょう。
さっきの竜みたいのがうじゃうじゃいたら困るけれど、それよりもまず先に安全を確保しないと。
悼也はここからどこへ向かったらすぐに森を抜けられるのか調べて。
それから、椋はこの周囲の安全の確保。それと、何か近づいてきたら問答無用で逃げるわよいい?
それじゃ、十分後にここに戻ってきて」
「りょ~か~い」
「ああ」
椋は元気よく返事をし、正座を崩し立ち上がると森へと消えていく。
悼也と呼ばれた少年は簡潔に返事を返すと、もたれ掛かっていた木の枝を掴み登っていく。
そして命令を下した椛も辺りの把握に森へと消えるのだった。
「どうだった?」
十分後、少女二人と少年一人は元の場所へと集まっていた。
「あたりに危険はなかったよ。ただ、少しだけ地面に木の根が張っていたりしてたから気を付けて進まないと躓いて怪我するかもしれないぐらいかな」
「ありがとう、椋。悼也は?」
「ここから南西に行くと森を抜けられる。そこに整理された大きな道があった」
「整理された道ってことはちゃんとした知能を持っていて、二箇所以上の集団のいる場所がお互いに交易をしているってことでいいかもしれないわね。それならなんとかなるかも」
椋と悼也からの報告を聞いて安堵し、椛は次の行動へと移していく。
「それじゃ、まだ日も高いうちに森から抜けましょう。
暗くなったらそれこそ何が出てくるかわからないうえに対処も遅れるわ。
悼也、場所がわかってるのはあなただから先導頼むわよ」
「了解した」
「よろしくね~悼也くん」
こうして、悼也を先頭、真ん中に椛、殿が椋、というお互いの姿が確認できる距離以上は離れない位置取りで森を進行する三人。
それから二時間ほど、特に変わり映えのしない木々の覆う道を進んでいく。
そしてそのまま、椛の心配していた出来事は特に起こることもなくついに、三人は森を抜けるのだった。
「やっと出れたー!」
二時間ぶりにまともな光を浴びて、少しの間だけ目を細める椛。
森を抜けると視界一面に広がる平原と、その先にぼんやりと見える大きな山。
そして、悼也の言っていた幅二メートル以上はあろう道がはるか先にまで見える。
「どっちかに行けばどこか集団で生活している場所に辿り着くわけだけど……どっちに行きましょうか?」
「そういうときは~、これ!」
どちらへ行くか悩んでいる椛の前で、椋はどこからか拾ってきた木の枝を見せつける。
「それでなにをするって?」
「いやだな~、もちろんこれを投げて落ちた時の枝の方向へ行けばいいんだよ!」
「うん、まぁわかってた。
それに、変に慎重になってストレス溜めるよりは運任せでもいいか」
椛の了承も得れたところで、椋は木の枝を空高く放り投げる。
そんなこんなで、三人の異世界ファンタジーな物語が幕を開けたのであった。
「くえー」
「あ、枝持ってかれた」
「返して~」
「………………」
…………幕を開けたのであった。
拙い文章でしたが如何でしたでしょうか?
精進するよう頑張ります。
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